2012 Fiscal Year Research-status Report
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23530993
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
土井 妙子 金沢大学, 学校教育系, 教授 (50447661)
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Keywords | 公害・環境教育 / カリキュラム研究 / 水俣病 |
Research Abstract |
今年度は、患者さんや運動家たちへのインタビュー調査を実施するとともに、水俣市史や水俣病に関する各種書籍を読み、地域内の政治、運動、文化をの変遷を大きく総合的に捉えることを目標とした。この課題は、来年も継続して実施する。 地域内が分裂し、地域政治、運動からも大きく影響を受ける公害教育は、地域理解が欠かせない。水俣はチッソ城下町といわれ、患者たちが差別を受け続けた歴史がある。その転換地点として、「もやい直し」を提唱した吉井正澄市長期(1994-2002)を挙げることができる。吉井市長は、地域内の分断を編み直し、再生させようとした。この大きな転換は、長年の反公害運動や裁判動向、チッソの地域社会での立ち位置との関係性の結果である。小・中学校での公害教育実践は、1970年代からすでに市内全域で実施されており、あまり変化がないようにも見える。 公害地域の比較は単純なものではないが、たとえば、四日市市では裁判以前も裁判後も反公害運動が弱かった。公害裁判患者側勝訴後も、ほとんどが地元コンビナート企業出身者が市長であり、大気汚染被害は、1970年代半ばには一定程度解決している。四日市の学校教育において、長年四日市公害を伝える実践が弱かったのは、以上の地域内の複数の要因があろう。比較して水俣は、被害規模が格段に広く、患者自身の運動が活発に展開されたり、裁判が繰り返し提訴されてきた。こういった動向も教育実践に影響していないとは言えないだろう。さらに理解を深めるために、今後は現地の教師文化の理解を深めたいと考える。 なお、水俣病裁判の流れをくむ弁護士たちが積極的に福島の原発被災者救済に注力しており、報告者は福島で交流した。現在、原発差し止め訴訟としては国内最大規模の原告団となった玄海原発訴訟の弁護団たちも、この水俣病訴訟の流れを汲む。水俣に関するこの最新の動きを次年度も継続して考察したい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、運動家や患者さんたちへの現地インタビュー調査を実施するとともに、「水俣市史」をはじめ刊行されている文献調査も広く実施してきた。計画通り、戦後の水俣の多様な歴史や現在時点の理解を進めることができたため、「おおむね順調に進展している」と評価する。
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Strategy for Future Research Activity |
3年目となる次年度は、地域社会と教育実践との関係性から「水俣における公害教育カリキュラム」について検討し、研究を総括させたいと考える。今年度は、文献からの理解に努めるとともに、インタビュー調査も実施してきた。次年度は、地元の教員文化理解をすすめるとともに、できるだけ教育関係以外の1次資料収集も進めて、地域理解に努めたいと考える。 すでに、1970年代以降の地域内での公害教育カリキュラムの変遷に関しては相当理解できている。公害教育カリキュラムは、地域政治や運動からの影響、教師文化との関係性の中で形成される。公害教育のみならず、それをささえた地域の教員文化を理解するため、教員組合の残されている資料をさらに読み解きたいと考える。また、とりわけ資料が豊富に残存し、今日まで現地での運動セクターとして存在している相思社の活動史にも着目し、教育との相互関係を検討したい。 今年度は、実際に水俣病訴訟に関わってきた弁護士たちとも知己となった。患者救済の源泉となった訴訟に関して、訴訟の中心的弁護士らにインタビューが可能であれば実施したいと考える。利害関係の錯綜する当該社会の状況は教育にも影響を及ぼす。多様なセクターの理解を深めることで、より鮮明に教育実践の変遷の理由や意義が浮かび上がると考える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度においては、旅費として50万円、書籍などの物品に40万円、謝金に10万円、資料コピー代として10万円を計上する。現地でのインタビュー調査が欠かせないため、金沢から水俣までの旅費はそれなりに必要となるが、不可欠のものである。 現地調査のみではなく、環境関連の研究会や学会にも積極的に参加して、水俣を中心とする公害・環境問題の専門的理解を深めたい。環境学は学際分野である。教育学だけではなく、関連隣接分野の研究者たちとの意見交流は欠かせない。遠距離でも厭わずに参加したい。
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Research Products
(2 results)