2013 Fiscal Year Research-status Report
越境社会における教科「対話」の創設を目的とした課程モデルの構築と実証
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23530997
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
宇都宮 裕章 静岡大学, 教育学部, 教授 (30276191)
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Keywords | 言語教育 / 生態学 / 対話 / 多言語環境 / 教育言語学 / 主流語教育 / 国際情報交換(インドネシア) |
Research Abstract |
全国の学校において喫緊の課題である児童生徒同士の交流活性化を目標に、異なる言語・文化・価値観を背景とする子どもたちが共存する「多言語環境」への参画・調査・支援を通して、やりとりの様相を抽出・解析し、対話と学びの関係性・対話的手法の有効性・対話による環境づくりの理論を実証する。この過程を経て、教育現場自らの力による学習環境づくりを支える主体的カリキュラムを構築し、相互交流と環境良質化の手法を学ぶ新教科「対話」の創設を行う。本研究は、異なりが存在するからこそ当該環境が豊かになり、豊かさを維持するツールとしてことばがあるという「生態学的観点」に依拠したもので、個人的な発達能力と考えられてきたことばの力も環境全体の力であり、個人と環境との相互作用の中でその力が進展するという原理に則り、異なった言語・文化・価値観をもつ構成員が教育活動に貢献するかけがえのない学習機会創出者とみなす。その上で、動的・可変的・主体的方針としてのカリキュラムを構築する。 研究意義は、研究手法の新規開拓、現場自らの率先した改善、教員養成や研修への新しい道筋の提示、教育的資源が乏しい地域に対する貢献、現代的科目群に対する適切な指針の提示、学校を核とする地域社会の活力向上、公教育の在り方への問い直し、多文化共生 社会への理解と参画の促進、教育学・心理学・社会学・言語学等関連分野間の有機的関連づけ、といったところにある。 本年度は、昨年度までの研究成果を継承し、教育言語学の観点から最先端の教科教育理論と実践成果を収集・整理すると同時に、実践現場の調査とカリキュラム理論の構築に着手した。調査については、インドネシア(バンドン市)の公立学校における言語教育実践の教室を訪問し、参与観察および関係者への聞き取り調査を実施した。また、文献調査を引き続き行い、各専門領域に散在する関連文献や資料を幅広く収集し、分析を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度計画目標の柱も、①現場に負担をかけない「生態学的妥当性を充足した調査の実施」②現場のニーズを補完する「研究課程と同期する成果還元」③現場を肯定的に意味づける「現場重視のカリキュラム評価基準と理論の完成」である。①に関しては調査先機関との連絡・調整を円滑に行い、調査者の影響をほぼ取り除いた観察・聞き取り・意見交換を実施することができた。②に関しては、教育現場の潜在的な実践知を発掘しそれをそのまま協力機関に還元することができた。③に関しては、論文の公表等を通して理論的な基盤の構築を促進することができた。 こうして、本研究の目的に掲げた3つの解明点、ア)「螺旋的循環に関するカリキュラム理論」の部分的構築に成功し、イ)「対話的手法の有効性」の立証を教育現場にて実施し、ウ)「教科(対話)の創設」への道筋をつけたという点において、研究が順調に進展 したことを示している。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、様々な教育現場に適用可能な理論構築を目指し、文化的・言語的背景の異なる教育現場での実証研究を執り行う。現場との高い協働関係の維持が円滑な研究遂行上の鍵になることを念頭に、現場に負担をかけないこと、現場のニーズを補完すること、現場 を肯定的に意味づけること、という3点の基本方策を順守し、教科「対話」の創設に向けて鋭意研究活動に取り組む。 特に本年度は、完成年度としての研究遂行・周知活動を念頭に、海外を含めた各教育機関での調査を充実させる。調査と平行しながら、生態学的妥当性を充足することの重要性、現場ニーズの発掘と補完、実践知の理論化と公表に力を入れていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外協力機関(インドネシア教育大学)との研究調査日程の調整が(日本での)年度をまたぐ恐れがあったため、調査実施についてはあえて先送りすることにした。渡航回数が限られている関係で、段取りについては慎重を期す必要性が発生した結果、本年度使用予定だった旅費を繰り越すことになった。 本年度の繰り越し額と次年度の周知活動に充てていた旅費の一部を、次年度の調査旅費として計上する。周知活動については、本年度についても各所で行うことができたため、次年度では大規模な調査を敢行する。学生等を中心とする調査協力者に対する旅費・謝金を当初計画よりも上乗せして支出する(調査規模が大きくなるため)。
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Research Products
(5 results)