2012 Fiscal Year Research-status Report
「褒め方・叱り方のタクト」 -教育力育成と信頼の場の創出に関する実証研究
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23531004
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
鈴木 晶子 京都大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (10231375)
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Keywords | タクト / 判断力 / パフォーマンス / 場 / リーダーシップ / 歴史人類学 / 環境 |
Research Abstract |
本研究はコミュニケーションにおけるタクトの働きについて、言語・身体・パフォーマンスの観点から理論的に分析するとともに、タクト養成プログラムを開発することを目的としている。今年度の研究成果は以下の通りである。 ①理論研究の実績としては、前年度、コミュニケーションを支える「場」の成立過程の重要性について東洋思想を取り入れた分析の必要が明らかになったのを受けて、「場」の成立過程を、「存在を注目し認めるまなざし」の往還という観点から解明した。褒める・叱るという関わりを支えている基盤として、相手から自分の存在がまなざされ、認められているかどうかを感じ取ること、および相手の注意をひくための工夫をすること、この二つの作用がコミュニケーションの基盤となる「場」の形成の核となっていることを、西田幾多郎をはじめとする京都学派の思想テクストの分析、瞑想における内観的行為の現代的意義に関する国際ワークショップ(ベルリンで開催)を通して明らかにした。 ②タクト養成プログラムの開発については、米国リーダーシップ養成プログラムの聞き取り調査とプログラム実施状況に関する調査を行い、情動面の言語化過程において日米独での相違点について分析・検討をした。 ③触覚の現象としての意義、その働きの広範さを念頭に入れたタクトの働きについて、環境との接触面の繊細さを軸に分析していくという観点から、空間の質の変化に関する工学的研究や環境研究との学際協働の可能性について、ドイツおよび日本で最終年度に向けた国際ワークショップの企画を検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の根幹である、東洋的思想を取り入れた「場」の創出に関する理論研究およびタクト養成プログラムの開発という目的の達成に向けて、現段階では、資料分析、聞き取り調査および国際ワークショップを通したプログラムの検討など、おおむね順調に進展していると評価できる。養成プログラムに導入する「振り返り」活動の記録作成過程を、ワークショップ形式で実施する可能性も視野に入れて検討をした点で十分な進展を得たといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
理論研究の成果と調査研究の成果を最終年度に向けて繋いでいく作業を強化することにしている。とりわけ、「場」の創出という観点から、東洋的なわざの修練にみる「沈黙や暗黙のコミュニケーション」の意義を取り入れたパフォーマンスの模倣的学習過程にさらに注目し、プログラム開発に繋いでいく。2013年5月には、京都大学医工連携プロジェクトの研究会で、韓国・仁荷大学で、6月には独国・ベルリン自由大学およびドレスデン工科大学で、コミュニケーションの質を上げるためのタクトおよび触覚の意義に関する講演および検討会を行う予定である。また、環境との接触面の微細化の技法としてのタクトの働きをさらに具体的なプログラムへと展開していく観点から、本研究の3年間の成果を単著としてまとめることにしている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
設備備品費としては、聞き取りやワークショップの記録の集成のためのメモリー媒体の購入および、環境や生命に関する学際融合的な観点からの研究成果収集、文献資料の購入を予定している。旅費としては、国内では2013年10月の教育哲学会大会発表、国外では2013年5月の韓国、6月のドイツでの研究成果発表および調査、秋から冬に国際ワークショップ開催を予定している。人件費・謝金では最終年度のデータ整理のために補助業務担当者を雇用予定。その他、フィールド研究を通した教育研究の可能性について、およびタクトに関わる研究成果を著作の形で刊行するための経費を予定している。
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[Book] ナカニシヤ出版2013
Author(s)
鈴木晶子・クリストフ ヴルフ編
Total Pages
1-195
Publisher
幸福の人類学 -クリスマスのドイツ・日本の正月
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