2011 Fiscal Year Research-status Report
19世紀後半プロイセンにおける公立国民学校の授業料存廃問題
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23531013
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
山本 久雄 愛媛大学, 教育学部, 教授 (20145056)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 授業料 / 国庫負担 / 教職 |
Research Abstract |
平成23年度は,先ず関係資料の収集に取り組んだ。19世紀後半のプロイセン公立国民学校の授業料存廃問題は,何よりも先ず財政政策上の問題であるが故に,その究明を目指すうえで議会資料,行政布達資料,統計資料は不可欠である。そのうち,議会資料については,授業料の原則廃止と,教員人件費への国庫支出を定めた「負担軽減法」(1888年)の提案理由書,上院及び下院での審議過程を示す議事録,法案関連添付資料を,九州大学附属図書館,東京大学附属図書館に赴き入手した。また,行政布達資料はその時々の政府の意向を示し,問題の帰趨に大きな影響力をもつものとして重要であるが,プロイセン文部省官報は,個々の地方への布達(個別的問題への回答・指示・通達)を国の政策・意向を示すものとして掲載している。その中には,公立国民学校の授業料に関するものも含まれるが,同官報の関係部分はWEB上で電子情報化し,公開しているサイトから入手した。国及び国民学校経費の負担義務を負うゲマインデの財政事情,さらに教育の諸指標を明らかにするための統計資料として,プロイセン国家統計局発行の統計誌及び「プロイセン統計」(Preussische Statistik)の公教育特集号があるが,それらの一部をWEB上で入手し,他の部分を京都大学附属図書館に赴き,入手した。 これらを読み進めた結果,授業料存廃問題が,国民学校教育への国庫負担問題と教員処遇の改善策の延長線上にあり,それらが交差する地点に位置付くことが確認でき,問題の全体構造の把握において新たな視点を獲得できた。従って,今後は,国民教育への国庫支出の動向,教員処遇の改善動向をも視野に入れて,授業料存廃問題の究明が必要であることに気づいた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
関係資料を読み進めることにより問題の新たな地平・広がりに気づいたことは,研究の遂行にとって自然な展開といえるが,その広さに気づき,慌てているというのが現状である。 先ず,議会での審議過程を究明しようとしたが,その際,発言する個々の議員がどのような党派に属し,その党派がどのような社会層の利害を代表し,どのような綱領を掲げ,福祉や教育,そして国家のあり方について基本的にどのような態度でいるのかを把握しておく必要がある。それを前提として,この授業料存廃問題の帰趨・決着がどのような社会ダイナミズムの中で行われたの究明が可能となる。現在,その確認作業に追われ,所期の研究目的からするとやや停滞しているという外観を呈している状況である。これについてはわが国での政治学関連の先行研究にあたり,早急にクリアしたい。 次に議会の審議過程に複雑な,議事録を単に表面的にフォローするだけでは把握できない,いわば「政局」関連の事情が介在しているふしがあり,そのあたりの個別的事情が把握できずに幻惑されているという状況にある。通常,法案が議会(下院)に上程されると,下院本会議第一読会,委員会審議,本会議第二読会,上院送致,下院本会議での採決という過程を経るが,そこには党派間の取引や妥協などの複雑な政治過程が存在している。これらについて習熟するためには審議過程の慣行をも把握する必要があり,結局,幻惑されながらも,その都度,審議過程を忠実になぞる以外にはないであろう。
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Strategy for Future Research Activity |
1.議会議事録を読み進め,「負担軽減法」の審議過程の全体を把握する作業を継続する。その際,それぞれの党派の社会的背景,綱領に注意し,公立国民学校の授業料存廃問題がどのような社会構造のなかで問題とされ,決着を見たのか,即ち,その社会全体の位置づけに注意を払いたい。2.これまでに,公立国民学校の授業料存廃問題が,国民学校教育への国庫支出の動向と,教員処遇の改善策の動向が交差するところに位置づくことが確認できたが,それぞれに関する行政機関の意向及び立法の動向を把握するため,教員の給与改善,退職年金,遺児・寡婦手当関連の官報の関連記事及び立法の関連資料を入手する。3.これらを通して,公立国民学校の授業料の廃止が義務教育体制の変容に与えた意味を考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.平成23年度の経費執行計画が滞ったのは,研究の過程で,文部省官報及び統計資料の一部がドイツ連邦共和国の図書館により電子情報化され,無料で公開されていていることを把握し,予定していた支出の一部が不要になったことによる。2.授業料存廃問題の当事者であり,その廃止を契機にその職の公的性格を明確にした教員世界の世論の動向を探るため「全ドイツ教員新聞」の内容を調査し,関係部分を入手する。3.国民学校教員の退職年金,遺児・寡婦扶養手当,待遇改善にかかわる諸法律の審議過程を明らかにするため,関連議会資料を収集する。4.この授業料存廃問題をも包摂し,国民学校経費の最終的な負担関係を定めた「国民学校維持法」(1906年)の関連議会資料を入手し,20世紀初頭に確立した義務教育体制を究明する。
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