2014 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀後半プロイセンにおける公立国民学校の授業料存廃問題
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23531013
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Research Institution | Ehime University |
Principal Investigator |
山本 久雄 愛媛大学, 教育学部, 教授 (20145056)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 国民学校 / 授業料 / 教員の待遇改善 / 民衆教育の改善 |
Outline of Annual Research Achievements |
公的国民学校の授業料不徴収を定めた「負担軽減法」(1888年)の審議過程をたどることにより,それは,直接的には国家の財政事情の好況を背景とし,憲法上の経費負担義務者の負担を軽減することを志向するものであったが,よりマクロな視野でそれを見ると,教育におけるプロイセン国家の一元化と民衆対象の教育の実質化過程という大きな趨勢に位置づくことが確認できた。 前者については,各州の都市と農村に多様に存在していた庶民対象の学校の中で,授業料不徴収の学校はどれか,という論点で審議が行われた。そのカテゴリーに属さない学校は,その後,次第に淘汰されることになる。これは「国民学校」(Volksschule)が,一つの学校カテゴリーとして,国家の一元的な統制を受ける,全国民対象の国民教育制度の基幹に位置づいていく上で重要な節目であった。 後者については,この「負担軽減法」が,19世紀後半に相次いで発せられた国民学校教育の実質化・改善を志向する法規の一翼を担うものと確認できた。すなわち70年代以降,国民学校について,カリキュラム・組織編成,教員の養成・採用,教員の待遇改善(給与,年金,寡婦・遺児手当)などに関する法規が成立施行されたが,この「負担軽減法」により,教員に国庫から定額の現金による給料が支給されることになり,教員は授業料の徴収業務,不安定な収入を補うための副業から解放され,教職に専念できる基盤が形成された。また,これは教職が公費によって賄われる職として社会的に認知されたことを意味し,その職への人材の吸引力が高まったことが推認される。ただ,授業料不徴収は保護者の負担感を軽減し,「出席率」の向上をもたらしたものと推測されるが,官製統計資料では,それは確認できなかった。いずれにせよ,この研究により,民衆教育の実質化・改善をもたらす,社会的要因とは何かという課題が浮かび上がった。
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Research Products
(1 results)