2013 Fiscal Year Research-status Report
クライスト・ホスピタルの児童救済活動にみる近世ロンドンの養育と家族
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23531015
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
野々村 淑子 九州大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (70301330)
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Keywords | クライスト・ホスピタル / 児童救済 / 貧困児救済 / 貧困児教育 / 近世 / イギリス |
Research Abstract |
25年度は、主にクライスト・ホスピタルの設立に大きく関与したR.グラフトンなる人物に着目し、ホスピタルの受付簿等の記録の他、伝記、手記等の史料を分析した。受付簿には、他の関係者に比べてかなりの頻度でグラフトンによる救済の事実が記録されている。グラフトンは、クライスト・ホスピタルの初代財務担当役員であり、理事をも務めた、運営の要人であると共に、日々の救済活動にも積極的に関わったことがわかる。その背景には、その出自による、国教会や王室、ロンドン市やギルド組織における密接な、時に個人的なネットワークや関係性、さらにそれによる要職への登用があった。彼の動きからは、クライスト・ホスピタルの設立と初期運営にまつわる、さまざまな諸機関同士の関係性や、経緯を逆照射することができる。これは、福祉の複合体のイギリス近世における実状に迫る意味で解明する必要がある。 ヘンリー7世の牧師である祖父の縁で、大司教クランマー、および宰相クロムウェルと知己となり、王室欽定英訳聖書の印刷、出版の職務に就く。その後、ヘンリー8世のプリンターとして、さらにはエドワード王子(のちのエドワード6世)のサーバントとなり、王室や国教会幹部とのパーソナルな関係を結ぶのである。クライスト・ホスピタルは、1552年、グレイ・フライアーズ修道院跡に、ロンドン市によって設立されるのであるが、解体後の修道院を管理していた王室へのロンドン市による嘆願によるものであった。グラフトン自身はロンドン主教、市長らによる嘆願、ヘンリー8世やエドワード6世による許可の経緯を述べているのみであるが、その後のロンドン市等による重用の過程からは、彼の重要性を読み取ることができよう。 クライスト・ホスピタルによる児童救済は、文法教育等も含んだイギリスにおける貧困児教育の発端であり、そこには以上のような社会的文脈があったことが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
著作権等の関係で史料の入手が遅くなっていること、現地での撮影による史料収集のみでの入手に限界があり、滞っている。 特に、子どもたちの処遇の詳細、すなわちクライスト・ホスピタル内における養育や教育の実態についての史料が発見されておらず、そのなかの職員の職務については未解明である。里預けの実態については、記録簿にあるものについては経緯が判明しているものがあるが、詳細や年代的な推移などについても不明である。したがって、クライスト・ホスピタルにおける子どもの救済事業、養育にみる、家族イメージについては、いまだ明らかになっていない。 しかしながら、実績概要に記載の通り、クライスト・ホスピタルの設立と初期の運営を支えた社会的諸関係については、徐々に解明されてきており、さらに経緯を明らかにすべく、努力する所存である。 今後は、より養育、処遇の実態に迫るべく、またさらに、ロンドン市の救貧事業の展開、貧困児、孤児、棄児対策、貧困児救済のポリシーとその展開の関係性からこのクライスト・ホスピタルの実態に迫りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、入手しうる史料の収集と、解読を進め、下記について解明を進め、クライスト・ホスピタルの設立と初期運営にみるロンドン市の貧困児、孤児救済の実態と、その歴史的意味を明らかし、当初の研究目的を達成する。 1. 引き続きR.クラフトンに関する史料収集を進め、組織的な文脈のみならず、そのなかで活躍した個々人の言動にも注目する。 2. 養育委託、徒弟委託についての経緯、次第 3. 入所中の養育や教育内容 4. 家族とクライスト・ホスピタル、子どもとの関係
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度において、クライスト・ホスピタルの設立初期の事業展開により、ロンドンひいては英国国家の救貧政策、事業との連動性、関連性を解明する予定であった。その計画に従い、役員会議事録や会計簿などを経年的に収集し、その推移をみるべく、史料印刷の依頼をした。しかし、著作権の関係で史料へのアクセスの制限があった関係で、当初の予定ほどに史料購入ができなかった。そのため、未使用額が発生した。 その後、補助事業期間延長承認申請をし、承認された。 26年度においては、可能な範囲で議事録、会計簿などの購入依頼をすると共に、当時の複合的な支配的権威(王室、国教会、ロンドン・シティ、同業組合、議会など)においていずれにも関与しつつクライスト・ホスピタルの設立と初期の展開を支えた中心人物(R.クラフトン)に関する史料収集に未使用額を充てる。組織的な文脈のみならず、そのなかで活躍した個々人の言動にも注目する。 すでに入手している史料については、今後の研究の推進方策に記載した手順に則り、研究を進め、当初の研究目的を達成する。
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Research Products
(1 results)