2014 Fiscal Year Annual Research Report
フランス第三共和制期の政教分離(ライシテ)とモラルサイエンス問題
Project/Area Number |
23531019
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Research Institution | Shokei Gakuin College |
Principal Investigator |
太田 健児 尚絅学院大学, 総合人間科学部, 教授 (00331281)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | ライシテ / ジュール・フェリー / フェルディナン・ビュイッソン / デュルケーム / モラルサイエンス / 世俗的道徳教育論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、フランス第三共和制期における政教分離問題、所謂「ライシテ」(laïcité)を発端とした道徳教育論争の詳細解明を目標としてきた。ライシテ関連法成立(1881年,1882年,1886年)に伴い、宗教教育を排除したライックな道徳教育論が多数輩出した。 研究の結果ライシテ下の反教権主義・共和派の道徳教育論(ライックな道徳教育論)には、デュルケームのモラルサイエンスを境界線にしておよそ2つの系譜が存在するに至った点が解明された。一つは、特に第1章で明らかにしたようにF.ペコからA.ラランドまでの一連の道徳学説であり、一般教養的な教育論や教訓的な言説によって構成された道徳論である。これは聖書自体を否定せず、聖書やカトリックも一つの歴史・文化・教養として位置づけているが、最後はカントの道徳論を論拠とした、いわば折衷的な道徳学説でもあった。それゆえ教権主義との摩擦も少ないもので、当時の主流を占めていたであろう道徳論である。いわば修養論あるいは人格論の類いである。他方、デュル ケームによる道徳のメタ理論確立の立場、つまり道徳科学(=モラルサイエンス)の立場である。タブーは存在せず、宗教教育、宗教そのものも俎上に乗せられ分析されてしまう、当時の最先端を行く倫理学でもあった。このようなモラルサイエンスによるライックな道徳にとって、神という超越性に依拠しないでいかに道徳が調達できるか、自前の論拠で道徳の基礎づけを行うかが最大の論争点であった。しかしそれは個人単位の人間が出所でもなく、超越性が出所でもなく、その中間世界として社会概念が提示されるに至った。さらに人間の本性(生得観念)として「社会的性向」が存在し、これが社会によって育成されていく点をデュルケームは主張していた。実はこれが中期以降デュルケームの道徳論あるいは社会学における「社会実在論」や「集合表象」の萌芽だったことが解明された。
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Research Products
(1 results)