2011 Fiscal Year Research-status Report
カナダにおける「開かれた教育行政」及び「開かれた学校づくり」に関する調査研究
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23531037
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
平田 淳 弘前大学, 教育学部, 准教授 (90361005)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / 開かれた学校づくり / 開かれた教育行政 / エンパワーメント |
Research Abstract |
本年度は5カ年にわたる調査研究の初年度にあたるため、来年度以降のカナダ現地調査のための準備を行った。まず、「開かれた教育行政」や「開かれた学校づくり」について、日本語及び英語で執筆された先行研究を読み込んだ。この段階は基本的に理論研究であるため、対象国を限定せず幅広く読んだ。そこでは、学校運営レベルでの生徒・保護者参加は多くの国・地域で行われていたが、教育委員会レベルで生徒参加を可能としている例は、カナダのいくつかの州を除いては、あまり見られないということが明らかになった。つまり、その意味で本研究の対象国をカナダとすることの意義を再認識することとなった。そこで、カナダの「開かれた学校づくり」や「開かれた教育行政」について、それを可能とする制度がどのようになっているのかについて、主にインターネットによる政府ホームページにアクセスすることにより、調査した。すると、オンタリオ州では各校に学校協議会を設置し、保護者や地域住民、中等学校レベルでは生徒の学校運営参加を可能とする仕組みを有していた。また、教育委員会レベルでは、「生徒教育委員制度」が設けられており、その規模により人数に違いはあるが、各教育委員会では数名の生徒教育委員が議論に参加することとされており、教育行政レベルでの生徒参加が制度化されていた。 オンタリオ州のこうした状況を生み出す背景となったものは何かについて、国内のカナダ教育研究者に聞き取り調査を行った。そこではカナダの国是たる「多文化主義」や、カナダの教育を特徴づける一要素である「シティズンシップ教育」、あるいはここ20年あまりのオンタリオ州政府の頻繁な政権交代と教育改革のあり様など、多くの要因が複雑に関連しあってこうした状況が生まれたのではないかという仮説を得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、おおむね交付申請書に記載した計画通りに進められている。まずは、再度申請者の博士論文である「平田淳(2007)『「学校協議会」の教育効果に関する研究-「開かれた学校づくり」のエスノグラフィー-』東信堂。」、およびそこで参照されている先行研究などを読み込み、分析枠組みの確認を行った。次に日本国内におけるカナダ教育の専門書に当たった。すなわち、「小林順子他編(2003)『21世紀にはばたくカナダの教育』カナダの教育2、東信堂。」や、日本におけるカナダ教育学会の機関誌である『カナダ教育研究』No. 1-No. 9(2002年、2004年-2011年)などである。またカナダ国内の文献としては、例えばオンタリオ州教育副大臣を務めた現トロント大学大学院オンタリオ教育研究所教授のレビンの著書 「Levin, B. (2008). How to change 5000 schools. Cambridge, MA: Harvard Education Press.」や、現地のカナダ教育学会の機関誌である「Canadian Journal of Education」、カナダ教育行政学会の機関誌である「Canadian Journal of Educational Administration and Policy」などを読み込んだ。さらに、制度枠組みを詳しく調べるために、カナダ諸州の教育省のホームページにアクセスし、「開かれた教育行政」や「開かれた学校づくり」に関する法整備がどの程度進んでいるのかを調査した。 さらに計画通り、日本国内のカナダ教育研究者に聞き取り調査を行い、状況の把握に努めた。ここまでの段階で、申請者が以前から有している分析枠組みとの整合性も確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度-平成26年度は、現地調査を行う。カナダは10の州と3つの準州から成る連邦国家であり、各州によって教育制度は異なる。そこで現地ではいくつかの州を訪れ、各州教育省や教育委員会、管理職や教員、高校生や保護者、各種教育関連団体(校長会や教員組合)を対象として、インタビュー調査及び観察調査を行い、データを収集する。また、関連文書に関しても、現地調査において収集する。 平成24年度は、ブリティッシュ・コロンビア州とユーコン準州において現地調査を実施する予定である。ブリティッシュ・コロンビア州では、各校に学校協議会を設置することが制度化されている。ユーコン準州でも、学校協議会の設置が進められているが、同準州に特徴的なのは、多くの先住民を抱えていることから、学校協議会のメンバーの一定数を先住民から選ばなくてはならないという「保障代表制」を採用していることである。 平成25年度は、オンタリオ州とマニトバ州において調査を実施する。オンタリオ州では、学校協議会を通した保護者・地域住民・高校生の学校運営参加と、生徒教育委員制度を通した生徒の教育行政参加が制度化されているが、その実態について明らかにすることが重要である。マニトバ州はオンタリオ州と同様、1990年代半ば以降積極的に教育改革を行っており、学校協議会の設置も進められている。 平成26年度は、ノバ・スコシア州とニュー・ブランズウィック州といった大西洋沿海諸州を対象として調査を行う。沿海諸州は教育改革が比較的緩やかに進められているという特徴を有するが、そこで「開かれた学校づくり」や「開かれた教育行政」がどのように認識され、どのように推進されているかは、興味深い。 平成27年度は、それまでの現地調査で得られたデータを、先に設定した分析枠組みに則って分析し、結論を導き出す、つまり本研究のまとめを行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の配分額は、直接経費1,100,000円、間接経費330,000円、計1,430,000円である。使用の内訳は、現地調査等のために国内・外国旅費として750,000円、書籍やデータ処理に必要な器具等購入のために100,000円、インタビュー・データのテープ起こし等の費用のために250,000円と予定している。
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