2011 Fiscal Year Research-status Report
ガバナンス論の政策分析枠組みとしての「有効性」と「合理性」に関する基礎的研究
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23531055
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
武者 一弘 信州大学, 教育学部, 准教授 (50319315)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | シンガポール / ガバナンス / 教育政策 / 教育行政 |
Research Abstract |
本研究の目的である、日本の地方教育行政の機構改革の動きを、ガバナンス論によって捕捉することの「有効性」と「合理性」の解明と、教育学に内発的な「教育のガバナンス論」の理論枠組みの特質の解明を、次の三つのアプローチにより試みた。すなわち、(1)教育委員会制度の抜本改革を迫る多様なアクターの議論を対象とするガバナンス研究の分析、(2)英米の教育行政の機構改革を対象とするガバナンス研究の分析、(3)既に教育行政の機構改革を実現した自治体を対象とするガバナンスの変動の実証的調査である。 科研研究の初年度である平成24年度、あらまし次のような研究を行った。(1)教育委員会制度の抜本改革を迫る多様なアクターの議論を関係審議会等の答申や報告などを手がかりに分析整理を行った。これにより政策分析との関わりでの本研究の枠組みを点検・再構築した。(2)英米の教育行政の機構改革を対象とするガバナンス研究の動向について、行政学者や教育行政学者などを訪ね、専門的な知見・情報を得た。今後の国外の研究調査にとどまらず国内の研究調査の推進の上でも極めて有益であった。またこの専門的な知見・情報を得る中で、日本と同様にアジアにありながら、歴史的な経緯や今日の経済的かつ政治的な世界情勢から、英米の政治・行政改革の影響を強く受けているシンガポールを訪問し、教育行政におけるガバナンスの研究と改革の動向について分析する有意さを理解し実行した。(3)既に教育行政の機構改革を実現した国内の自治体を対象とするガバナンスの変動の実証的調査を行った。このとき、特に今日において自治体における教育行政をめぐるガバナンスの変動が、市町村合併後(合併した場合はもちろん合併しなかった場合においても)の新市町村の建設にあり、市町村立小中学校の統廃合にあったことから、複数の市町村を訪問調査した。この研究成果の一部は、日本教育政策学会大会などで研究報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要に記した初年度の(1)(2)(3)の三点について、研究目的に照らして評価すると、(1)の教育委員会制度の抜本改革を迫る多様なアクターの議論の分析は、年次計画で予定したとおりの進捗状況であった。また(2)の英米の教育行政の機構改革を対象とするガバナンス研究の動向については、政治学者や教育行政学者からの専門的な知見・情報の収集は、ほぼ年次計画通り進んだが、欧米の訪問調査は実現できなかった。その理由は大きく次の二つである。一つは海外調査には事前の連絡調整などの準備を相当期間要するが、専門的な知見・情報を得ることができたのが、秋であったことから年度内執行の余裕がなかったこと、二つは、勤務校の所属学部が平成24年度に改組することになり、教育学の専攻・分野主任として相当に時間を割かざるを得なくなってしまったこと(特に改組にかかる書類作成・修正・照会などに迅速に対応するため、長期にわたる海外出張が適わなかったこと)、である。ただ専門的な知見・情報を収集する中で、欧米の教育ガバナンスの調査に入る前に、日本同様に、欧米圏からの強い影響を受けている、アジア圏の先進国であるシンガポールの教育ガバナンスの改革動向をみておくことの研究推進上の重要性の指摘をうけ訪問調査を実現させたことは、研究枠組みを豊かにし年次計画を超えた達成度があったといえる。最後に(3)の既に教育行政の機構改革を実現した自治体を対象とするガバナンスの変動の実証的調査だが、今日の自治体における教育行政をめぐるガバナンスの変動が、市町村合併後(合併した場合はもちろん合併しなかった場合も)の新市町村の建設にあり、市町村立小中学校の統廃合にあることを、人口社会学者の若林敬子らの先行研究より知見を得たことから調査の切り口を市町村合併・学校統廃合に定め、複数の市町村を訪問調査した。これら調査の成果の一部は、日本教育政策学会大会や同公開研究会などで報告した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度(平成23年度)に得られた結果を基にして、三つのアプローチからの研究を継続し遂行する。まず、(1)の点については、「経済財政運営と構造改革の基本方針2006」の成立前後の諸アクターの動きに注目しながら、教育委員会制度再編の政治・政策過程の解明を継続する一方で、近年新たに発表された教育委員会制度再編研究の収集・分析を行う。また、新たなアクターの存在の可能性とその動きについての分析を進める。(2)の点については、欧米のガバナンス論の特質を考察した日本の先行研究を検討するとともに、欧米でのガバナンス概念と学説史に関する理論研究を考察し、欧米でガバナンス論が台頭した背景とその特徴を明らかにする。さらに、欧米の社会・文化的文脈においてガバナンス論を把握するために、初年度の文献研究と専門的な知見・情報の収集・分析を踏まえて、欧米におけるガバナンス改革の先進的事例を特定し調査に入る。(3)については、初年度に行った平成の市町村合併後の新市町村の建設と市町村立小中学校の統廃合問題を抱える基礎自治体への予備調査の結果を踏まえ、教育行政の一元化の事例の類型化を検討し直す一方で、本調査の対象となる自治体を精選し、教育行政の一元化の背景とねらい、住民や専門職の位置づけ、子どもの発達保障と住民や専門職との関わりを、聞き取りや会議及び活動への参与観察などにより明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず物品費についてだが、今年度(平成23年度)は所属学部の共有備品(ノートPC、DVカメラ、デジタルカメラなど)を一時的に使用し調査などにあたったため、初年度は物品の整備購入費が結果的に抑えられた。しかしこの備品を共有に戻すことから、次年度は交付申請書の提出段階で初年次に購入を計画していた物品の整備購入を行う必要があるため、物品費にかかる繰り越し分と第二年次の物品費として計上した分は、全て支出することになる。次に旅費についてだが、今年度は専攻主任としての改組への対応などから長期にわたる海外出張ができなかったが、次年度はそうした制約はなくなることと専門的な知見・情報の提供を得て訪問すべき機関・大学などが明確となっていることから、海外出張については今年度実現できなかった分の一カ所(イギリス)と交付申請書に第二年次で訪れる予定とした一カ所(アメリカ)、都合を二カ所を実現する予定である。また国内出張については昨年に続き、基礎自治体の調査と専門的な知見・情報の収集のため、精力的に実施する予定である。よって、旅費にかかる繰り越し分と第二年次の旅費として計上した分は、全て支出することになる。人件費・謝金についてだが、今年度は限られた研究費を有効に用いるためできるだけアルバイトなどは用いないように心がけたり、専門的な知見・情報を得た際に先方が謝金を辞退したりしたことから、使用はなかった。しかし次年度は収集した資料の整理や聞き取り調査のテープ起こしなどでアルバイトを用いたり、専門的な知見・情報を得た際に謝金が必要になることも十分に考えられる。その他としては、今年度と同様に、郵便や宅配便などの通信費や調査訪問先での複写などのための支出を予定している。
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Research Products
(2 results)