2012 Fiscal Year Research-status Report
教師の職能形成に影響する社会的・制度的要因の析出と政策的・経営的示唆の提示
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23531070
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Research Institution | Saga University |
Principal Investigator |
川上 泰彦 佐賀大学, 文化教育学部, 准教授 (70436450)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
妹尾 渉 国立教育政策研究所, 教育政策評価研究部, 研究員 (00406589)
高木 亮 中国学園大学, 子ども学部, 講師 (70521996)
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Keywords | 教師 / 職能 / メンタルヘルス / 適応感 / 教員人事 / 教員配置 / 病気休暇 / 病気休職 |
Research Abstract |
平成24年度は、大きく2つの研究活動を行った。一つは平成23年度後半から着手した調査の継続で、一部の成果を学会等で発表した。もう一つは、平成23年度における検討をふまえた新たな調査で、継続的なデータ収集を行った。 このうち第一は、教師の「病気休職」と「病気休暇」制度の運用に関する学校経営・教育行政的視点からの調査である。教師のメンタルヘルスをめぐる政策議論では「病気休職」のデータがよく使われるが、一般的には「病気休職」発令の前に「病気休暇」制度が活用される。この「病気休暇」制度(休暇期間、「病気」認定の手続き、代替教員の充当方法など)には自治体間で違いがあるため、「病気休暇」制度の運用実態は「病気休職」の発令状況にも影響すると考えられた。こうした関心のもと、平成23年度にはA県内の市町教育委員会を対象に調査を実施して「病気休暇」制度の運用について自治体間のばらつきを把握したが、平成24年度はこの成果を学会で発表した。加えて、平成24年度では都道府県レベルにおける「病気休暇」制度の運用状況について調査を新たに実施し、平成24年度中に一部の成果を発表した。 第二については、教師の「メンタルヘルス・適応感」調査を新たに企画・実施した。平成23年度は、教師のメンタルヘルスや適応感(と、それを基礎にした職能成長)が、単なる教師個々人の精神衛生の問題ではなく、どの教員をどの学校に配置するかという教育行政上の問題や、どういった学校組織でサポートや成長を図るかという学校経営上の問題であるという関心のもと、教師個々人を対象とする調査の企画検討を繰り返した。平成24年度は、そうした議論をもとに実際の調査票を作成し、B県においては初任者への全数調査を、C県D町においては全教職員への調査を実施した。回答のあった教員のうち希望者には、調査で得られた「メンタルヘルス・適応感」の個票データを返却した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まず、自治体レベルに着目した調査については、既に実施したものの再分析も、また新たな調査の実施も、順調に進捗した。当初予定していたような「自治体・学校レベルでのケーススタディ」を進めることは不十分であったが、代わりに全国の都道府県教育委員会を対象とするアンケート調査が実施できた。高い回収率のもとで、都道府県レベルでの「病気休暇」(と「病気休職」)の制度運用に関して貴重なデータを収集でき、平成23年度に実施した市町村レベルの調査とあわせて制度運用の全体像に迫ることができた。なお、先に挙げたケーススタディについては、平成25年度の課題として継続的に取り組む予定である。調査対象となる教育委員会や学校についても、これまでの研究・発表活動を通じて関係が構築されつつあり、いくつかの候補が挙げられる状態である。 また、教員個々人の経験レベルに着目した調査も、着実に実施することができた。平成23年度よりデータの収集を進めてきた自由記述による調査については、テキスト分析を中心に学会発表や論文執筆が進捗した。発表や論文の査読を通じて得られたコメント等を元に、分析手法の改善も検討しつつある。 加えて、当初予定通りアンケート調査についても実施ができた。調査票の内容確定に向けた交渉、印刷と配布、データの入力と整理、回答者(のうち希望者)へのデータ返却など、経験の浅い作業が続出した結果、当初期待するよりも若干遅いタイミングでの調査実施となったものの、半年ほどを空けた追跡的な調査によって、メンタルヘルスや適応感の変容を捉える素地ができたことは大きな成果であった。また平成24年度での調査実施に続き、新たな調査協力も得られたため、データ収集をより広く行う準備も進めることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、大きな新規調査の実施は予定していない。平成24年度から実施した教員対象の調査については、得られたデータの分析を本格化させ、教員の配置や校内でのマネージメントが教師の適応感・メンタルヘルスにどう影響し、ひいては教職キャリアの発達にどう影響するのかといった知見を得られるよう、分析と検討を行う。成果については、適宜学会発表や論文執筆の形で公表を進める。 また、この「適応感・メンタルヘルス調査」については調査先の拡大が予定されているため、調査票の見直しと入力・分析・データ返送のシステム化を進め、教員対象へのフィードバックが十分に行えるよう検討を進める。加えて、フィードバックの対象を個々の教師から教育委員会レベルに広げる。具体的には、平成24年度調査の分析から得られた知見をもとに、教育センターとの協力のもと、初任者向けの研修開発を進める予定である。また、先に挙げたC県D町については町教委や町立学校教員を対象とした研修のほか、教職員配置・校内マネージメントに対する提言といった形でのフィードバックを検討中である。 一方、平成23年度・24年度と調査の進捗した自治体レベルでの「病気休暇」「病気休職」データについては、成果発表が学会発表にとどまっているため、論文等の活字として成果が公表できるよう、研究会の開催等を通じてさらなる分析を進める。またケーススタディの進展が懸案となっているため、これにも着手する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
まず、平成24年度に実施したアンケート調査を継続するため、その準備(調査票の印刷と発送)と回収、さらには分析準備(データ入力)に向けた支出が見込まれる。教師への個票データのフィードバックも継続するため、その費用(フィードバックシートの作成・印刷と発送)の支出が予定されている。なお、平成24年度よりもアンケート対象者が増えることが予定されているため、この経費も増加が見込まれる。 次に、昨年度までに収集したデータの分析をもとに、初任者向け研修内容の開発が予定されているため、協力の確約を得ている教育委員会(研修センター)との打ち合わせのため旅費の支出が見込まれる。研修開発の状況によっては、旅費の支出回数が増えることも予想される。これ以外にも、調査先の教育委員会に向けたフィードバックやコンサルテーションが本格化するため、こちらでも旅費の支出が見込まれる。 最後に、研究成果の社会的発信のため、学会等への出席に向けた旅費の発生が見込まれるほか、その内容を検討するためのミーティング開催のためにも旅費の発生が考えられる。これまで同様、研究代表者及び分担者の勤務校が互いに離れているため、研究活動の維持には不可欠な費用であると考えられるが、支出については平成23年度・平成24年度と同水準になるものと考えられる。
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Research Products
(17 results)