2012 Fiscal Year Research-status Report
幼児の図形による見立ての描画表現―年齢、環境、性差からの検討―
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23531080
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Research Institution | Wayo Women's University |
Principal Investigator |
島田 由紀子 和洋女子大学, 人間・社会学系, 准教授 (80369397)
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Keywords | 幼児 / チェコ共和国 / 見立て / 描画 / 環境 / 年齢 / 性差 / 言葉 |
Research Abstract |
幼児の図形による見立ての描画表現について、年齢差、環境差、性差の比較検討により、想像力と創造力の実態把握を試みる調査研究である。環境の比較は日本とチェコ共和国(以下、チェコ)とした。チェコの教育や保育は各教育施設による裁量が大きく、均一な教育や保育が行われているとは限らないこと、先行研究から幼児の描画には両国に異なる表現が認められること、一般的な色の使われ方にも違いがあると考えられることから設定した。 <研究実施状況>平成24年度は、日本では幼児の見立ての描画、並びに描画以外による図形と色彩からの連想調査について比較検討を行った。また、チェコでは、前年度の調査対象数で偏りのあった年齢のに追加の調査を行い、数の均衡をはかることを試みた。さらに、スロバキアで同様の調査を開始することにした。スロバキアを調査対象国として追加した理由は、チェコの隣国にあり環境が似ていること、チェコと同一国だったこと、チェコよりも性による色の使い分けの意識が少ないと推測できたことが挙げられる。 <研究の成果>今年度の研究の成果として、①見立ての描画調査、②視覚提示による図形の連想調査、③聴覚提示による色彩の連想調査について、一部途中経過であるがまとめた。それらの結果から、以下について明らかになった。①図形の見立ての描画表現については、日本の女児は男児よりも図形丸を顔に見立てる傾向がみられた。男児でも花や人を描く傾向があり、自由画の性差の特徴とは異なった。チェコでは、女児も乗り物や道路標識などの男児的な描画がみられた。環境、年齢、性差にかかわらず、図形の色よりも形が優先された。②図形提示の連想調査では、図形丸の回答数が図形三角や四角よりも突出しており、食べ物の連想が多かった。③聴覚による色彩提示調査では、食べ物や身の回りの連想が多かった。赤の回答数が髙く、ピンクは連想しにくいことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の達成度については、おおむね順調である。したがって、次年度の調査進行も予定通りに進めていく。 研究が順調に進んでいる理由として、本研究がスタートする前から準備してきたことが挙げられる。類似した調査研究をすでに実施していたので、本研究時の開始もスムーズであったし、2年目も同じく、順調に進むことができた。 特に、調査先の小学校や幼稚園、保育所での調査協力の体制が、日本だけではなくチェコでもすでに整っているので、新規開拓に時間を要する必要がまったくなかった。平成24年度では、調査対象国をチェコの隣国であるスロバキアにまで広げたが、チェコでの研究協力者であるチェコ日友好協会(理事:山田春美氏)や地元の学校、幼稚園に勤務している教員や職員との長年の調査協力の積み重ねによって培わされた組織力により、円滑に進めることが可能となっている。 また、調査結果の検討については、国内の研究協力者から多くの助言を得ることができたことも大きな要因と考えられる。平成24年度は、大神優子氏(和洋女子大学 認知心理学)と共同研究として、描画以外の表現方法である、聴覚・視覚提示による図形や色彩からの連想について、研究を進めることができた。大神氏とは、同じ大学に所属していることから、日常的に調査や研究について意見交換できる環境にあることが、計画的に研究を進めることにつながった。また、近江源太郎氏(日本色彩研究所 理事長 色彩学、造形心理学)からも、本研究にかかわる調査や研究方法、分析について具体的な助言が得られた。 以上のことから、本研究は多岐に渡る研究協力者の支えによって順調に進めることができている。次年度も、今年度同様に協力を仰ぐと同時に、研究結果を公開、フィードバッグすることにより、貢献できるよう努力をしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究計画は、おおむね順調に行われていることから、次年度の研究計画も予定通りに進めていくことになる。 <調査>日本とチェコの両国において、これまでの図形による見立ての各調査内容(図形の線の色の有無、面の色の有無)と調査対象者数を対応させ、年齢、性別に偏りのある調査については、追加の調査を実施する。また、これまでの調査結果を踏まえ、図形や色彩について、描画を除いた調査方法である、口頭での調査や言葉の書き取り調査を実施し、描写するという行為が介入したこれまでの調査結果と、考えて言葉に示す調査結果(連想による聞き取り調査、記述調査)との比較検討をさらに進める予定である。 <調査結果の整理、分類>調査結果のデータ化を進める。描画調査で収集した描画については、ひとりの幼児につき18個あることから、すべてをスキャンしてデータ管理をする。聞き取り調査、記述調査についても、データ化して管理することをさらに進める。分類については、複数の判定者によって実施することで、より客観的な結果が得られると考えられることから、ここでも、研究協力者に協力を仰ぎたい。 <調査結果の報告>日本の調査は時期的に優先させているので、まとめたものから順次、学会等で発表すると同時に、調査協力に応じた小学校や幼稚園、保育所等にフィードバックする。チェコの調査結果については、日本と比較検討した上で、同様に学会等で発表する。また、次年度もチェコの幼稚園や小学校で調査を実施する予定なので、前年度の調査結果の報告を各幼稚園、小学科校で実施することになっている。また、教材研究や課題設定の研究につなげられるよう、造形や言葉などの表現活動に関心のある幼稚園や小学校、あるいは研究者にも調査結果の報告書を配布し、教育や保育現場にフィードバックできるよう積極的に働きかける予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、ほぼ予定通りの研究費の使用であった。 次年度は本研究期間の最終年度ということもあり、これまで日本とチェコで実施した、複数の調査に対応する調査対象者数の偏りの解消をはかること、そして、これまでの研究をまとめる作業を行うことを中心に進めていく予定である。したがって、研究費の使用予定も大きくは、その2つに集約される。各項目である、<物品費><旅費><人件費・謝金><その他>について、以下のように考え、使用する予定である。 <物品費>は、調査の集計等に必要なパソコンソフト、収集した描画の画像処理ソフトの購入、および本研究を学会発表や、調査協力小学校や幼稚園でフィードバッグするための視聴覚機器などに210,000円の使用を予定している。 <旅費>については、これまでの調査内容とそれに対応する調査対象者数の偏りをなくすために、日本国内、チェコでの追加調査を実施する予定であること。また、調査結果を学会発表(国内3件、海外1件)する予定であること。さらに、これまでの研究結果について、可能な限り、調査協力に応じた小学校や幼稚園などに出向き、フィードバッグを行い、教育や保育の現場での造形活動や表現活動に反映させてることができるような活動も行う予定である。そのための費用として、480,000円計上している。 調査にかかわる<人件費・謝金>として、海外調査の通訳や翻訳の費用、一斉調査のために必要な複数の調査員への謝金、調査結果の集計をしてもらうための人件費等に合わせて350,000円を計上している。 <その他>については、日本国内とチェコへの調査用紙や調査用紙、報告書の送料等として60,000円を予定している。また、前年度の繰越金の40,976円は、<その他>の項目に合算し、調査収集した描画のデジタル化するための費用にあてる予定である。
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