2011 Fiscal Year Research-status Report
戦後沖縄における保育者の関係アイデンティティに関する研究
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23531084
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Research Institution | Tokyo Kasei University |
Principal Investigator |
岩崎 美智子 東京家政大学, 家政学部, 教授 (90335828)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 養護性 / 保育者 / 学生 / 沖縄 / 東京 |
Research Abstract |
平成23年度は、以下のような手順で研究が進められた。まず、前年度に引き続き「養護性」やソーシャルネットワーク等に関する主要文献の整理・検討をおこないながら、並行して7月と9月に、東京都内の大学に通う保育学専攻の学生と英語学専攻の学生、ならびに沖縄県内の大学に通う保育学専攻の学生計332人を対象に質問紙調査を実施した。この調査は、保育者をめざす若者の意識や経験を量的に把握して、退職した保育者や現役保育者と比較する目的があった。続いて、11月には沖縄県在住の50代現役施設保育士9人を対象にライフヒストリー・インタビューを実施し、2月には11月の調査対象者(50代施設保育士)のうちの7人と昨年のインタビュー協力者である70代の元保育所保育士3人を対象に、「養護性」に限定したインタビューをおこなった。23年度は、以上の調査を実施したが、そのうち質問紙調査の分析を課題とした。 結果は、(1)英語学を専攻する学生に比べて保育学を学ぶ学生に高い「養護性意識」がみられ、なかでも「子どもへの興味関心」は子ども時代の年少児との関わりが影響を与えている可能性が認められた。(2)専攻による相違は、「子育てへの不安」や「積極的な養護役割の受容」にみられたが、これは現在の学習経験との関連によるものと考えられる。(3)同じ保育学専攻でも、東京の学生の関心対象は子どもに限定されるのに対し、沖縄の学生は子どもに限らず幅広い対象に共感性をもつことが理解された。これらの結果から、多様な他者との関わりと複数の「重要な他者」をもつことが、養護性の形成に影響を与える可能性があることが示唆された。本年度の質問紙調査が示した結果は、いままで研究代表者らが指摘してきた沖縄在住保育者たちの「養護性」の高さの傍証ともいえる内容であり、今後の研究につながる発見であった。インタビューデータの詳しい分析は、平成24年度におこなう予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度は、当初の予定どおり、沖縄在住の現役施設保育士(50代)に個別インタビュー調査をおこない、保育者を志望する大学生(沖縄と東京)と他専攻の大学生に対する質問紙調査を実施した。 インタビュー調査の詳しい分析は平成24年度におこなうが、質問紙調査からは、沖縄と東京双方の保育学を専攻とする学生に高い「養護性意識」や「子どもへの興味関心」がみられたこと、沖縄在住の保育学専攻学生は年少児との関わりが多く、子どもに限らず多様な対象に共感性をもち、育児に対する自信もあることが理解された。これらの結果は、研究代表者らがこれまで指摘してきた沖縄の保育者たちの「養護性」の高さの傍証となるデータと考えられる。沖縄の人びとの幅広い人間関係のネットワークと複数の「重要な他者」の存在が、「養護性」の形成に影響を与える可能性があることが裏づけられたといえよう。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでは、心理学分野で研究蓄積がある「養護性」の概念をもちいて研究をおこなってきたが、今後は、本プロジェクトの主要な用語である「関係アイデンティティ」の概念規定や特徴の検討、「養護性」との関連が課題となる。 また、沖縄在住保育者の「養護性」の高さを検討するためには、沖縄の歴史・風土・文化・経済諸条件の考察は不可欠であるが、この部分の研究は現在までのところ充分な進展に至っているとはいえない。加えて、沖縄の児童福祉状況の考察も今後進める必要がある。 さらに、なぜ沖縄の保育者の「養護性」が高いのか、つまり彼女らの他者への共感性やケアの技能の形成要因は何かという点について説明するには、他地域の同業者との比較が有効であると思われる。そのため、平成24年度には、東京とその近郊に在住する元施設保育士へのインタビュー調査を実施できるよう、現在調査対象者への協力を依頼しているところである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度は、書籍やUSBメモリ購入などの物品費、インタビュー調査のための旅費、インタビュー調査協力者への謝礼、テープ起こしなど、おもに東京と近郊在住の元施設保育士に対するインタビュー調査に関わる経費が必要である。 本研究の成果については、平成24年5月4日の日本保育学会第65回大会において一部を報告しているが、今後も保育学会等での発表や論文執筆をおこなうつもりである。なかでも主要な発表は、最終年度である平成25年に中国で開催されるOMEP(世界幼児教育機構)第27回世界大会にておこなう予定なので、参加費、旅費、ポスター作成費等(以上は、いずれも研究代表者と連携研究者2人分)が必要になる。さらに、3年間の研究活動をまとめた研究報告書の作成も予定している。そのため、多くの経費を必要とする25年度に備えて研究費を計画的に使用するつもりである。
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