2012 Fiscal Year Research-status Report
米国における学校法人の多元化―チャータースクールと私立学校の比較を焦点に―
Project/Area Number |
23531085
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
高野 良一 法政大学, キャリアデザイン学部, 教授 (40175427)
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Keywords | 学校法人 / チャータースクール / 私立学校 / ボランタリズム / アカデミー / カリフォルニア州 |
Research Abstract |
学校法人は法人ボランタリズムを実体化した組織であり、その組織的特質の究明が本研究の目的である。米国には、伝統的な学校法人である私立学校のみならず、チャータースクールという公共学校法人が、全米で5,600校(2011-2012学年度)設置され、質的に進化を遂げてきた。 本研究の第2年度は、チャータースクールと私立学校を比較するために、具体的テーマを二つ設定した。その一つが、法人ボランタリズムの起源であるアカデミー(academy)の分析である。アカデミーの歴史研究から得られた知見は二つである。教育史家であったクレミン(E.A. Cremin)が、「法人学校(corporate school)」とアカデミーを定義し、ハイスクールとの競合を問題にしたこと。次に、中等学校改革をリードしてきたサイザー(Th. Sizer)も注目し、アカデミーを公教育機関であり同僚組織(collegiate organization)であったと再評価していたことである(The Age of the Academies, 1964)。 もう一つの研究課題は、チャータースクールの質的進化を整理し、現在の特質を究明することであった。学校統治研究で著名なホルステッター(P. Wohlstetter)は、進化の過程を3世代に区別する。第1世代は「開花」期、次いで「拡張」期、現在が「洗練refinement」期とされる(Choices & Challenges, 2013)。「洗練」期を特徴づける組織形態が、CMO(charter management organization)なのである。学校改革の先進州であるカリフォルニア州に焦点を絞り、KIPP(Knowledge Is Power Program)と、High Tech Highという理数系(STEM)学校を運営するCMOの調査に着手した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
第2年度に入り、現状の比較分析を進めるなかで、この両者が組織特性として、いかなる共通基盤をもつかを究明する必要を自覚した。そこで、本研究申請時の計画になかったアカデミーの歴史研究を開始した。アメリカ教育史を再検討し、チャータースクールの共同設立者でもあるサイザーの著作も読み直し、彼の学校改革像の原点がアカデミーであることを確認した。加えて、アカデミーの史的系譜を探るために、英国私立学校史の研究者であるウォルフォード(G. Walford)の著作を参照し、また、日本における英国私立学校史研究を調べ、ウォリントン・アカデミーの事例(三時眞貴子『イギリス都市文化と教育』2012年)も発見した。 次に、チャータースクールと私立学校の現状比較では、まず、Council for American Private Education、Center for Education Reform等が提供するマクロ・データの整理を行った。この全米データを踏まえて、学校改革の先進州であるカリフォルニア州に焦点を絞りデータと事例の分析を進めた。カリフォルニア教育に関する大学間研究ネットワーク(Policy Analysis for California Education)の調査研究を探索し、CMOと学校の実態に関しては、California Charter School Assoiciationの年次集会に参加し、聞きとり等を実施した。 なお、研究の達成度を「やや遅れている」と自己評価した理由は、以上の歴史及び現状の分析を、中間報告の論文ないしは研究ノートとして公表できなかったからである。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は本研究の最終年度であり、アカデミーとカリフォルニア州のCMOに研究の焦点を絞る。まず、アカデミー研究では、米国の歴史的実体としてのアカデミーを、サイザーやカッツ(M. B. Katz)などの先行研究を踏まえて、その学校組織特性を解明する。と同時に、アカデミーの現代的意義を明らかにするために、英国におけるアカデミーを検討する。その検討は歴史だけでなく、今日的な事態についても最小限おこなう。英国ではアカデミー法(Academies Act 2010)のもとで、「独立政府学校independent state school」と類型化されるアカデミーが設立されてきた(2886校、2013年)。米国のチャータースクールと英国のアカデミーの比較は、「学校法人の多元化」研究では不可欠であり、次期に予定する国際比較研究に引き継ぐテーマとなる。 次に、カリフォルニア州のCMOの研究では、今年度に着手した二つの事例分析を推進する。サンフランシスコ(ベイ・エリア)のKIPPとサンジエゴ地域のHTHが、調査対象となる。と同時に、CMOをチャータースクールの質的進化に位置づけるために、先行研究を検討する。ホルステッターたちの研究をはじめ、全米のCMOを研究してきたCenter on Reinventing Public Educationなどの調査研究から学び、カリフォルニア州の事例を位置づけたい。 なお、私立学校の研究は、マクロ・データと資料の整理とともに、カリフォルニア州の私立学校の実態についても調査する。これも、次期の比較研究につなげる研究の一環となる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「該当なし」。使用計画は以下の通りである。アカデミー研究とカリフォルニア州CMO調査という二つの柱に即して、物品費と旅費に研究費を支出する。物品費としては、まず、アカデミー、チャータースクールおよび私立学校に関連する日・米・英の図書および資料の購入費である。和書は、1冊5,000円として30冊で15万円、洋書は、1冊7,000円として20冊で14万円を使用する予定である。また、物品費としては、プリンターインク(キャノンプリンター、2万円)、パソコン用紙(10冊@500円、1万円)、ハードディスク(2テラバイト2台@1万円、2万円)を予定。以上の物品費の総額は、34万円となる。 カリフォルニア州調査は、4月末から5月初めと、8月末から9月末に実施する。外国航空運賃(1回あたり15万円)が、2回で30万円。宿泊費が合計20日分で30万円(1泊当り1.5万円)、日当・雑費が計6万円を計上する。旅費関係の総額は、66万円となる。 以上、物品費と旅費を合計すると、100万円となる。
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