2011 Fiscal Year Research-status Report
教員養成の「質保証」システムの歴史的検証-イギリスにおける地域教員養成機構
Project/Area Number |
23531086
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
高野 和子 明治大学, 文学部, 教授 (30287883)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | イギリス / 教員養成 / 「質保証」 / 地域教員養成機構 |
Research Abstract |
地域教員養成機構(ATO=Area Training Organization)は,大学の自治に依拠して教員養成の「質保証」を地域ごとに行うシステムであり,戦後改革以降,1970年代末までのイギリスに存在した。ロンドンのATOは,ロンドン大学教育学院(IOE=Institute of Education, University of London)にベースを置き,教育学院と区別するためにWider Instituteと通称された。 Sir William Taylorは,ATOが法令上廃止された1975年をはさむ10年間,IOEの長を務め,在職中はWider Instituteの運営に深く関わった。同時に,Universities Council for the Education of Teachersの議長として,大学が教員養成で役割を果たすことの重要性やATOシステムの維持・改善に関して,大学人の議論をリードする論考を発表してきた。一方,氏は,ATO廃止後に一元的な「質保証」システムとして設立(1984年)された,Council for the Accreditation of Teacher Educationの初代長官を引き受ける。中心的な論客が立場を変更したとも見えるこの経過は,中等後教育の中での教員養成の位置の変化に対応するものであり,氏の選択は今日から見れば,大学における教員養成にとっては生き残り策の意味を持つものでもあった。 今年度は,氏の人生年表を作成し,インタビューは,氏が教員養成の担当者としてキャリアを開始するまでの教育歴を中心に行った。氏が,グラマー・スクールから大学へというルートをとらず,職業教育・技術教育についてのリアリティを持っていたことが,高等教育の中に教員養成を位置づけて考える氏の発想の基盤を形成したのではないかという仮説を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
調査対象とロンドンとランカスターの地域教員養成機構と予定していたが,ランカスターのインタビュイーとして予定してい方と連絡が取れなくなり,対象をロンドンのみに変更した。また,ロンドンのインタビュイーへのインタビュー実施に関して,訪英直前になって録音不可との申し入れがあったため,録音をトランスクライブして研究基礎資料を作成するという計画を変更することになった。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)Sir William Taylorの著作の収集を続け,教員養成における大学の役割及びATOシステムに対する氏の議論の展開を跡づけ分析する。(2)ロンドンATOについて,構成メンバー機関,内部の小委員会と最高意思決定の委員会の組織,大学評議員会との関係など,制度としての基本的な事実関係とその変化の経過をアーカイブ資料から拾って明らかにする。(3)(1)(2)をもとに,再度,Sir William Taylorにインタビューを行い,ロンドンATOが1970年代前半にどのように機能していたか(機能不全を生じていたか),それに対して氏がいかに対処しようとしたのか(対処が不可能であったのは何が要因か)のインタビューを行う。インタビューに際しては,録音が許されないため,通訳および記録のために海外研究協力者の西田幸代氏に同行を依頼する。また,インタビュー内容の分析について,同じく海外研究協力者であるDr David Crookの助言を得る。 なお,当初計画していた(元)学生・(元)地方教育当局関係者へのインタビューは引き続き保留とし,Sir William Taylorへのインタビューに限定する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
イギリスへの調査研究旅費を主とし,その他,Sir William Taylorの著作の購入・コピー及び通訳・記録作成・専門的知識の供与に関わる謝金を支出する。
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