2011 Fiscal Year Research-status Report
高校教育における生徒に応じた支援策のあり方―「諦め」意識と文化的資本の分析から-
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23531099
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Research Institution | Joshibi University of Art and Design Junior College |
Principal Investigator |
山田 朋子 女子美術大学短期大学部, その他部局等, 教授 (50331418)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 学校改革 / 教育支援 / 学校制度 / 文化的資本 / 「諦め」意識 |
Research Abstract |
本年度の研究は、以下のように実施した。 まず先行研究を収集し、これまでの研究成果を踏まえた調査項目の設定のための分析をおこなった。次に、学校現場での調査を実施した。当初予定していた国内の学校調査は、諸事情による学校の混乱も多く見られたため次年度以降とし、本年度は主に比較対象である米国で行った。 米国での調査は、同一地域の小中等学校を中心とした。「諦め」意識を分析するためには成育過程全体を捉える必要があると判断し、中等教育だけでなく初等教育段階での調査を行っている。 対象としたハワイ州は全米で唯一、州教育委員会が州全域を統括している地域である。また、経済的文化的な貧富の格差が大きく、狭義の地域で住み分けがされている。今回対象としたオアフ島北部は、東西の海岸沿いおよそ10km内で貧富の差が大きく、その中に3つの公立小学校と1つの高校が設置されている。小学校の中で、1校はハワイアン系の割合が高く、フードスタンプ受給の家庭環境にある児童が半数を締めながらも、ハワイ州の読み書きの学力テストで州の上位3校に入っている。他の1校は、数年前まで入学希望者が少なく州のテストでも下位にあったが、学校改革によって上位の学力を獲得する成果を上げた。3つ目の学校は、有名な芸術家や本土から移住した富裕層を保護者に持つ児童が中心で、保護者の学校への支援によって施設設備も充実している。同校の保護者の教育要求は、テストの点数よりも幅広い教養と精神的豊かさにある点も注目される。また、同地域にある公立高校は、条件整備が十分でない中、ロボット技術などで全米でも最上位の評価を得ている。 加えて、西部の低所得者居住地域に設置され生徒の興味と関心を伸ばすための新しい教育支援を行っている公立高校、東部の富裕層のエリアに設置されている中等学校での調査を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の全体構想は、高校教育において低学力で多様な困難を持つ生徒が、自分の将来に希望(意欲)を失い「諦め」、学校に失望し苦悩する状況を脱し、将来の社会を担う人材となるために、どのような支援が必要とされ有効なのか、そのシステムを構築することである。その中で本研究の目的は、子どもの背景にある家庭の経済的資本が低い場合であっても、文化的資本が高ければ、将来に対しての希望(意欲)を生み出し学力を高められること、希望の実現に向けて学校教育に期待感を持ち得ることを、生徒の学力を踏まえ、明らかにすることである。特に、「諦め」る生徒に対して、学校教育が文化的資本の不足を補う役割を担うことの必要性を示し、文化的資本の中でどのような要素を支援することが有効で可能なのかを検討、具体的な支援策を考察する。 このような目的に対して、現段階ではおおむね順調に進展している。本年度は、地震などの影響により、日本国内での学校訪問調査が難しい状況にあったので、米国での調査を積極的に行った。その結果、経済的文化的資本の低い環境の子どもが多く在籍するにも関わらず、高い教育成果を得ている学校を調査することができた。特に、それらの学校において、子どもの「やる気」を伸ばすことの重要性に言及する教師の意識とそこでの子どもへの支援施策の実態と結果を収集できたことは、今後の研究の推進に貴重な成果であったと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策として、先行研究の分析を踏まえ、調査対象校でのアンケート及び聞き取り調査、資料収集の調査を行う。調査対象校については、文化的資本と地域性との関係にも着目し、地域の経済状況や環境状況についても調査をする。そして、生徒の「希望(意欲)」と「諦め」に対する意識形成とその背景の関係性を分析する予定である。各学校のデータから比較を行い、意識形成と文化的資本の共通性と異質性を示し、文化的資本の不足項目を明らかにする。 次に、低学力の生徒の「諦め」意識の実態を規定する要因を文化的資本との関係から分析した結果を示し、それをもとに、学校が生徒にできる支援策を検討する。 また、米国では、経済的文化的資本の低い環境の子どもが多く在籍するなかで高い教育成果を得ている学校を対象として、教員の意識や子ども達の意識、学校の支援策を詳しく調査し、併せて教育行政機関での資料収集、その結果の分析を実施する。特に支援策として有効な支援要素に焦点化し、学校の実践に対する教育行政からの支援条件とシステムを明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度は、国内での教育行政機関及び学校への訪問調査のための調査旅費、研究補助の人件費、専門的知識を得るための謝金、通信運搬費、デジタルカメラ及び各機器の周辺機器、現地移動のためのレンタカー賃貸費、収集資料処理のための人件費、などの費用を計上する。 国外での訪問調査のための調査旅費、研究補助の人件費、専門的知識を得るための謝金、通信運搬費、デジタルカメラ及び各機器の周辺機器、現地移動のためのレンタカー賃貸費、収集資料処理のための人件費、などの費用を計上する。 また、資料コピー費、資料書籍購入費、研究情報の収集のための学会参加に関する会費、旅費、を計上する。
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Research Products
(1 results)