2011 Fiscal Year Research-status Report
日米比較研究による学士教育課程を高度化する高大連携教育の体系化
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23531114
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
神原 信幸 新潟大学, 自然科学系, 特任准教授 (50447611)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 高大連携 / 比較教育 / 日本とアメリカ |
Research Abstract |
現在の日本の高大連携は,高校と大学の間の教育の断絶を結ぶものとして導入された.しかし,高校レベルでは教育の質の低下,高等教育側では体系的な学士教育課程の不在という問題に挟まれ,商業化の介在,大学経営問題への矮小化,進学指導以上のものにはならないという生徒へのインセンティブの欠如等のために,本来の社会政策としての教育政策の質を失っているという現状認識から、本プロジェクトを開始した。高大連携の望ましい政策や実践の考察するために,日本とアメリカの高大連携教育の目的,アプローチ,実践の政策を比較するという方法論を用いている。アメリカの高大連携は,社会発展と高等教育の目的に応じ,学術・学芸のイノベーション人材を育てる英才教育としてアプローチ,知識とスキルを備えた人材を輩出することで経済的な発展をもたらす人材養成目的としてのアプローチ,そして教育機会保証によって社会正義を実現するためのアプローチと分化発展し、それぞれ特徴のある政策・制度・実践の形態ができてきた.本研究では、高大連携教育で育成するべきコンピタンシーとは何か、上記の枠組みに沿って類型化・明確化し、それぞれの教育実践・取組制度、評価、改善の手法を日本とアメリカの比較研究に手を付け始めた。すなわち、中等教育および高等教育課程の差異の変遷、それぞれの国の教育機会構造、学生支援制度、高大連携教育が与える大学生活へのインパクト、労働市場からの要請、e-learning 等の活用状況(方法)、高等教育機関、中等教育機関を跨ぐ教育行政管理の仕組、大学教員の役割・意識・ワークロード、高大連携教育に関係する教員とそのトレーニングの方法について精密な現地調査を開始した。また、現実に行われているアドバンスド・プレイスメントの認定評価テストや解答サンプルの実物を入手し、分析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
米国の高大連携について関係を、既存の先行事例研究に基づき、その教育実践についての詳細な概念整理・理論枠組みの構築を行う。特に、初年度においては、高大連携の制度化について焦点をあて、アドバンスド・プレイスメントの創始者であり、現在の総元締めであるアメリカ・カレッジボードの代表者と2011年9月にコペンハーゲンのEAIE大会において接触に成功し、1. 歴史的な経緯、1950 年後半からの今日に至るまでのアドバンスト・プレイスメント教育課程の生成と量的変化、学生がそこで「身につけるべき」コンピタンシー観の変遷(質変化)。2. 全国の大学と高校での制度受容の要因、それに付随する、高大連携教育課程の標準化システムについての成り立ち、成功要因と障害要因。3. その教育実践・取組制度の中に見られる、学生、大学、高校に対するインパクト、その評価手法、特にアドバンスト・プレイスメント・テストについて。4. 運営の改善の手法、教員養成、管理、認証システム、質の保証制度の仕組みについて特に焦点をあてた、聴き取り調査をおこない、多くの知見を得たほか、近年、国際的活動を展開している点について、今までに知りえなかった情報を得ることができた。また、イリノイ州アーバナ・シャンペーンを皮切りに、前掲の3アプローチ(エリート主義、プラグマスティック、シビック)大学・高校・地域の立場からみた高大連携教育のシステム形成、質の保証についての実態例、聴き取り調査を開始した。一方、日本では、教育基本調査で例年報告されている特色ある高大連携活動の中から取組例の中から大阪・京都地域で、新学習要領との関係で聞き取り調査を行い多くの新しい知見を得た。
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Strategy for Future Research Activity |
今年は、前年度からの繰越金という余裕があるので、より精力的に現地・現場調査を行う予定である。また、本年10月にペンシルバニア州立大学で開催されるアメリカ・比較教育学会高等教育部会のワークショップで研究成果を発表し、批判を浴びることで、今後の研究推進に向けての示唆を得ることにしている。調査については、アメリカ・ワシントンDCとニュージャージーにあるアドバンスド・プレイスメントを統括しているカレッジボードの開発部門、同ワシントンDCやスイス・ジュネーブにあるインターナショナル・バカロレアの開発部門、アリゾナMaricopa County Community College System、イリノイ州立大学アーバナ・シャンペーン校周辺の状況を学校観察を含めて、現地調査する予定である。また、わが国の取組事例から促進・阻害要因を聴き取り調査から分析し、わが国の高大連携制度の発展・改善のための施策を提起することを目的に調査・研究活動する。特に、高大連携教育活動の教育現場観察を重視する。現場で実際何がおき、どのようになっているのかは当事者では余りにも当然で意識されないことあり、比較研究から再発見できることが多い。ただ単純に、日本とアメリカの社会制度の差に目をつむるのでは調査や、理解の深化、現場観察からわかる実践への洞察から、わが国の低成長・格差社会時代に社会の発展を支える高大連携制度の構築に資するような、日本の状況に適切に対応できる政策や実践の手段、インプリケーション、可能性・限界点を明らかにしたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
前述のように、今年は、前年度からの繰越金という余裕があるので、より精力的に現地・現場調査を行う予定である。また、本年10月にペンシルバニア州立大学で開催されるアメリカ・比較教育学会高等教育部会のワークショップに参加するほか、訪問調査については、調査については、アメリカ・ワシントンDCとニュージャージーにあるアドバンスド・プレイスメントを統括しているカレッジボードの開発部門、同ワシントンDCやスイス・ジュネーブにあるインターナショナル・バカロレアの開発部門、アリゾナMaricopa County Community College System、イリノイ州立大学アーバナ・シャンペーン校周辺の状況を学校観察を含めて、現地調査する予定である。一方で、後期中等教育から大学教育までで身に着けるべき、普通教育の幅と深さについての発達心理学的な知見を深めることための理論的研究を文献から得て、高大連携のカリキュラム上の課題に対する知見を深めたい。また、インターナショナル・バカロレアやアドバンスド・プレイスメントで必須となっているエッセイ型の試験に関する学力測定の方法論についても、文献研究から知見を深めたいと考えている。
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