2013 Fiscal Year Research-status Report
困難を有する若者への「社会的スキル」形成の実践に関するエスノグラフィー研究
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23531135
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
古賀 正義 中央大学, 文学部, 教授 (90178244)
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Keywords | ソーシャルスキル / 若者支援組織 / 教育困難高校 / 心理主義 / シチズンシップ教育 / 臨床教育学 / インクルージョン / ワークショップ |
Research Abstract |
最終年(3年目)は、困難を有する若者自身の社会的スキル認識と教育諸施設(日本のNPOや社会福祉協議会、低ランク校などと合わせて、アメリカの青少年育成組織)におけるスキル学習実践の特徴について、これまで実施してきた聞き取りや観察、アンケート等のデータと比較しつつ、日米の先端的な実践の特質の違いにも着目しながら、追加データの収集と分析や知見の整理作業を行った。 具体的には、①先端的なNPOや社福協(秋田・藤里他)が主幹となって行っているひきこもり傾向の若者へのスキル学習を観察するとともに、指導者および受講者からの聞き取り調査を行った、②ワシントン周辺にある青少年育成組織・ティーンコートの本部・支部を訪問調査し、非行傾向がありコミュニケーションの円滑でない若者へのディベート型スキル学習を観察するとともに、指導者および参加者からの聞き取り調査を行った、③震災復興の過程でNPO団体等(宮城・女川他)が行っている社会参加意欲のある若者へのスキル学習の実践を観察するとともに、指導者および参加者からの聞き取り調査を行った。 簡略に結果を示せば、①若者調査:スキル形成のためのスモールステップを明確化するとともに、討議型の問題解決学習への参加をファシリテートすることで、「関係づくりのための個人能力の伸長」という観点から抜け出した社会的スキル認識を獲得する若者が散見された。②施設調査:参加する若者相互の能力問題理解の違いを意識させる方法論を駆使して、指導者が場づくりを支援することによって、マニュアル化された学習を越える実践の多様性が生じるケースが見られた。特に、震災復興関連の実践では顕著であった。 以上の点から、ディベートを含んだ参加形態により、個人化されたスキル学習のイメージの変容のあることがみとめられ、特にNPO等の実践ではそれが顕著で、関係性理解のファシリテートが重要であるといえた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
最終年3年目の目標として、昨年来のリサーチクエスチョンの実証分析を進めながら、以下の諸点のデータ整理と解釈をすることによって、一定の成果を得ることができると考えている。また、学会での研究発表を昨年来から引き続き行い、雑誌や書籍への研究論文の執筆も行うとともに、最終報告書の作成を行うべく完成段階に入った。 ①教育困難校卒業生や軽度非行経験者をはじめとした困難を有する若者自身に、彼らの経験知に基づく「ソーシャルスキル」(SS)の内容やイメージを物語ってもらい、こうした当事者の認識と教育諸施設指導者のSSの理解とりわけ実践での強調点の語り方との比較対照を行うことが重要であると理解し研究を進めた。実際のインタビュー調査やその文字お越しデータ等の具体的な分析によって、概ねそのねらいが達成できたと評価できる。②教育諸施設(NPO、社福教、低ランク校、育成機関など)で実践されているSSの活動を心理学手法にそのまま依拠する事例とそれを加工してディベート等を加味して現場に即して実践するケースを区分しながら、現場での参加者と指導者の行動観察を行って、ファシリテートの違いとその影響を分析する試みをしてきた。映像データの整理と音声部分の文字化が一定程度可能となったこともあり、概ねねらいが達成できたと評価できる。③日米の教育諸施設(米・ティーンコートTCとの対比)でのSS活動の違いを比較しながら、文化的な背景に依拠したSS活動理解の違いと実践における強調点の差異を分析することを試みた。特に、非行処遇にかかわるTCでの若者の討議過程はこれまで秘密にされていたが、データ取得の許諾がおり、関連データも入手できて、結果を分析することが可能になった。 以上のことから、全体的には順調に調査分析が進行しており、さらに広がりを持って研究コミュニティでの成果提示が可能になっていく方向にあるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年3年目までに「ソーシャルスキル認識の分析」にかかわるデータの包括的な収集と整理分類の作業がおおむね順調に進捗してきたといえる。それを踏まえて、今後、以下のような分析を進め、その結果を平成26年度内に公表していく予定である。 ①教育困難校卒業生のソーシャルスキルの語り方に関して、これまで『現代思想』(2013年4月号)などに論考として公表してきたが、さらに『マナーと礼儀作法の教育社会学』(印刷中)の1章として「マナー不安の時代―職場適応のスキルを物語る若者たち」にまとめ、公表することになっている。ここでは、ビジネスマナーとソーシャルスキルとの関連についてより深い実証的分析がなされている。②NPO等の若者にかかわるソーシャルスキル形成の実践については、一部、独立行政法人・教員研修センターで開催される「キャリア教育研修」等でも公表することとしている(発表資料提出済み)が、東京・NPOの事例(宮城・女川での実践を含む)や秋田・藤里の社福教の事例など、個別に実践が行われているものが多々あるので、全体を整理して報告書としてまとめることにしたい。すでにその手筈が整っている。③アメリカでのティーンコートにおける軽度非行少年とそのピアサポートに関するソーシャルスキル形成の実践について、一部、TC全米本部のHPにも研究活動が紹介され、国際法社会学会でも発表したが、文字お越し等の補足的作業も行いつつ、特徴的な事例を中心に、全体を整理して別の報告書としてまとめることにしたいと思っており、準備が進んでいる。 以上のように、全体を通してソーシャルスキル形成の実践を分析することによって、コミュニケーションスキル能力が問題視されるような言説の渦中にある若者たちのどこに社会参加を妨げる真の要因があるのかを明確にしていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「ソーシャルスキル」形成を試みる諸教育・支援機関や団体の斬新な実践に関する情報が新たに収集でき、その研究対象に合わせて、当初予定していた調査の実施をやや遅らせることとした。そのため、こうした海外の支援組織調査や国内の支援施設調査等の実施報告を整理し分析して書面・資料にするうえで、予想以上の時間がかかり、当該の年度末では十分に完結しえないと判断せざるをえなかった。そこで、研究期間の延長を要望し、今後の研究に有益となり、より密度の濃い完成された報告書の作成をめざすことにしている。 未使用経費は、一部の実査資料の整理作業にもごく少額を支出する可能性があるが、基本的に報告書の作成およびその送付の経費として使用する予定である。それゆえ、早急に報告書の内容を完成し、まとめて印刷代等として執行したいと考えている。発行部数やページ数なども具体的に検討し見積もっているので、特段の支出上の問題はないと考えている。平成26年度の夏には発刊するようにしたいという見通しを持っている。
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Research Products
(9 results)