2011 Fiscal Year Research-status Report
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23531144
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Research Institution | College of Nagoya Women's University |
Principal Investigator |
石倉 瑞恵 名古屋女子大学短期大学部, その他部局等, 講師 (30512983)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際情報交流 / チェコ / 高等教育 / 私立大学 / 欧州高等教育圏 / 質的指標 |
Research Abstract |
チェコにおける多様な私立大学の教育・研究の質を可視化、類型化するために、私立大学の多くを占める首都圏(プラハ)の経済系私立大学を中心として、そのカリキュラムやプログラムを調査し、私立大学の質を測定するための指標を検討しようと試みた。7月までは、高等教育法、チェコ高等教育研究センターから取り寄せた資料を分析し、私立大学設置基準と公立大学との組織的相違を明らかにした。8月のチェコ調査における資料収集、大学訪問、高等教育研究センターでの議論を踏まえて、9月以降は公立大学との更なる比較分析、私立大学の基本的類型構築と首都圏経済系私立大学の分布分析に取り組んだ。急速に発展する私立大学の質的研究は、日本の私立大学のあり方にも示唆を与えるものである。 課程、大学規模、教員等から公立大学と私立大学との比較分析を行った結果、私立大学の特殊性が、強みと弱点の二つの側面として機能していることが明らかになった。例えば、私立大学には学生数が少ないという特色がある。それは、十分な財源を確保できずに大学の学術創造活動への妨げとなるという弱点である一方で、学生に対する個人的ケアが行き届く、さらには時代と産業の需要に応じて教育内容をフレキシブルに修正できるという強みともなっている。 首都圏経済系私立大学のカリキュラム、プログラム分析を通して、「国際志向性」と「国際的受容度」という指標の中に私立大学を位置づけ、類型化する手法を考案した。「国際志向性」は、教員、教授用語、学位、単位互換制度、インターンシップの5項目からなり、国際的受容度は、留学生の割合によって示される。首都圏経済系私立大学に関しては、両者の指標が高い大学よりも、国際志向性のみ高い私立大学の方が多いことが明らかになった。又、今後調査する予定である地方の経済系私立大学や非経済系私立大学に関しては両者の指標が低いことが予想される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
私立大学の特色を公立大学との比較で把握し、公立大学分類と対比させて私立大学を位置づけることから研究に着手した。その内容は本研究の序章的位置づけであるが、日本比較教育学会第47回大会において「チェコ私立大学類型化のための指標の検討」として口頭発表を行った。この発表を発展させてチェコ私立大学類型化に関する仮説を立てた上で、チェコ調査計画を立案し、実施した。そのため、チェコ調査においては、チェコ高等教育研究センターでのヘレナ・シェプコヴァ氏、ペトロ・パビアン氏との議論を踏まえ、研究視点を発展させることができた。首都圏経済系私立大学を訪問し、シェプコヴァ氏の助言により「ありのままを把握」すると同時に、カリキュラムとプログラムについての情報を収集した。さらに、科学アカデミー、カレル大学等において文献収集を行った。 チェコ調査後は、情報をまとめ、9月までの分析成果に基づいて「チェコにおける私立大学の成立と展開」と題する論文を執筆した(『名古屋女子大学紀要』第58号)。この段階までは、研究計画に沿った進行であり、高い自己評価を付すことができる。 しかし、調査対象とした私立大学について、ドイツ、オーストリア高等教育機関との対比を行いつつ、質的指標を検討する計画については着手できなかった。それは、次の理由による。第一に、シェプコヴァ氏により指摘を受けた通り、現地調査を通して「ありのままを把握」していない他国高等教育機関との比較を行った場合、表面的な分析にとどまる恐れがあるからである。第二に、チェコ私立大学を多角的に分析することを通して、類型化のための多様な二次元軸を検討することこそ、本研究の目的である私立大学の教育・研究の質の可視化に必要であると考えたからである。 したがって、研究の方法を変更したという点で、現在までの達成度には「おおむね」という自己評価を与えた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、以下の3点を念頭において研究を進める。 第一に、調査対象私立大学を地方の経済系私立大学、非経済系私立大学へと拡大する。次年度は、カレル・エングリス・カレッジ(ブルノ)、経済大学(ズノイモ)等の地方経済系私立大学のカリキュラムやプログラムを詳細に調査し、首都圏経済系私立大学との比較検討を行ないながら、23年度に検討した「国際志向性」及び「国際的受容度」指標の上に類型化を試みる予定である。前年度調査対象大学群との比較を通して、最終的には私立大学全体としての類型化分布を試みることが可能であると考えている。 第二に、学生数の多少、博士課程の有無等、国際性以外の観点からの類型化指標を考案する。公立大学との比較により、少ない学生数が、学生の個人的ケアを可能にしていることを明らかにした。すなわち、高等教育研究センター長シェプコヴァ氏により指摘を受けたように「学生の満足度」という視点からの質的指標が可能である。欧州高等教育圏構想においては、欧州的次元を達成することと多様な学生の需要に応えることが焦点となってくるために、「学生の満足度」という指標は「国際性」と並んで不可欠な指標であると考えられる。又、研究計画執筆当初は、ドイツ、オーストリア高等教育機関との比較に基づいた質的指標を構築することを予定していたが、「学生の満足度」等、チェコ私立大学に内在する要素から多様な指標を構築することに焦点化したい。 第三に、私立大学を類型化するという本研究の大前提として、チェコ私立大学の研究と教育の理念とは何かを明らかにする。私立大学設置認可当初から現在までの教育・青年・スポーツ省や大学関係者の議論に関する資料を収集、分析し、調査した私立大学の実像と照らし合わせつつ、私立大学の研究と教育の理念を明示する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
6月の日本比較教育学会(九州大学:福岡)において研究成果を発表する(口頭発表「チェコ大学が目指す教育と研究の理念 民主化と民営化をめぐって」)。そのための旅費として7万円をあてる。内訳は、交通費42千円、宿泊費26千円(学内規定に従った金額)となる見込みである。 8月にチェコ調査を実施する。資料収集、高等教育研究センターと大学訪問、文献・出版物等の発送作業を念頭におき、2週間以上の滞在を予定している。そのための旅費として60万円をあてる。チェコ調査旅費の内訳は、ルフトハンザ航空渡航費30万円、宿泊費30万円(20日程度、一泊15千円、学内規定よりも低い金額)となる見込みである。チェコ調査時に購入するチェコ高等教育関連の文献には、一冊3.5千円程度のものを30冊程度購入するとして、10万円をあてる。購入、複写した文献・出版物をチェコから送る際の書籍小包料は、一箱5kg5千円として計算し、5万円となる。 日本においてチェコ関連の文献を購入する場合、古書となる場合が多い。絶版となり希少価値が高く高額になるものもある。8千円程度のものを10冊購入するとして、8万円となる見込みである。 以上の旅費、文献・出版物費の他に、画像、音声保存用記録媒体、情報整理、論文執筆に必要なパソコン用記憶媒体、レーザープリンター用トナー等消耗品購入費用として8万円をあてる。 23年度は学内行事の合間をぬってのチェコ調査であったために、滞在日程がやや短く、文献購入量が少なかった。そのために、予算を残すこととなった。次年度は、余剰分をチェコ調査旅費と文献・出版物費に充当する。
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Research Products
(2 results)