2011 Fiscal Year Research-status Report
地方分権化時代の地域密着型小・中一貫ものづくり科に関する調査研究
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23531164
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
坂口 謙一 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (30284425)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 小・中一貫 / ものづくり教育 / 技術・職業教育 / キャリア教育 / 普通教育 |
Research Abstract |
長野県諏訪市は,平成20年度から,市独自の取り組みとして,市立小学校・中学校の全校において,小・中9年間を一貫した特別必修教科「相手意識に立つものづくり科」を開設している(以下「ものづくり科」と略記する)。本研究は,この「ものづくり科」に焦点を当てたフィールド研究である。平成23年度は,この教科のうちの小学校の部分を調査・分析し,とくに教育目的と教育課程編成の面を中心にして,その内容と特徴を明らかにすることを目的とした。このことによる主要な解明点・成果の概要は以下の通りである。(1)「ものづくり科」の営みの最も重要な特徴の一つは,地場産業との関わりを重視しながら,その関連性を,企業の論理ではなく,教育の論理の文脈で意味づけようと努力することにより,結果として技術・職業教育の性格を強く示しつつあることであると考えられた。すなわち,「ものづくり科」では,企業が求める消費者ニーズという文脈を,「家族や友人,使う人や買う人など」の「相手意識に立」った技術・職業的活動の文脈へと教育的に組み替え,小・中を通して,児童・生徒が,自分以外の者の要求に見合った物品を製作したり,製作物の販売体験等を行っていた。製作者以外の,他者の利用を前提とした物品製作と販売をめざしているので,他者とのコミュニケーションや共同作業の尊重,製図・図面の重視,道具・材料の適切な取り扱い等が大切にされていた。こうした傾向は,とくに小学校段階の取り組みにおいて顕著であると見られた。(2)各小学校での実際の「ものづくり」科の取り組みについては,6学年を通した教育課程編成には画一性はほとんど認められず,多様であった。具体的には全7校の実践は,概ね次の6種に区分することができた。すなわち,(1)総合学習学,(2)技術科型,(3)「二度づくり」重視型,(4)全学年統一型,(5)教科連携型,(6)外部講師活用型,の6種である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の本研究の課題は,主要には次の二つを設定した。(1)諏訪市教育委員会が地元企業等と共同で作成した「ものづくり科」の教育課程基準に焦点を合わせて,そこに見られる教育目的と教育課程の内的構造の特徴等を明らかにすること,(2)小学校(全7校)のうちの少なくとも半数程度について,「ものづくり科」の実際の教育課程,教育実践の特徴等を解明すること,の2点である。上記「研究実績の概要」で述べたように,これら二つの課題は概ね達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)平成24年度は,平成23年度に概ね解明した小学校段階の「ものづくり科」の教育課程構造の特徴等を再確認しながら,新たにその上の中学校段階の「ものづくり科」に関する調査・分析を重点的に進める。諏訪市立中学校は全4校である。予備調査等から,中学校段階の「ものづくり科」の取り組みは,各校ごとの多様性よりも,4校に共通する側面が強く,その点で小学校段階の多様な取り組みとは大きく異なっていることが予想されている。(2)中学校段階の取り組みに関する主要な分析の観点としては,(1)小学校からの接続関係,(2)教育目的と教育課程構造,(3)教育条件(物的条件・人的条件・財政措置)の三つを設定する。(3)また,諏訪市以外の地域の関連する取り組みの状況についても,今後の比較検証のため,予備的・概括的に調査する。他地域での関連する取り組みとしては,諏訪市近隣地区よりもむしろ,諏訪市とは社会・経済的状況が異なった地域に注目したい。具体的には,富山県高岡市での「ものづくり・デザイン科」(小・中),福島県喜多方市での「農業科」(小)などが考えられる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
(1)上記「今後の研究の推進方策」で述べたように,平成24年度の主要な研究課題は,諏訪市「ものづくり科」の取り組みのうちの中学校段階に関する調査・分析である。平成24年度の研究費は,この現地調査のための旅費や文献資料等の購入費,データの整理・分析等で必要となる各種消耗品,研究成果発表費等に当てる。(2)平成23年度の研究費のうちの未使用分は,主要には,予備調査の結果をふまえて予想以上に現地調査を効率的に遂行できたこと等により,諏訪市への現地調査の回数が当初の予定よりも少なくなったことにより生じたものである。(3)他方,平成23年度の調査・分析により,今後の比較検証のため,他地域での関連する取り組みにも注目する必要性が当初の予定よりも高まった。このため,平成23年度の未使用分は主にはこの他地域の概括的な調査に当てる予定である。なお,平成24年度の研究費としては,当初から諏訪市の現地調査を首尾よく遂行できるだけの費用を計上しているので,こうした他地域の調査が,当初の研究計画及び研究費の使用計画に大幅な変更を及ぼすことはない。
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