2012 Fiscal Year Research-status Report
地方分権化時代の地域密着型小・中一貫ものづくり科に関する調査研究
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23531164
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
坂口 謙一 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (30284425)
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Keywords | ものづくり教育 / 技術教育 / 職業教育 / キャリア教育 / 普通教育 / 小・中一貫 / 地方分権化 |
Research Abstract |
長野県諏訪市は,平成20年度から,市独自の取り組みとして,公立小・中学校全校で小・中9年間一貫の特別必修教科「相手意識に立つものづくり科」を開設している(以下「ものづくり科」と略記する)。本研究は,この「ものづくり科」に焦点を当てたフィールド研究である。平成24年度は,この教科のうちの中学校の部分を調査・分析し,とくに教育課程と教育実践の構造に関する内容と特徴を明らかにすることを目的とした。このことによる最も基本的な解明点と成果の概要は以下の通りである。 (1)「ものづくり科」の教育目的については,児童・生徒たちは,自分自身(製作者)のためというよりもむしろ,自分以外の他者が利用するのに適した物品を製作するという,市が打ち出した最も基礎的な基準(目的観)が,各中学校にも受容され,個々の教育実践のベースに根づきつつあると見られた。ただし,各中学校は,この標準的な目的観に準拠しながらも,主体性を発揮しつつ,目的設定に工夫を凝らしていることも確かであった。 (2)このことは,単元編成や授業時数の運用の面にも大いに認めることができた。各中学校で実際に行われていた「ものづくり科」の授業は,市の基準では明示されていなかったけれども,授業時数の運用方法を工夫するなどして技術科の授業と密に連携されている部分が顕著に認められ,「ものづくり科」と技術科の授業を一体的に取り扱う営みが少なからず存在していた。また,2009年度以降,中学校4校が歩調を合わせて協同的な教育課程づくりに取り組んでいた。 (3)これらのことは,中学校段階の「ものづくり科」は,小学校段階とは異なり,ほぼ専ら技術科教員が担当しているという人的教育条件に実際には強く導かれていると見ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の課題は,小学校段階に焦点を合わせた平成23年度の成果にもとづいて,その上の中学校段階の教育課程・教育実践の構造の解明に集中することであった。「研究実績の概要」で述べたように,この課題は概ね達成できた。ただし,今後に委ねられた課題も少なくなかった。その一つは,教育条件の一つである担当教員に関する問題である。中学校段階の「ものづくり科」は,小学校段階とは異なり,ほぼ専ら技術科教員が担っており,このため小学校段階よりも担当教員間の交流が密に行われ,このことが小学校には見られない中学校に特有の構造を生みだしていると考えられた。しかし,このことに関する詳しい調査・分析は今後の課題として残さざるを得なかった。このように,「ものづくり科」の教育課程・教育実践の構造と不可分な関係にある教育条件の側面に関する調査・分析は今後の重要な研究課題の一つである。
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Strategy for Future Research Activity |
平成23~24年度の2年間に「ものづくり科」の教育課程・教育実践の構造それ自体は,概括的ではあるけれども概ね調査・分析した。ただし,平成23年度に小学校段階,平成24年度に中学校段階をそれぞれ集中的に調査・分析したので,各々の教育段階の内容と特徴は概略明らかにできたが,小・中の9年間を一貫して分析するという観点は弱かった。最終年度の平成25年度の研究課題は,第一に,「ものづくり科」の教育課程・教育実践の構造を,小・中一貫の視点から解明することに設定したい。 また第二に,「現在までの達成度」で述べたように,とくに平成24年度の中学校段階の分析結果から示唆される如く,「ものづくり科」の営みの構造は,教育条件に規定されている部分が少なくないと考えられる。ここで言う教育条件とは,大きくは,①施設・設備などの物的条件,②教員・学外協力者などの人的条件,③私費負担を含む財政措置,の相互に密接に関連する3側面から成るものである。平成25年度は,第二に,教育条件の側面の調査・分析を進めたい。 そして第三に,平成25年度は最終年度として,この3年間の研究成果を総括する。この総括に際しては,「ものづくり科」の営みそれ自体のみならず,国内外の関連する動向にも視野を向けるように努めたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究費は,まず第一に,平成23~24年度と同じく現地調査の旅費に当てる。この場合の調査対象地は,諏訪市のほか,関連する取り組みの経験を持つ富山県高岡市や福島県喜多方市などの他の地域も含んでいる。 また第二に,本取組の3年間の研究成果を総括するため,国内外のものづくり教育,技術・職業教育に関する文献資料の購入費にも重点的に当てる予定である。
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