2011 Fiscal Year Research-status Report
交渉能力の育成をめざした社会科教育の理論研究と教育ゲームの開発、実施、評価
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23531191
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
吉永 潤 神戸大学, 人間発達環境学研究科, 准教授 (50243291)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 社会科教育 / 交渉能力の育成 / 教育ゲーム / 公共圏の同心円構造 / 公共圏の複数性 |
Research Abstract |
本研究は、社会科教育における「公共圏の同心円構造(ないし階層構造)」の前提を批判的にとらえ、自己や自集団の利害・価値の実現を、他者・他集団との水平関係的な交渉を通じて追求する能力の育成と、それを通じた「公共圏の複数性」の認識の形成をめざす。その手段として、交渉を体験する教育ゲームの開発・実施・評価を行う。 当該年度においては次の計画を立てた。(1)現在の社会科において「公共圏の同心円構造」前提とその問題性が広く共有されていることの確認。(2)近年の社会理論における公共圏、公共性に関する諸学説の動向の把握。(3)ゲーム開発に資する諸文献の分析。 次の諸点が判明した。(1)社会科授業において、複数の利害・価値の葛藤場面を導入し、討論、意思決定や合意形成を行わせる実践は広く見られるが、対立の解決それ自体が目標とされ、交渉を通じた利害・価値実現の追求が目標とされた例は見られない。以上から、葛藤当事者性を越えた、より広い公共圏の構成員としての自覚育成が自明の目標とされていることが確認された。(2)近年の社会理論においては、近代西欧社会規範の限界の自覚や相対化に向かうポストモダンの動向、普遍的正義理念への懐疑と正義の複数主義を唱えるコミュニタリアニズムの動向などが確認された。(3)高校までを対象とした教育ゲームの開発事例は依然多くないが、大学教育・研究でのゲームの利用や職業人を対象としたビジネスゲームなどの開発は多数行われていることが判明した。またゲーム理論や戦略論は、社会的対立の基礎分析(対立の質の分類や解決難易度の評価など)に資することが判明した。 以上につき、主に(1)に関しては2本の学術論文(査読付)を執筆した(既刊1本、印刷中1本)。また(3)の成果の一部については、試行的に中学校キャリア教育向けゲームの開発・実施に活かし、成果を学術論文1本(査読付)にまとめた(投稿中)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該年度においては、既存の社会科研究と実践の動向についての概観と考察、関連する社会諸理論の動向把握、教育ゲーム開発の状況調査およびゲーム・交渉や戦略に関する関連諸理論の動向把握、の各点を課題とした。これらの諸点に関し、文献収集と読解による研究、関連学会出席による情報収集と分析、および現在の社会科の実践状況に関する批判的考察を行った2本の論文作成、の3点で進捗があった。しかし、これらの基礎的な情報収集、分析、考察の作業は次年度以降も継続を要する。 もう1点の進捗は、中学校キャリア教育の分野においてではあるが、実際に職業体験ゲーム(パン屋経営を題材とした)を開発し、中学校1年生を対象として実施し、ゲームの教育効果を評価した点である。このゲームは、本研究の目的とする交渉能力そのものの陶冶を目指したものではないため、本研究にとっては副次的位置づけにあるが、ゲームの実施、その実施状況の記録、記録の分析、教育効果の測定、ゲームの総合評価などの各点できわめて重要な知見を得ており、次年度の交渉ゲームの開発に直接資するところが大きい。この成果については1本の学会発表、および1本の投稿論文作成を行った。なお、このゲームの開発と実施は予定以上の進捗ではあるが、本研究の目的にとり副次的とみなし、研究状況の総合評価は「おおむね順調」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
翌年度における最大の課題は、実際に交渉を体験させる教育ゲームを開発し、少なくとも大学生被験者を対象とした試行実施に漕ぎつけることである。現在のところ、ゲームのシナリオ作成のための資料の収集を開始しており、借案として、歴史に取材した「ポーツマスでの日露交渉」および「キューバ、ミサイル危機交渉」の2点を、それぞれ中級および上級難易度のものとして考慮中である。もう一点、初級難易度のものの開発を予定しているが、シナリオは未定である。これらの実施結果とその評価については、翌年度、間に合えば学会に報告し、少なくとも大学紀要における研究報告(査読なし)にまとめ、報告する予定である。 翌年度のもう一つの課題は、上記ゲーム開発と並行し、教育ゲーム開発やその他各面でのゲーム開発、実施の国際的状況を把握することであり、このため米国への調査旅行を企画している。現在のところ、翌年春に実施されるGame Developers Conference(カリフォルニアにて開催)への出席を予定している。また米国の学校教育での教育ゲーム実施につき見学可能か調査中である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次の各点につき、費用を要する。(1)交渉を体験させる教育ゲーム開発のための資料収集費用。(2)ゲームの試験実施に係る被験者謝礼、ビデオ撮影・評価データ収集と分析に係る補助員雇用費用。(3)ゲームのデータ処理に特化し、情報セキュリティ観点からインターネットに接続しない専用PC1台の調達費用。(4)米国調査に係る旅費、および通訳雇用費用。(5)国内学会出席に係る旅費。 なお、本年度につき、5,300円の残額を発生した。この残額は端数として発生したものである。この金額を次年度使用額に繰り込む。
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Research Products
(3 results)