2012 Fiscal Year Research-status Report
「ぴょんこ」リズムの生成と子どもによる変容過程―その歴史的,理論的、心理学的研究
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23531194
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Research Institution | Wakayama University |
Principal Investigator |
嶋田 由美 和歌山大学, 教育学部, 教授 (60249406)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小川 容子 岡山大学, 教育学研究科, 教授 (20283963)
水戸 博道 明治学院大学, 心理学部, 教授 (60219681)
村尾 忠廣 帝塚山大学, 現代生活学部, 教授 (40024046)
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Keywords | リズム変容 / 「ぴょんこ」リズム / 日本語歌詞 / 等拍 / 旋律創作実験 |
Research Abstract |
平成23年度の研究成果から日本語歌詞がリズム変容に強い関連性を持っていることが確認された。即ち、促音、撥音、拗音という日本語歌詞が持つ特性が、「ぴょんこ」リズムの生成に大きく寄与していると考えられるのである。この研究成果を受けて平成24年度はこれら日本語の歌詞の特性である促音などを含んだ歌詞と含まない歌詞に自由に旋律を付けて歌わせるという旋律創作実験を行い、被験者がどのようなリズムでこの歌詞を歌うかを分析することによって、日本語歌詞と「ぴょんこ」リズムの関係性を明らかにすることを焦点化して研究を推進した。さらに、先行研究からは一定のテンポ以上では「ぴょんこ」リズムになりやすい傾向があることが示唆されているので、このテンポという側面も、リズム変容の一つの要因と考える必要性が生じていた。そこで、上記の旋律創作実験に際して、二種類の異なるテンポを指示することを加味する実験を構想した。これらの実験の結果、全体的には「ぴょんこ」リズムの出現が多い中でも、特に、促音などを含まない歌詞による旋律創作実験を行った被験者グループに比して、これらを多く含む歌詞に基づいて旋律創作を行った被験者グループの方に、より「ぴょんこ」リズムになる傾向が認められた。一方、テンポに関しては一定の関係性があることは認められたが、今後、異なる手法での実験による精査の必要性が明確となった。さらにこれらの実験を経て、歌詞とテンポ以外の要因として、唱歌調の歌詞内容が持つイメージが「ぴょんこ」リズムの生成を促しやすいのではないか、また、「きちんとした歌」から「語り調」の歌にまで及んだ被験者の再生時の歌から、歌唱時の音高の有無もまた「ぴょんこ」リズムの生成に関わっているのではないかという点が示唆され、次年度の研究推進の課題として提起された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究に着手した段階でまず、日本語の促音や撥音などによって「ぴょんこ」リズムが生成されるという仮説をたてた。平成23、24年度の2年間の研究ではこの仮説の検証が行われたが、とりわけ促音や撥音がリズム変容に大きく寄与することが明確にされた。またもう一つの仮説である、歌詞内容のイメージによって「ぴょんこ」リズムに変形、或いは変容が生じるという点に関しても、平成24年度の旋律創作実践の結果、検証に値する仮説との確証が得られ、平成25年度に向けて新しい手法の実験が展開されることとなった。このような点で、当初の研究計画が順調に進展されていると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
前年度の促音や撥音を含む、或いは含まない歌詞による自由な旋律創作歌唱実験により、「ぴょんこ」リズムの生成に歌詞とテンポの影響がみられたという研究成果と、その際に明らかとなった課題を踏まえ、平成25年度は特に、等拍リズムとして記憶しても「ぴょんこ」リズムになりやすい傾向が見られることに関して以下の3つの仮説を設定して研究を進める。即ち、(1)「促音・撥音・拗音」が含まれる歌詞は「ぴょんこ」リズムになりやすい、(2)歌詞が持つイメージが「ぴょんこ」リズムを促す、(3)拍頭のアクセントと旋律輪郭のアクセントが一致していると「ぴょんこ」リズムになりやすい、という仮説である。これらの仮説を検証するために上記項目の諸要因を含んだ新規旋律を作成し、記憶再生実験を行う。この実験には等拍になりやすいイメージを持つ歌詞、および躍動感が醸し出される歌詞を、音程跳躍やアクセントの位置に留意しながら新規に作った旋律と組み合わせて創作した6種類の課題を用いる。なお、提示音源としては一人の歌い手による伴奏がつかない歌唱だけのものを使用する。予備実験を経て本実験では被験者に提示音源を正確に歌えるまで覚えさせ、一定の期間後に再度想起させて歌わせ、その結果を分析する。これらの分析結果は、平成25年度の日本音楽教育学会等の全国大会において口頭発表を行い、関連領域の研究者からの示唆を得て、さらなる検証実験を行う予定である。そして最終的にはこれらの研究成果を踏まえて、日本人のリズム感覚の形成と変容に関する理論的モデルの構築を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は記憶再生実験の本実験とその結果分析にあたり、相当数のデータ分析の研究補助者が必要となる見込みであり、研究計画に即して研究費を使用する予定である。同時に、日本人のリズム変容に関する資料収集も引き続いて行い、データの分析結果の補完的資料とする予定であり、この面でSPレコードや古書の購入が必須である。 なお、研究推進に伴って平成24年度中に、「ぴょんこ」リズムの変容に関する想起実験を新しく計画し、実験方法の精査のために予備実験を東京と仙台にて行った。しかし予備実験の実施途中で、今回の実験は、その実施手続きが被験者の音楽経験の違いに大きく影響されることがわかり、実験方法を当初の計画から変更する必要性が明確になった。そのため、予備実験を一時中断し、実験方法を再検討した上で、25年度中の本格実験に先駆けて当該年度の早い段階で再度予備実験を行うこととした。その結果、24年度中に予備実験の費用として確保していた予算を25年度に繰り越すこととした。
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