2012 Fiscal Year Research-status Report
思春期における造形表現の質的変化をふまえた美術教育の方法論に関する研究
Project/Area Number |
23531217
|
Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
新井 哲夫 明治学院大学, 心理学部, 教授 (40222715)
|
Keywords | 思春期 / 思春期の美術教育 / 造形表現の発達的特性 / 描画表現の危機 / 描画表現のメカニズム / 描画指導のシステム化 |
Research Abstract |
平成24年度は当初の研究実施計画に基づき、(1)思春期の美術教育に関する実践事例の収集と分析、(2)題材及び指導法の開発、(3)研究協力者からの意見聴取、(4)開発した題材及び指導法の試行と評価、等を行った。 (1)については、雑誌・書籍等に掲載された実践事例を収集し、その基本的な指導理念や方法等に関する比較検討を通してそれらの意義と課題を明らかにするとともに、思春期の発達的特性を十分に考慮した指導のあり方について考察した。その成果の一部は論文「思春期の子どもの描画指導─描画指導のシステム化の問題をめぐって─」にまとめた。 (2)については、研究代表者が思春期の子どもへの応用を意図して、美術を専門としない学生を対象とした描画指導プログラムの開発を行うとともに、研究協力者(群馬県及び滋賀県の小・中学校教諭19名)に思春期の発達的特性に配慮した題材及び指導法の開発を依頼した。また、思春期の子どもを対象とした題材及び指導法に関する検討結果(中間報告)については、第四次美術教育ぐんま塾合宿において、「「図式期」から「図式期以後」への橋渡しをどうするか?」として発表を行った。 (3)については、研究協力者による題材及び指導法の開発に関する実践報告会を兼ねた研究会を開催し、実践の成果を共有するとともに、思春期の子どもを対象とする美術教育の現状及び課題等について種々意見交換を行った。 (4)については、研究代表者が美術を専門としない学生向けに開発した描画指導プログラムを、小学校教科専門科目「図画工作」で試行し、その有効性について検証を試みた。その成果は、第四次美術教育ぐんま塾6月例会において、「水彩画の基礎技法から絵画演習、そして完成作品と参考作品の鑑賞を通して、見ることと描くこととの関係や絵を描く意味を考えさせる授業」として口頭発表を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成23年度積み残した「造形活動における表現イメージの形成過程とそのメカニズム」に関する先行研究の調査については、今年度も十分な取り組みができなかった、それは、造形活動(特に描画)に関する創作活動の内的プロセスについて取り上げた研究が少ないこと、とりわけ発達途上の子どもの創作活動の内的プロセスに注目した先行研究はほとんどみられないことが直接的な理由である。そのため今年度は、従来の美術科教育では、授業における創作活動のプロセスがどのように認識されてきたかを検討するにとどまった。その成果は、論文「学習指導案の歴史と図画工作・美術教育」、口頭発表「授業研究の基本的課題としての図画工作・美術科における「教授学習過程」の検討」で公開した。 ところで、思春期のおける造形表現(特に描画)の停滞という問題は、単なる表現技術の問題に還元できるものではなく、「造形活動における表現イメージの形成過程とそのメカニズム」に起因すると考えられる。このことから、表現イメージの形成過程とそのメカニズムの解明は、今後、思春期における造形表現の質的変化をふまえた美術教育の方法論を明らかにする上で、最優先課題として位置付けるべきことがらである。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は、造形活動(特に描画)における表現イメージの形成過程とそのメカニズムの解明を再優先課題として位置付け、視覚イメージに対する心理学分野の研究成果等についてさらに調査を行うとともに、芸術学関連の先行研究に加えて、画家等の創作者自身が自らの創作体験について反省的に論じたテキストや自叙伝等にも対象を広げ、調査を行う必要がある。 また、図画工作・美術の授業において行われる創作活動には、専門家の自由な創作活動とは異なる要素が少なくない。例えば、学校の授業システム(時間割)の中に位置付けられているため、個々の子どもの意思とは無関係に活動時間が定められている。しかも授業では、教師が可能な限り子どもの主体的な意思を尊重しようとしたとしても、子ども一人一人がそれぞれ別々の活動を行うことは不可能である。つまり、表現活動のテーマや材料・用具等についてある種の強制や規制が働かざるを得ない。したがって、このような条件下で行われる表現活動の性格に配慮しつつ、その教育的意義や可能性等についても検討する必要がある。 以上のような課題を解決することを通して、思春期における造形表現の発達的特性に配慮した美術教育のあり方や具体的な指導の方法について、新たな知の創出をめざしたい。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今年度は研究の最終年度であり、これまでの研究をさらに深化させるとともに、個々の研究成果を統合し、造形表現にかかわる思春期の子どもの発達特性をふまえた美術教育の方法論として具体化する必要がある。 当初は研究報告書の作成のための経費に多くを配分していたが、昨年の実績をふまえ、群馬県と滋賀県の研究協力者との連絡調整のための旅費により手厚く配分することにした。そして、連絡調整にあたっては、予算の許す範囲で実際の授業を参観する機会を設け、より実践に即した観点から思春期の子どもを対象とする美術教育の方法論を探れるようにしたい。 研究費の内訳は以下のようである。物品費(美術教育関連文献,文具等の消耗品)として100,000円、国内旅費(調査研究旅費、共同研究者旅費)として400,000円、謝金(実践報告等の原稿料)として200,000円の計700,000円である。
|
Research Products
(6 results)