2012 Fiscal Year Research-status Report
造形教育に関する一考察 ―物質性と肌理の関係から―
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23531226
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Research Institution | Nippon Bunri University |
Principal Investigator |
足立 元 日本文理大学, 工学部, 准教授 (10389554)
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Keywords | 造形素材の物質性 / 質感化 / デジタル画像 / 材料研究 / 造形技法 / ヴィジュアル・リテラシー |
Research Abstract |
この研究は造形活動において造形素材の物質的な特性が、表現とどのような関わりを持つかという点に関するものである。これまでに扱われていない新たな素材として、デジタル画像を取り上げて研究対象とする。これを造形素材として用いることができれば、造形の手法を拡張することが可能になると考えられる。以下、現在までの研究の概要を述べる。 素材に関する研究はバウハウスで行われた予備工房における材料研究や素材研究が知られている。さらにロシア・アヴァンギャルドの画家マレーヴィチは、彼の著作のなかでファクトゥーラという概念を用いて彼の提唱するスプレマチズムについて述べている。ファクトゥーラとはテクスチャと関連する概念と考えられ、この概念がスプレマチズムの中核をなすことは非常に興味深い。 またブルーノ・ムナーリは1967年にハーヴァード大学にて講義を行ったが、そこで彼はヴィジュアル・コミュニケーションの媒体の一つとしてフォルムや構造などと共にテクスチャを位置付けている。ムナーリはテクスチャを「表面に質感を与える」目的で用いられるもので、「視覚的な興味」を引き起こすものと考えている。 これらの研究から当時造形教育において、素材訓練を重要なものと位置付けていたことがわかる。私はこれらの研究や実践について調査・考察し、素材表面の状態の重要性を認識した。そこでデジタル画像を造形素材として取り扱う際のキーワードとして「質感化」という言葉を用いることにした。「質感化」とは、デジタル画像に「視覚的な興味」を持たせるために、その表面をどのような状態にすることができるかに着目することである。本研究ではデジタル画像を「質感化」する手続きについて研究することで、この素材を操作可能にする手法を探っている。 平成24年度は、文献研究、作品調査、及び作品制作・発表を行った。詳細は次項を参照されたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は以下の研究を実施した。 1.素材とその物質性の検討:マレーヴィチの著作を検討した。論文「キュビスム、未来主義からスプレマチズムへ-新しい絵画のリアリズム」、「ポエジーについて」、「芸術における新しいシステムについて」からこの研究で扱う素材およびその物質性について、素材表面の状態に関する示唆を得た。これについて文献研究および作品調査を行い、それをもとに作品を制作し発表した。作品発表の詳細は以下「3.画像とその生成手法の評価」で述べる。 2.「肌理」について:平成23年度に発表した論文「「デジタル画像の物質性についての一考察 ―素材の質感化の観点から―(美術教育学第33号)(査読付き)」において「肌理」はデジタル画像の質感化に関する特殊な一例とする考察を行った。これによって「肌理」というキーワードを「赤い夜の嘆きのなかで」と題する一連の作品を中心にしたデジタル画像の表面処理に関する手法とその結果生じた画像表面を表す言葉と考えることができた。この視点から「赤い夜の嘆きのなかで」と題する作品を新たに制作し、発表した。 3.画像とその生成手法の評価:24年度は1に関する作品発表を「Design Cafe (OITA DESIGN POWER 2012 大分Designers work 展)」、「ブンリ派デザイン展 質感と空間のコラボレーション-」で行った。また2に関する作品発表を「桐美会展」、「奈良高校OB美術展」で行った。その結果、作品から看取される印象は、「質感化」によって生成された「肌理」の状態が重要な役割を果たしているという考えを強くした。また私は、表面の状態から「テクスチャ」、「フォルム」、「構造」、「構成」などを看取することができると考えており、「質感化」とこれらの関連を考察することによってこの研究が進展すると推測している。 これらにより進捗はおおむね順調と考える。
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Strategy for Future Research Activity |
25年度は24年度の文献研究、作品調査、作品制作・発表を発展継続する。また、3年計画の最終年にあたるため、成果発表を積極的に行う。これまでの研究のまとめとして研究報告書の刊行、ホームページの作成、作品概要を掲載したリーフレットの作成を予定している。これらについて以下の通り計画している。 1.素材とその物質性の検討:バウハウスの教授陣の自由制作、著述を検討する。また、ムナーリの実践記録を検討する。以上により、この研究で扱う素材およびその物質性を明確にするための手法を探る。 2.研究手法について:デジタル画像を素材化するための手法を研究する。「肌理」、「質感化」をキーワードに表面を形作る手法を探る。 3.2の手法について:2の手法について次の仮説を立て、検証する。仮説1「質感化」デジタル技術のうち画像処理分野の技術を応用し、表面を質感化することにより視覚的な興味を引き起こす肌理の生成を図る。これは、素材に物質性を持たせる手法を探ることである。画像処理の技法をどのように応用すれば質感化を達成することができるのかについて試行を繰り返す。仮説2「空間」生成した画像に構成の理念を適用し、空間を感じさせる画像を生成する。デジタル画像という素材が物質性を持ち、操作可能であることを示すことが目的である。また作品発表を行い、これを検証する。 4. 教材化の研究と教育実践への応用:以上の研究を基に教材化を行う。これまでの成果から「デジタル・グラフィック」、「Image Processing」、「Computer Graphics」を執筆し教科書として使用している。これらを用いて教育実践を行い、結果を考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今後の研究の推進方策をもとに、研究費の使用計画を立案した。25年度は研究成果発表の機会をできる限り多く設けたいと考えている。 研究計画(概算) ホームページ作成(物品費、運営費、作成料等(400,000))、作品制作(制作費等(300,000))、作品発表(出品料、送料他(200,000))、作品調査(旅費等(400,000))、報告書作成(印刷費等(400,000))、書籍費・消耗品費・謝金・その他(300,000)。
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