2012 Fiscal Year Research-status Report
総合的な学習として実践する食農・味覚教育のためのプログラム開発
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23531254
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Research Institution | Kyoto University of Education |
Principal Investigator |
土屋 英男 京都教育大学, 教育学部, 教授 (20188577)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
湯川 夏子 京都教育大学, 教育学部, 准教授 (40259510)
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Keywords | 国際情報交換(フランス) |
Research Abstract |
本研究の目的は,フランス版味覚教育プログラムを参考に,総合的な学習の時間用の,食農教育を内包する日本版味覚教育プログラムを開発し,その教育的効果を確認することである。 初年度(23年度)はフランス版味覚教育プログラム実践の現状を,主にロアール地方を中心に実地調査し,併せてフランスの学制や味覚教育の発達史などに関する文献についても調査した。また,同年度に初めて日本で実施された味覚週間の実施状況について,主として東京の小学校での実施状況および関連文献について,研究計画に追加して調査した。 24年度では同年度に実施された日本での第2回味覚週間の実施状況について,主に関西地域で調査し,フランスでの実施状況と比較したときの特徴や課題について検討した。調査対象は小学校で実施された味覚の授業およびレストランなどで実施された味覚の食卓である。また,京都料理アカデミーと京都市教育委員会が共同で,京都市内の小学校において実施している味覚教室を10校程度取材し,主に「うま味」について子ども達の味覚を磨く教育カリキュラムの在り方とその実践について調査した。さらに栽培体験と給食を通じての食の学習を複合的に学習させる「食農学習」を実践してきた小学校について,日本全国から25校を選択して,その教育的意義や課題について調査した。その結果,味覚の授業への小学生の関心度は非常に高く,味覚の感度は予想よりも優れていたこと,「うま味」への関心や感度もとくに京都の小学生で高いようであったが,大阪在住の外国籍の小学生は逆に拒否反応を示す傾向にあったこと,味覚の食卓で出された料理は,大人が味覚を鍛えるために様々に工夫されたものであったことが明らかとなった。 上記の調査研究を通じて得られた,日本版の味覚教育プログラム作成に必要な資料・情報を,現在整理しまとめつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
24年度の主な研究計画は(1)フランスの味覚教育の日本版への応用可能性の比較検討,(2)日本人特有の味覚教育に関する検討,の2点である。(1)についてはまず日・仏両国の味覚教育に関連する項目ごとの整理と内容の比較検討を行った。関連項目の舌で感じる「味」および見た目の料理への「視覚」については比較的詳細に比較検討を行ったが,料理への「嗅覚」や「嗜好」については,検討がまだ不十分である。つぎにフランスで優れる味覚教育の要素と日本で不十分な味覚教育の要素の比較検討については,フランスでは「視覚」や「嗅覚」の項目を重視した味覚教育が実施され,日本では項目「味」のうちとくに「うま味」に特化した味覚教育がなされていることが明らかとなり,本項目の研究目的は概ね達成されたと言える。 (2)については,京都の料理人の集まりである「料理アカデミー」の協力を得て,京都在住の和食の料理職人のうち,一流と称せられるシェフ9名を対象に,調理に関わる様々な要素についてインタビュー方式で調査した。その結果,彼らの思いは「うま味」を中心とした調理を最も切にしている,ダシの文化を子ども達に伝えたい思いがとくに強い,などが明らかとなり,和食の料理職人としての誇りや自分たちが和食の食文化を日本および世界で伝えていく要の存在であることの自負が強い一方で、和食の日本における将来性への不安,「うま味」が次世代に十分に伝達されていない現状へのいらだちなどの思いも強いこと,などが明らかとなった。以上の結果,この項目の研究目的はほぼ十分に達成されたと言えよう。 当初の計画に比べ若干の変更を伴ったものの,総体的には研究目的を達成するに必要な情報は,これまでに概ね得られていると言えよう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は23,24年度が日本版味覚教育カリキュラムの開発に必要な基本的情報の収集と整理が主たる内容であり,25年度以降ではその情報をもとに,より具体的な情報の収集とこれら情報に基づいての同カリキュラムの構築とその実践が主たる研究内容となる。 25年度には(1)日本料理に使用される素材の栽培方法に関する調査と分析,(2)それまでの調査内容の,日本版味覚教育プログラムへの反映,の2点が主たる研究項目である。(1)については前年度につながりを構築した京都在住の料理職人および彼らが所属する「料理アカデミー」との連携を活かして,料理素材の在り方について,それらがどのように生産されるかについて検討を加えたい。また,彼らとつながりのある農産物生産者と料理職人との交流や情報交換の在り方について考察する。次いで食農教育の在り方と,それの味覚教育への発展について,上記の農家や料理人とのつながりのなかで考究し,日本版味覚教育のプログラムの試作に活かしたい。 一方で,完成されたフランス版味覚教育プログラムを,日本版プログラムの構築に活かすために,外国人の子ども達の味覚について,日本の子ども達の味覚と比較しつつ,その特徴を明らかにしたい。とくに「うま味」について,日本人の子ども達の味への感性を外国人の子ども達のその感性と比較し検討することで,日本人の味覚の特性に応じた味覚教育プログラムの在り方とその構築手順について検討を加えたい。 26年度では作成した日本版味覚プログラムを学校現場にて実践し,その教育効果を検討するとともに,その普及と学会等への公表をはかる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
25年度の研究は日本版の味覚教育プログラムの構築に向けて直接必要な情報を入手することにある。また,前年度に実施した,日本料理を専門とする料理職人(料理人)からの味覚および味覚教育に関する調査は,予想以上に時間と手間がかかり,まだ9名程度の料理人にしかできなかったので,25年度もさらに数名程度の料理人から情報収集をしていきたい。その際,想定していた情報提供料(謝礼)の支出が不要であった。本年度実施の同調査も,この謝礼の支出は不要となろう。この余剰分は,25年度に予定している「日本料理に使用される素材の栽培方法に関する調査と分析」での資料費,知識提供費や調査旅費等に充当したい。また,当初の計画には無かったものの,25年度に実施を予定している「外国の子ども達と日本の子ども達の味覚の差異に関する調査」に要する費用にも充当したい。 また,25年度は,日本における味覚週間の第3回目が実施予定であり,昨年度同様に様々な行事がなされるであろう。この日本版味覚週間の実施は,本研究の計画作成時には一般には明確に広報されておらず,本研究にそのイベントの活用を計画に含めることができなかった。しかし,このイベントからは本研究の推進に有益な情報が多く得られることが,23,24年度の活用結果からして明らかであり,本年度も日本版味覚週間を大いに活用して情報収集に勤めたい。 さらに現在,日本政府がユネスコに申請中である「和食」の世界遺産登録の結果が25年9月頃に公表される。登録されることになれば,「和食」に関する学術的な行事が国内で多く開催されるものと期待される。これらの中には,味覚や味覚教育に関わるものも含まれよう。本研究に有益と考えられるこれら行事が実施となったときには,研究費の遣り繰りで可能な限りこれに参加して,情報収集に当たりたい。
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Research Products
(3 results)