2011 Fiscal Year Research-status Report
社会関係資本の形成を促す感情教育の理論とカリキュラム
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23531266
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Research Institution | Poole Gakuin University |
Principal Investigator |
佃 繁 プール学院大学, 国際文化学部, 准教授 (90513721)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 社会関係資本 / 協働 / 社会文化理論 / 活動理論 / 共感性 / 感情教育 / 道徳教育 / セーフティネット |
Research Abstract |
2011年度は本研究のテーマの基礎的理論である「社会関係資本」および「認知心理学的な協働」について整理した。 社会関係資本を「社会的ネットワークに埋め込まれた資源」(リン, 2001)と定義するとき、地位達成にかかわって「関係的資源命題」「地位の強み命題」「弱い紐帯の強み命題」の3つが定式化される。ネットワークに埋め込まれた資源が良好であること、もともとの構造的地位が良いこと、紐帯が弱いこと、この3つに応じて、社会関係資本による地位達成効果は大きくなる。 パトナム(1993, 2000)は、集合財としての社会関係資本の動態を明らかにした。組織や活動への「参加」の程度が高いコミュニティほど政治的、経済的な生産性と平等性が促進される。対面的に他者と出会う場に「参加」することが、他者信頼や寛容といった「市民的美徳」の高まりを生む。ブレトンウッズ体制崩壊後の経済のグローバリズムは、新古典派経済学に主導された市場主義的国家体制を出現させた。しかしポラニー(1957)が指摘したように、生産要素(土地、労働、貨幣)を商品化するとき社会的な弊害が生じ、社会防衛が必要となる。社会関係資本は、市場とコミュニティとの相補関係を構築するためのセーフティネットとして機能することが期待される。志水(2009)の全国学力調査結果と社会関係資本との相関分析から、経済階層下位の児童生徒に対する社会関係資本の効果が実証されている。 児童生徒に社会関係資本の基礎として育成すべき資質を考えるとき、ポストヴィゴツキー学派に「協働」に関連した理論研究の蓄積がある。「社会文化理論」(ワーチ他)と「活動理論」(エンゲストローム他)に大別され、ヴィゴツキーに由来する「媒介」「内言と外言」「発達の一般発生法則(精神間/精神内)」「発達の最近接領域」「発達の内化モデルと参加モデル」といった概念を用いて研究を展開している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通り、平成23年度は研究テーマに関連する先行研究の整理をおこなった。特にミクロな関係性についてのリンの議論、マクロな観点からのコミュニティ論としてのパトナムの研究を整理することにより、社会関係資本の政治経済学的側面を明らかにすることができた。また経済のグローバリズムの研究を通して、学力と学習意欲の階層間格差という社会的課題に対して、社会関係資本がセーフティネットワークとして機能するという示唆を得た。このことは、本研究のテーマである「感情教育」の実践化への大きな根拠となると考える。 経済学関連の理論整理が増えたため、「共感性」「感情教育」「道徳教育」についての理論整理がやや遅れている。しかしポストヴィゴツキー派の理論整理を通して、「感情教育」の全体構想を描くことができているので、時間的な遅れを取り戻すことにそれほど大きな困難はないと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2012年度研究では、前半で昨年度に引き続き(1)先行理論の整理をおこない、後半から(2)感情教育の理論構築作業へと移りたい。 (1)先行理論の整理では、昨年度に経済学分野が事前計画よりも増えたため、「共感性」「感情教育」に関わる倫理学、心理学分野での文献探索と整理に力を注ぐ必要がある。また学校現場との共同作業が始まるため、道徳教育関連の文献収集と理論の整理をさらに進めたい。 (2)感情教育の理論構築作業では、現行の道徳教育の理論と実践を分析する必要がある。(2-a)いかなる理論にもとづいて学習指導要領・道徳が構成されているか、(2-b)学校現場ではそれをどのように実践化しているか、以上の2点について文献研究およびフィールドワークをおこなう。(2-a)では「社会関係資本」の概念から「共感性」の倫理的側面が決定され、「協働」の特徴から「共感性」の心理的側面が決定される。(2-b)では想定される社会、特に公共性概念が重要であり、それが「社会関係資本」と関連する。また道徳教育の方法理論が、「協働」にもとづく認知心理学と関連する。以上の理論整理と学校現場での実践の分析に加えて、可能ならば道徳教育プログラムの試作と実際の現場での試行へも踏み込む予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年度も昨年度と継続して、理論構築のための文献購入が研究費の主たる使用となる予定である。2011年度はすべて文献購入に研究費を用いた。当初の予定よりも経済学関連で必要文献が多く生じたため、当初予定した複写費を個人で支出し、科学研究費のすべてを文献購入にあてた。 昨年度経済学関連文献が増えたことにより、他の文献収集で不足が生じており、そのため2012年度の研究費を事前計画よりも多く配置していただくようにお願いしている。2012年度研究の推進方策でも述べたように、今年度は「感情教育」の理論構築作業へと研究を進める予定である。そのため「共感性」にかかわる倫理学および心理学文献、道徳教育関連の文献が、収集の主たる内容となる。「感情教育」の理論的側面が「共感性」と関連し、「感情教育」の実践的側面が道徳教育と関連するというのが、文献収集計画の理由である。 購入できない文献について複写が必要となる。しかし購入費用が大きくなったときには、昨年度同様に個人的に複写費を補うこととする。
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