2011 Fiscal Year Research-status Report
自閉症スペクトラム障害児に対する仲間関係の形成のための支援法の開発と効果の検討
Project/Area Number |
23531282
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
藤野 博 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00248270)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 真理 東北大学, 教育学研究科(研究院), 准教授 (70274412)
森脇 愛子 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, その他部局等, 研究員 (50573557)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 自閉症スペクトラム障害 / 仲間関係 / 支援法 |
Research Abstract |
本研究の目的は、自閉症スペクトラム障害(ASD)児に対する仲間関係の支援プログラムを開発することと、その効果を検証することである。そのために、知的障害のないASDの小学生を対象とし、介入の有無と仲間関係、社会性、情動、行動の変化との関係について検討する。SDQやCBCLなどの質問紙と自由場面でのASD児同士の相互交渉の分析を介入効果の評価のための主な測度とした。 平成23年度は、介入群8名に研究代表者らが開発したASD児のための仲間関係の形成に向けた「バディ・システム」による支援プログラムを介入群に実施するとともに、介入前後の同時期に介入群とともに24名の介入を行わない統制群において対象児の行動観察と記録を行うとともに、保護者に質問紙への回答を依頼した。また、平成23年度の時点で収集できている臨床データを用いて介入効果に関する予備的分析を行った。子どもの強さと困難さの指標であるSDQのスコアを介入前後で比較したところ、総合スコアの平均得点は支援後に減少し、全般的な改善がみられた。下位項目毎にみると「仲間関係の問題」「向社会性」「情緒」で多くの対象児に改善がみられた。 特定の子ども同士をペアにして活動の単位とする「バディ・システム」による支援の枠組は本研究の独自な着想である。特定のバディとの一定期間の持続的な活動が他児との仲間関係の形成や社会性の発達に効果をもち、精神的健康や適応的行動の改善にもつながる、という仮説はASD児の対人関係支援の理論と方法としてオリジナリティが高く、教育的・臨床的な意義が大きい。平成24年度の介入終了後に行う予定の全データの統計解析の結果、仮説が支持されると、国際的にもインパクトのある重要な知見になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成23年度には、研究代表者らが開発したASD児のための仲間関係の形成に向けた支援プログラムを当初の計画通りに介入群の8名の児童に対して実施するとともに、介入前に保護者に対して、子どもの対人行動の特徴についてSRSを、強さと困難さについてSDQを、精神的健康や適応的行動についてCBCLを、言語・コミュニケーションについてCCC-2を実施した。また、子ども本人には、社会的認知テストである「アニメーション版心の理論課題」と自由場面での子ども同士の相互交渉の観察とVTR録画を行った。SRS、SDQ、CBCLによる評価と相互交渉の観察と録画は介入効果の測定のため介入終了直後にも行った。 また、23年度は介入群との比較対照のための介入を行わない統制群に関し、予定人数を大幅に超える24名の協力者を得られたため、介入群と同時期に同じ内容の評価を実施することができた。そして、介入群との比較対照のための介入を行わない統制群を対象としたデータの収集については23年度中に1年前倒しですべての計画を完了することができた。そして介入群については、平成24年度に介入を実施する予定の対象児を本研究の協力施設である東京小児療育病院で担当の医師とともに選定する作業も完了し、24年度の研究実施に向けての準備も計画通りに進んでいる。さらに、介入プログラムをマニュアル化した子ども支援用テキストの印刷・製本ができたことも平成23年度の成果である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究においては、介入の実行に関わるスタッフの人数や場所などの制約から1年間に介入を実施できるASD児の数には限度があり10名を上限としているため、1年間で介入効果の統計的分析に必要十分なサンプル数を満たすことは不可能であり、当初より23年度と24年度の2年間にわたって介入を実施しデータを収集する計画になっている。24年度は新たに研究協力を得ることのできた10名のASD児に対して23年度と同一の介入と行動観察記録および評価を行うとともに、保護者に対しても23年度と同一の質問紙への回答を依頼する予定である。また、24年度には、フォローアップ調査として、介入群および非介入統制群の保護者に23年度に実施した質問紙への回答を再度依頼するとともに、面接法にて対象児の仲間関係や社会性などの実態について聞き取り調査をすることにより、介入効果の維持についてもデータを収集する予定である。また、平成24年度は平成23年度にデータ収集した対象児同士の相互交渉のビデオ録画記録について、Baumingerの行動コーディング法を用いた分析を行う。それらのデータ収集が完了した段階で、介入効果の統計的分析を実施する計画としている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初使用することを予定していた行動解析ソフトウェアを用いることなしに対象児の行動の記録と分析を行うことが可能であることがわかったため、当該のソフトウェア購入分の経費が節約できた。平成24年度は、介入を実施する対象児に関して当初の予定人数(8名)よりも多い人数(10名)の協力が得られた。子どもが2人1組のペアになって活動する中で介入を実施するため、24年度は1ペア分が増えることとなる。平成23年度に節約できた経費は、この増加分の対象児ペアに対する介入の際に必要な物品の購入と、録画した行動のコーディングや分析のための人件費に使用する予定である。そのようなデータ収集計画の拡張にあたり追加購入が必要となる物品は、今回増えた1ペア分の行動を記録するためのビデオカメラ1台と、子どもへの教材提示とフィードバック(セルフレビュー)のために使用しているiPad1台である。その他、24年度には、臨床場面の静止画像を記録しておくためのデジタルカメラ1台と、24年度分のデータが収集できた後に統計解析を行うためのSPSSソフトウェア1ライセンスを購入する予定である。また、これまでの研究成果について国際学会(フランス)、国内学会(つくば)で発表するための旅費も必要である。
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Research Products
(7 results)