2012 Fiscal Year Research-status Report
自閉症スペクトラム障害児に対する仲間関係の形成のための支援法の開発と効果の検討
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23531282
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Research Institution | Tokyo Gakugei University |
Principal Investigator |
藤野 博 東京学芸大学, 教育学部, 教授 (00248270)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 真理 東北大学, 教育学研究科(研究院), 教授 (70274412)
森脇 愛子 独立行政法人国立精神・神経医療研究センター, その他部局等, 研究員 (50573557)
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Keywords | 自閉症スペクトラム障害 / 仲間関係 / 支援法 |
Research Abstract |
本研究は、高機能の自閉症スペクトラム障害(ASD)児に対する仲間関係の支援プログラムを開発することと、そのプログラムによる介入効果を検証することを目的とし、ASDの小学生を対象とし、介入の有無と仲間関係、社会性、情動、行動の変化の関係について検討する。「子どもの強さと困難さアンケート(SDQ)」(保護者評価)、「子どもの行動チェックリスト(CBCL)」(保護者評価)、「子どものQOL尺度」(本人評価と保護者評価)などの質問紙と、遊び場面でのASD児同士の相互作用の分析を介入効果の評価測度とした。 平成24年度は介入群10名に支援プログラムを実施するとともに、それまでに収集できたデータによって仲間関係の促進に関与する要因や本プログラムによる介入の効果に関する予備的分析を行った。まず、SDQとCBCLにおける変化量の分析から、介入期前後のスコアを介入群と非介入群の間で比較し、「向社会性」の指標において介入効果が明らかとなった。また、バディ(ペアになって活動する仲間)との遊び場面における相互作用の変化をビデオ分析した結果、介入群では介入後に相互作用の量的増加がみられるとともに、低レベルの相互作用から、アイコンタクト、共有、他児への関心、手助けなどポジティブな相互作用の生起へと質的変化が認められた。そして、CBCLとQOL尺度の分析から、不安/抑うつが少ないとウェルビーイングの感覚が高まり、それが友達関係での満足感にもつながるというモデルが得られた。 特定の仲間とペアになって活動する「バディ・システム」による支援は本研究の独自な着想である。特定のバディとの一定期間持続する共同活動が仲間関係の形成や社会性の発達に効果をもち、精神的健康や適応的行動の改善にもつながる、という知見は、それが検証されるとASD児の対人関係支援の理論・方法論として国際的にもインパクトがあると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成24年度には、研究代表者らが開発したASD児のための仲間関係の形成に向けた支援プログラムを介入群の児童に対して実施するとともに、介入前と後に保護者に対して、対象児の情緒、行動、仲間関係、向社会性などについてSDQを、社会性、適応的行動、精神的健康などについてCBCLを実施した。また、生活、友達関係、家庭、学校などの満足感について「子どものQOL尺度」を実施した。QOL尺度は対象児本人にも実施した。そして、バディとしてペアになった子ども同士の遊び場面での相互作用の観察とVTR録画を介入前後と、すべての介入セッションにおいて行った。 平成24年度は年度当初の計画通り、介入群10名に支援プログラムを実施し、前年度と合わせるとASD児の介入データは18名分となった。また、平成24年10月に、平成23年度に介入を行った児童について、介入終了半年後のフォローアップ評価として質問紙による調査を実施した。 また、平成24年度までに収集できたデータから本プログラムによる介入効果に関する予備的分析と仲間関係の促進に関与する要因の分析を行った。まず、SDQとCBCLにおける介入期前後のスコアの変化量を介入群と非介入群の間で比較した。そして、バディ(ペアになって活動する仲間)との遊び場面における相互作用の変化をコーディングし、量的・質的な分析を行った。さらに、CBCLとQOL尺度のスコアから、共分散構造分析によって、仲間関係と社会性、適応的行動や精神的健康の相互関係についてのモデルを得た。その他、仲間関係に影響する重要な要因である心の理論の発達的変化に関する検討も行った。 平成24年度までのこれらの研究成果は、国内学会(日本特殊教育学会、日本児童青年精神医学会、日本発達心理学会)と、国際学会(IACAPAP World Congress:世界児童青年精神医学会議,フランス)で発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度に支援プログラム参加した保護者と児童には、平成25年の10月(昨年と同時期)にフォローアップ調査を実施する予定である。 そして、平成23年度と24年度に収集した介入群、非介入群の児童および保護者のデータを合わせた全データの統計解析を行う。具体的には、情緒、行動、多動性/不注意、仲間関係における困難さと向社会性における強さを測定するSDQ、社会性、適応的行動、精神的健康などを測定するCBCL、生活、友達関係、家庭、学校などにおける満足感について測定する「子どものQOL尺度」や、バディとしてペアになった子ども同士の遊び場面での相互作用行動などのアウトカムに関する諸指標のスコアの変化量について、介入群と非介入群の比較を行う。また、フォローアップ調査の結果から、効果の維持について検討する。 また、研究成果をIMFAR(国際自閉症研究会議:スペイン)、Autism Europe(ヨーロッパ自閉症学会:ハンガリー)、および、日本特殊教育学会、日本発達心理学会等、国際・国内の学会で発表する。日本特殊教育学会では、研究代表者と研究分担者(森脇・田中)により、本研究のテーマである「高機能ASD児の仲間関係への支援―エビデンスに基づく実践に向けて-」と題したシンポジウムを開催し、研究成果を広く公表するとともに、ASD児の仲間関係の支援について他の方法でアプローチしている他の実践研究者や一般参加者とともに議論する。 さらに、以上の検討から介入プログラムについて最終的な検討を行い、効果があることが統計学的分析によって検証された部分を中心にマニュアル化し、エビデンスに基づくASD児の仲間関係形成のための支援プログラムとして印刷・製本して公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に行う予定であったデータの収集と整理のための補助者への謝金として予定していた経費は、研究代表者と研究分担者によって必要な作業をすべて完了させることができたため節約できた。 平成25年度(最終年度)は、これまでに収集した全データの整理と分析の作業が必要であり、そのために、データ処理の補助者に支払う謝金が必要である。 そして、研究成果を国際・国内の学会で発表する。まず、研究代表者の藤野がIMFAR(国際自閉症研究会議:スペイン)、Autism Europe(ヨーロッパ自閉症学会:ハンガリー)、日本発達心理学会(京都)で発表する。また、研究分担者の森脇が、Autism Europe(ヨーロッパ自閉症学会:ハンガリー)と日本発達心理学会(京都)で発表する。これらにかかる旅費と学会参加費が必要である。期待以上の研究成果が得られ、国際学会での成果発表が当初の予定より増えたため、平成24年度に節約できた経費は、その分の国際学会の旅費にあてる予定である。 また、研究の成果物として最終的に作成するASD児の仲間関係形成のための支援プログラムをマニュアル化し、印刷・製本するための印刷費が必要である。
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[Journal Article] Quantitative autistic traits ascertained in a national survey of 22 529 Japanese schoolchildren2012
Author(s)
Kamio,Y., Inada, N., Moriwaki, A., Kuroda, M., Koyama, T., Tsujii, H., Kawakubo, Y., Kuwabara, H., Tsuchiya, K., Uno, Y., & Constantino, J.
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Journal Title
Acta Psychiatrica Scandinavica
Volume: 2012 Nov 22
Pages: 1-9
DOI
Peer Reviewed
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