2011 Fiscal Year Research-status Report
高機能自閉症幼児における情動理解・情動表出とアタッチメント対象形成との関連
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23531288
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Research Institution | Gifu University |
Principal Investigator |
別府 哲 岐阜大学, 教育学部, 教授 (20209208)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水野 友有 中部学院大学, こども学部, 准教授 (60397586)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 自閉症 / 情動理解 / 社会性 / 直観的心理化 / アタッチメント |
Research Abstract |
一つは、高機能自閉症児が、情動の意識的処理は可能であるのに自動的処理には障害があるということが、具体的などのような社会的障害としてあらわれるのか、を事例の検討を通して明らかにしたことである。そこでは、(1)意識的処理が可能であるため、他者の情動を教えればそれを学習することは可能であること、しかしだからこそ周囲の人は高機能自閉症児が情動理解の能力をすでに持っていると誤解しやすいこと、(2)一方、瞬時に他者の情動を自動処理することには困難があるため、日常でのやりとりではタイミングがずれたりちぐはぐな関わりになることが多いことが明らかにされた。 二つは、そういった情動の自動的処理が、ソマティック・マーカー仮説などの身体、感覚の問題が関連していることを事例と文献によって指摘したことである。高機能自閉症児者の例えば感覚過敏は、その感覚に関する不快刺激と不快情動を伴う。定型発達児の場合は、その不快刺激が周囲の人と共通しやすいため、不快情動も共有しやすい。この情動共有経験が、自らの情動の自動的処理を意識化する発達的基盤となる。高機能自閉症の場合、身体や感覚の問題は、他者と不快や快情動を共有する基盤をそぐことになり、それが情動の自動的処理を定型発達と異なったものとする可能性を示唆した。 三つは、アタッチメント対象形成に、二つ目にふれた情動共有経験が大きく関与していることを事例的に明らかにした。これは、情動共有経験がアタッチメント対象の形成にも寄与し、他方で情動の自動的処理にも関連するという意味で、アタッチメント対象の形成と情動の自動的処理が関連するとする本研究の仮説II、IIIを支持するものとなった。 四つは、情動の自動的処理が関連するとされる表情の全体的処理を、表情の倒立効果を指標として実験的に検討したことである。ただしこれについては、現在分析中となっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
一つは、上記でふれたように、仮説II、IIIの意味が、自閉症幼児におけるアタッチメント対象の形成プロセスと内容の特異性を明らかにした事例研究で支持されるところとなった。これは、自閉症児における情動の自動的処理の障害を支援する際に、アタッチメント対象の形成が有効である理由が、アタッチメント対象を形成することによる顔の注視への動機付けの強まりだけではないことを示唆している。それは、アタッチメント対象形成と情動の自動的処理がともに、情動共有経験を媒介して成立していること、そして自閉症児はこの情動共有経験に障害を持つということに依るものである。 二つは、情動の自動的処理について、表情の倒立効果を指標とした実験を、児童期の高機能自閉症児と定型発達児を実験参加者として、試行したことである。現在、倒立効果の有無と、表情認知の正答率について、両群の比較検討を行っている。 三つは、高機能自閉症児の縦断的観察の開始と、表情の自動模倣についてのスマイル・スキャンを用いる実験材料の作成を行っていることである。
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Strategy for Future Research Activity |
一つは、平成23年度に実施した、表情の倒立効果に関する研究の分析を終え、その結果をまとめることである。あわせて、実験参加者を就学前幼児にする場合の、実験材料の問題点などを検討し、その実施を行っていく。 二つは、表情の自己表出とその分類の実験(「嬉しい」「悲しい」「怒っている」などの表情をさせ、その自己表出の写真を、後で情動ごとに分類させる課題)を試行する。情動の自動的処理や意識的処理は、情動理解でもみられるが、情動表出でもみられるものである。この課題は、情動表出の意識的処理が高機能自閉症児は可能なのかどうかを検討するものである。 三つは、表情の自動模倣についてのスマイル・スキャンを用いる実験材料を作成し、まず大人を実験参加者とした予備実験を行う。その上で、高機能自閉症児を含めた幼児に対する実験を開始する。 四つは、アタッチメント対象形成を含めた縦断的観察の継続と、その観察記録(DVD)の文字化をすすめることである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「今後の研究の推進方策」に書いた四つの点はすべて、多くの実験補助、資料整理を必要とし、そのための謝金が必要となる。またすべての実験は、実験参加者の表情を含めた映像記録が必要となり、そのためのDVDなどの消耗品も必要である。あわせて、研究成果の一部を国内学会(日本教育心理学会を予定)で発表するため、国内旅費も必要となる。
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