2011 Fiscal Year Research-status Report
国連・障害者権利条約教育条項と特別学校の位置づけに関する比較教育学的研究
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23531292
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Research Institution | Nara University of Education |
Principal Investigator |
玉村 公二彦 奈良教育大学, 教育学部, 教授 (00207234)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 障害者権利条約 / 特別学校 / 特別支援学校 / 特別支援教育 / インクルーシブ教育 / インクルージョン / 比較教育 |
Research Abstract |
2011年は、国連の障害者権利条約が採択されて5年目にあたるが、国際的には100ヵ国を越える国が条約を批准した。国連では障害者権利委員会が発足し、締約国会議も行われ、「教育」についても議論が行われた。国際的な議論と情報の収集を行うことができた。 各国の動向については、イギリスの事例を検討した。イギリス政府は、障害児が可能性を最大限に引き出すには、地方支援サービス・特別学校・通常学校が協働して、広い範囲の連続的なニーズに対応することを確保することでああるとしている。このような議論の中で、教育省から、2011年3月に特別ニーズ教育の改革ついての提案のグリーンペーパーが出された(Support and aspiration: A new approach to special educational needs and disability)。その内容は、早期発見と対応の強調、保護者の権限の強化、学習の到達度の確保、成人への準備、家族へのサービスの充実などであった。この内容は、特殊教育学会で発表した。 東アジアでは、権利条約の批准をいち早く行った韓国の事例を検討した。その前提には、韓国障害者差別禁止法の成立があった、韓国ソウルの私立のミラル特別学校(知的障害・自閉症の学校)、梨花女子大学付属幼稚園等を見学した。韓国の教育政策では、特別学校の設置というよりは、通常学校の整備が進められていた。差別禁止法で一般の幼稚園・小学校等の学校は障害のある児童生徒を受け入れるための条件整備が進められていた。 日本における特別ニーズ教育の歴史と現状から、地域に根ざした特別学校づくりの伝統と地域づくりの教訓から、地域におけるインクルージョンのあり方の示唆を得た。また、特殊教育学会においてシンポジストとして特別支援教育の現状分析から特別支援教育の在り方に関する特別委員会の議論の分析も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究の目的は、障害者権利条約教育条項における「インクルーシブ教育」の各国での理解とその中における特別学校の位置づけに関する比較研究である。本年度の検討からは、各国におけるインクルーシブ教育の言説や政策は進展しているが、しかし、その中で特別学校に関する言及は、特別ニーズ教育の概説的な状況の把握の中では極めて少ないということが明らかになった。 本研究では、インクルーシブ教育及び特別学校の位置づけに関する検討の対象国を、欧米(イギリス、アメリカ)、ヨーロッパ諸国(オランダ、ベルギー)、オセアニア(オーストラリア・ニュージーランド)、アジア諸国(韓国)と広く設定している。本年度は、イギリス、オーストラリア、韓国の資料収集と検討を行いつつある。特に、イギリスについては、イギリスを中心としてイギリス連邦の概要の報告書が発刊されているので、状況の把握が進んだ。英語圏域に関しては、通常の学校へ重点がおかれている。イギリスに関しては、特別学校にはそれなりの位置づけがあるが、新たな方針においてはそれへの言及は少ない。 ヨーロッパ諸国の資料収集については、言語の問題もあり情報の収集には困難が続いている点が問題である。比較研究としては、英語圏域に焦点を絞り、検討をすすめるように軌道修正を行う必要があるが、オランダ・ベルギーなど特別学校の比重の高い国の動向は無視し得ない点が隘路である。OECDやUNESCO等の国際機関のカントリーレポート等の収集なども必要になっている。 国内的な動向については、インクルーシブ教育に関する現状の把握を進めつつ、特別支援学校の設置の中でインクルーシブな地域づくりの考え方に焦点をあてた歴史的な検討は進んでいるが、その成果のとりまとめは不十分である。
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Strategy for Future Research Activity |
インクルーシブ教育と特別学校の位置づけに関する検討に関して、イギリスを中心とした英語圏域での資料収集と検討の深化に焦点を絞って行うこととしたい。資料収集の中で把握されたイギリス連邦の報告の検討を行いつつ、そこでの連邦としての共通の動向や徳特徴の把握と共に、先進国(イギリス、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなど)とイギリス連邦の中での発展途上国の状況の相違を把握しつつ、各国の発展段階や制度上の特徴、障害の関する施策の発展段階の相違などを明らかにしたい。 また、ヨーロッパ諸国やアジア諸国に関しては情報の把握を継続して行っていく。ヨーロッパ諸国、特にオランダ・ベルギーに関しては文献収集を強めると共に、UNESCOやOECDなどの国際機関での検討に着目しつつ、動向を把握していく。アジアに関しては、韓国についてはソウルを中心に検討してきたが、釜山や大邱などの大学での研究の進展を把握する。また、台湾などの状況についても情報を収集したい。 特別学校の位置づけという点では、伝統的な視覚障害や聴覚障害の学校の存在と同時に、障害の重い子どもの学校教育のあり方という観点から資料収集と検討を深めることが重要な視点となると考えている。この観点は、日本での障害児教育・特別支援教育の歴史の中で重要視されてきたものであり、その点で日本での重度重複障害教育の遺産の把握が重要であると考えている。また、地域の中で、障害の重い子どもがインクルードされることも重要であり、そのようなGood Practiceの成果を整理したい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
インクルーシブ教育及び特別学校の位置づけに関するイギリスやイギリス連邦の政策や現状の資料の収集と翻訳、必要な資料の整理と翻訳などの経費を措置している。特に、これまでの外国研究や比較研究の蓄積を整理しつつ、あらたな動向を位置づけていくことをおこなう。これらについては、学会発表や国内資料収集のための旅費を措置している。 また、各国の情報を収集するための外国旅費を措置している。英語圏及び台湾などを想定している。その際、とくに、盲、聾などの学校教育の状況及び障害の重い子ども(重度重複障害児)の学校教育に着目して検討をおこないたい。 盲・聾・養護学校の歴史的蓄積を検証と特別支援学校の役割の検討としては、京都・大阪・奈良などの障害の重い子どもの教育保障の歴史的遺産と地域への位置づけを検討しつつ、現在の特別支援学校の役割についてモデルを探求する。 同時に、障害者権利条約批准に向けたわが国の教育制度と特別支援教育のあり方の検討も進められているので、その整理や分析も必要になっている。この点で、専門的な知識の提供や意見交換ができるようにすることも必要である。
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Research Products
(5 results)