2011 Fiscal Year Research-status Report
外国人子女にも応用可能な読字指導法開発のための基礎的研究
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23531294
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
関 あゆみ 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (10304221)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 日本語教育 / 特別支援教育 / 読字能力 / 漢字 / 機能的MRI |
Research Abstract |
本年度は漢字の音読課題を作成し、大学生を対象として漢字の音読能力とそれに関連する認知能力の検討を行った。漢字音読課題として、高親密度単語、低親密度単語、非語について、それぞれ高・中・低一貫性語を作成した。非語課題では漢字の読みの統計的特性に対する鋭敏さをみるため、最も頻度の高い読みを正答として一貫性を求めた。関連する認知能力としては、視覚認知能力(TVPS-IIIより弁別、図地判別、閉合)、視覚記銘力(TVPS-IIIより視覚記銘)、語彙能力(WISC-IIIより単語、類似)、潜在学習能力(確率的系列学習課題)を調べた。 二重経路モデルを基礎として漢字の読みを説明する仮説モデルを作成し上記の各課題の成績を当てはめ、共分散構造モデリングを用いてその妥当性を検証した。その結果、低頻度語の読みには語彙能力が強く影響すること、潜在学習能力は非語の読みに影響しており、非語の読み能力を介して低頻度語の読みに影響を与えていることが明らかとなった。一方、視覚認知・視覚記銘力の漢字の読み能力への影響は明らかでなかった。個人差が小さかったためである可能性もあり、対象を広げて検討をする予定である。 また、言語背景・認知能力の異なる学習者でのモデルの妥当性を検討するため、非母語話者(漢字語圏・非漢字語圏)を対象に同様の実験を行った。対象者を中級以上の日本語学習者としたため十分な数の被験者を得ることができず、モデルの検証にはいたらなかったが、学習年数や語彙力に加えて母語の違いが漢字の読み能力に影響することが示唆された。 本研究により、漢字の読みには語彙に依存する経路と音韻化に依存する経路が存在すること、どちらが主体となるかは個人の背景能力によっても異なることが確認できると思われる。これにより、読字困難児や非母語話者への読み指導において各個人の弱い経路と強い経路を意識した漢字の読み指導が可能になると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は漢字の読字能力の課題の作成と、関連する認知課題の選定を行い、成人を対象として仮説モデルの検証を行うことを目的としていた。被験者として母語話者については十分な数の被験者を得て研究を遂行でき、モデルの検証を行うことができた。非母語話者については、課題の難易度にあった適切な被験者を得ることができず、十分な数の被験者は得られなかったためモデルの検証にはいたらなかったが、母語の違いの影響について有用な知見を得ることができ、成果はあったと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
漢字音読課題の難易度に合った中級以上の日本語能力のある非母語話者の被験者の確保が難しく、この結果研究協力者への謝品、検査補助やデータ入力に関わる人件費などが当初の予定を下回ったため来年度への繰り越しが生じた。今後は以下のように計画を変更して遂行する。 今年度の結果から漢字の音読課題が多くの非母語話者(外国人留学生)には難易度が高すぎるということが明らかとなった。当初の計画では、成人の結果を踏まえて課題を選定し、平成24年度には小児(健常小児、ディスレクシア児や言語発達遅滞児、外国人学童・生徒)を対象とする研究(研究3)を実施する予定であったが、留学生を対象とする課題作成の難しさを考慮し、健常小児での検討を先行させる。まず、漢字音読課題の基本的要素を残しながら、小児や初級~中級の日本語学習者でも実施可能な課題を作成する。認知課題についても、小児や非母語話者でも実施できるもの、短時間で実施できるものに変更する。平成24年度は健常小児を用いて音読課題の評価を行い、パイロット的に認知能力の異なる発達性ディスレクシア児や言語発達地帯児、母語の異なる日本語学習者で課題の妥当性を検討する。外国人子女を含む多人数のデータによる子どもの仮説モデルの検証は平成25年度を中心に行う。 機能的MRIを用いた読字の学習に関わる神経基盤の確認(研究2)については、予定どおり平成24年度に実施する。漢字の読み課題を用いて親密度・一貫性などの漢字の異なる属性がどのように処理されているかを明らかにする。読字・音読課題への参加者から被験者を得ることで、個人の認知能力の違いによる漢字の読字の神経基盤の個人差について検討を行う。漢字と仮名の違いについても実験を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成23年度の研究費の繰り越し分は平成24年度分と合わせて使用する。読字・認知実験(研究3)に関わる人件費、機能的MRI実験(研究2)の遂行に関わる費用(撮像費、協力者への謝品)、実験の実施と解析に必要なソフトウェア等の購入費が主体となる。また、非母語話者については十分な被験者を得るため、他地域での被験者募集を検討しており、この準備ための国内旅費として使用する。 また、平成24年度に研究成果を国際学会等で発表することを計画している。成人を対象とする仮説モデルの検証(研究1)、機能的MRI研究(研究3)をそれぞれ別の学会で発表する予定であり、海外旅費(2回)を計上している。 潜在学習課題の作成と解析、統計解析について専門的知見を得るため、平成24年度から新たに研究分担者1名を加える予定であり、研究分担者への研究費の配分を行う。
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