2012 Fiscal Year Research-status Report
外国人子女にも応用可能な読字指導法開発のための基礎的研究
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23531294
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
関 あゆみ 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (10304221)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
田中 大介 鳥取大学, 地域学部, 准教授 (20547947)
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Keywords | 日本語教育 / 特別支援教育 / 読字能力 / 漢字 / 機能的MRI |
Research Abstract |
平成23年度の研究成果により,漢字の読みには語彙に依存する経路と音韻化に依存する経路が存在することが示唆された。この二経路の神経基盤を確認するため,一貫性と親密度を統制した漢字単語の読み課題を作成し,大学生22人(男性10人,女性12人)を対象として機能的MRI実験を行った。この結果,一貫性が低い語でより強く活動する部位として左下頭頂小葉が認められたことから,この部位が音韻化の曖昧さの解決に特異的に関与する脳部位であると考えられた。一方,一貫性・親密度とも低い語で強く活動する部位として,左中下前頭葉,左上頭頂小葉,左下側頭葉が認められた。これらの部位は,複数候補の中からの選択や視覚的注意の維持など,難易度の高い課題に関わる非特異的な脳活動であると考えられた。この研究成果については国際学会にて発表した。さらに,昨年度の研究で漢字の読み能力との関連を認めた語彙力や潜在学習能力と脳活動のとの関連について検討中である。 また,子どもを対象として,漢字読み能力と語彙力や認知能力との関連を検討するため,子ども用の漢字音読課題を作成した。子ども(小中学生)における単語親密度や一貫性は既存のデータベースから算出することができないため,親密度の代わりとして小学生用国語教科書での出現頻度を用い,一貫性も同じ教科書に出現する単語を用いて算出した。学年配当,音読み・訓読みの割合は統制した。健常の小学6年生36人(男児21人,女児15人)を対象としてこの課題の妥当性の検討を行い,正答数に有意な頻度効果,一貫性効果を認めることを確認した。この結果から,この課題は大学生用に作成した課題と質的に等しい課題となっていると思われた。 平成23年度に行った成人の漢字の読みモデルの検討(研究1)についてもさらに検討をすすめ,潜在学習能力との関係,非母語話者(留学生)での検討について,それぞれ国際学会に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画の中心としていた成人を対象とする機能的MRI課題(研究2)を遂行することができ,漢字の読みの曖昧さの解決に関わる神経基盤を明らかにすることができた。この研究成果は国際学会で発表した。 子どもを対象とする検証(研究3)は,研究計画では平成24年度後半~25年度に実施予定である。子ども用の漢字の読み課題の作成は昨年度中に終了しており,子どもおよび非母語話者を対象とする実験についての倫理審査も終了している。こちらについても予定どおりの進捗状況である。 平成23年度に実施した成人での漢字の読みモデルの検討(研究1)についてはさらに検討・解析をすすめ,研究代表者(関),研究分担者(田中)がそれぞれ国際学会での発表を行った。 以上によりすべての研究について,おおむね計画どおり進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度は,読字障害児と非母語話者(外国人学童・生徒)を対象として,漢字の読み能力とそれに関わる認知能力,語彙力の調査を行う(研究3)。読字障害児については,小学6年生~中学生を対象とする。非母語話者については,生活背景が比較的近い日本の学校に通う外国人児童・生徒を主な対象とする。滞在歴,日本語での教育歴,両親の日本語能力などが異なると考えられるが,日本語における音声言語での語彙力を1つのパラメータとすることで調整を図る。十分な数の被験者を得るため,外国人児童・生徒の多い他県(岐阜県など)にも依頼しデータを得る。母語の違いと漢字の読み能力との関連を確認するため,漢字圏(中国籍)と非漢字圏(ポルトガル語など)の被験者各20~30名について検査を行う予定である。 これまでの研究成果を踏まえて,外国人子女にも応用可能な指導方法の提案を行う。仮名の読みの指導法については別プロジェクトでの研究を進めているため,当研究では主に漢字の読字指導法を提案する。漢字の読み困難のタイプ分けとそれぞれに適した指導方略の検討を行い,指導教材を試作する。 成人での漢字の読みモデルの検討(研究1),漢字の読みに関する機能的MRI研究(研究2)については論文化をすすめる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
昨年度までの交付分の残金は,研究成果発表および情報収集のための国際学会参加旅費(2回)として今年度初頭に使用予定である。 平成25年度の使用計画は,非母語話者でのデータ収集のための国内旅費,データ収集(読み課題および認知心理実験)のための研究補助員の人件費,研究成果発表のための学会参加費および旅費,論文化に関わる費用(解析のためのソフトウェア購入や論文校正費)を主な用途とする。論文化の過程で追加実験が必要となる可能性があるため,機能的MRIの実施料も計上している。漢字の読み指導教材の試作のための費用も計上している。 潜在学習課題については分担研究者が統計方法の検討と論文化を進めており,その経費として研究費の配分を行う。
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Research Products
(3 results)