2012 Fiscal Year Research-status Report
発達障害・視覚障害児支援の共通教材開発と検証-触ってわかる教材で頭を鍛える-
Project/Area Number |
23531320
|
Research Institution | Kobe Shoin Women's University |
Principal Investigator |
藤本 浩一 神戸松蔭女子学院大学, 人間科学部, 教授 (10156911)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
山本 利和 大阪教育大学, 教育学部, 教授 (20200826)
竹内 伸宜 神戸海星女子学院大学, 公私立大学の部局等, 准教授 (80216853)
林 照子 園田学園女子大学, 健康科学部, 准教授 (30434921)
|
Keywords | 発達障害児 / 視覚障害児 / 認知訓練 / 触覚教材 / ワーキングメモリ |
Research Abstract |
本研究は、学習に困難を抱える発達障害児および同様の視覚障害児に対して認知訓練を行うための共通の触覚教材を開発・検証することを目的とする。 初年度に引き続き、2×2から3×3のマス目に1つを残して図形を配置し、相互の関係から残った1つのマス目に入る適切な図形を推論・選択させるテストを多数考案した。立体コピー機で凹凸を持たせ、5名の視覚障害児に実施し、晴眼児と比較した。その結果、視覚障害児の方が目隠し晴眼児よりも組織的に課題解決に取り組んだこと、また、課題解決に必要な次元(大きさ・形・きめなど)を干渉させ、学習の構えと矛盾する課題を導入することで、難易度を操作できることが示された(連名2012「触覚マトリックス教材の可能性を探る(2)」日本特殊教育学会)。 テスト図版を研究分担者のHPで公開し、立体コピー機を所有する支援学校等が自由に実施可能な体制にできたことは教材普及に大変重要であると考える。 テスト図版を晴眼児に実施したときのビデオ記録から課題解決の特徴を分析できた(連名2013/3「発達障がい・視覚障がい支援に共通の触覚教材の開発(2)」日本発達心理学会)。 マトリクス教材とは別に、ワーキングメモリ訓練を目的にした教材作りを開始した。まず視覚教材として単語カードにグー・チョキ・パーなどの三つ巴のシールを貼り、めくるたびに勝ち負け判断を行うもので、事前事後テストの比較により健常大学生に効果を試したところ、教材作成の諸問題が明らかになった(藤本浩一2013/3神戸松蔭大紀要)。次に立体コピー機で作った凹凸のある記号をトランプに貼り付けた触覚版教材を作成し、ゲーム形式の利用法を考案した。現在その効果を中学生等にモニター中であり、簡便に利用できる触覚教材として期待される。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
触覚マトリクス教材を多数作成し、視覚障害児および晴眼発達障害児に試行出来たこと、それらの図版をHPにて公開出来たことは、2年間の成果だと考える。従来からあったレーブンマトリクスや類似のテストを、立体コピー機とカプセルペーパーを用いて触覚図版にしたことは前例がない。それ自身が視覚障害児のための査定道具ないし教材になり得るばかりではなく、従来の視覚教材についても、次々と触覚版を作成する可能性を広げた。視覚障害児者が利用できる道具が飛躍的に増大するであろう。 今後必要なことは、視覚障害児および晴眼発達障害児を対象に実験を重ねて、触覚マトリクステストの難易度を評定し、同時にテスト実施のマニュアルを確定することである。国内において多数の視覚障害児に実験協力を求めることはかなり困難であり、それが研究成果が完了しないことの原因となっている。対象を健常児者に広げて、このテスト図版の特徴をより明確にする作業が残っている。 触覚課題による推論が当初の認知訓練のねらいであり、継続するものであるが、認知機能の根幹にワーキングメモリを位置づけることで、途中から新たな試みとしてワーキングメモリ訓練という目的が加わった。すでに多くの研究者がn-nack課題などの二重課題を用いて訓練を試みているが、触覚教材を使ったものは未だ存在しない。触覚版は単に視覚障害児にも適応できるだけにとどまらず、晴眼児者にとって触覚入力独自の利点を生かすことができる。その利点とは視覚にまどわされず注意を集中できることもあるが、カード型教材ではその裏面の凸凹を手指で探るばかりで表面からは見えないので、視覚イメージに頼らないワーキングメモリの訓練になり得ることである。 このように未だ足りない部分は残すものの、当初計画になかった目的が新たに加わり、発展していることを考慮すると、研究が順調に進展していると考えてよいだろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
触覚マトリクス図形テストを視覚障害児に協力を求めて実施し、数多く作成したテスト図版の難易度を評定する。事前事後テストとして、すでに購入したWISC‐IVの問題の一部や他のテストの一部をヒントにして使用する。 1.触覚教材についての研究について大学院生・学生の協力を得て、5月、6月に昨年度作成した教材の数を増やすことを取り組む。2.作成した教材を学部生に使ってもらい、教材の難易度をつける。3.国内では視覚障害者の数が少なすぎて十分なデータを集めることができないので、難易度をつけた教材をカンボジアの盲学校に持って行き、そこで児童に行ってもらい、教材が利用できるかどうかのデータを集める。4.日本では自閉症の親の会、LD、ADHDの親組織に研究協力を求める。 カード型触覚教材を改良し、晴眼発達障害児、健常中高生および大学生に試行し、事前事後テストにより効果を検証する。 5.学部演習授業にてカード型触覚教材を配布し、1,2週間モニターしてもらい、コメントを求め、持続できるだけの魅力を持たせるよう工夫する。6.系列高校の補習授業の参加者10数名に、授業の最初の10分ないし自宅学習において継続してやってもらい、事前事後テストを行って比較し、効果を検証する。7.被験者の層と数を増やして同様に実施する。 2タイプの教材図版をネットで配信できるように準備を整える。成果を学会発表および投稿する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究代表者が使用できる金額は前年度残金と合わせて50万円程度である。上記2つのタイプの教材の取組に共通して必要なものは、効果の検証のための事前事後テストに用いるテストバッテリーであり、今夏に発売されるK-ACB2(17.8万円)の購入を予定している。また、大学生に実施する場合のWAIS-IIIも購入したく、合計30万円程度になる。あとは教材作成費としてカプセル・ペーパーの追加購入、カード型の教材費、教材作成協力者への謝金、実験調査および研究発表のための交通費などに充てる。 研究分担者にはそれぞれ8万円プラス残金の研究費が使用可能である。代表者の場合と同じく、カプセル・ペーパー追加購入、教材費、実験協力者への謝金、実験調査および研究発表の交通費などに充当される。海外調査の交通費が主になる。 触覚図形の元になる図版をネット配信するためにサーバーが必要であり、さらに余裕があればノートパソコンを購入することも検討する。
|