2011 Fiscal Year Research-status Report
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23540031
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Research Institution | Toyo University |
Principal Investigator |
小山 信也 東洋大学, 理工学部, 教授 (50225596)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2016-03-31
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Keywords | 量子エルゴード性 / 量子カオス / ゼータ関数 / アイゼンシュタイン級数 / 整数論 / 代数学 / 離散群 / 保型形式 |
Research Abstract |
平成23年度の研究実績は,大きく二つに分けられる. 研究実績の第一は,私が2009年に得ていたアイゼンシュタイン級数の量子エルゴード性のレベル・アスペクトに関して,当時は素数レベルに限定して得られていた定理を,任意の整数に一般化したことである.すなわち,任意の整数の増大列をレベルに持つ合同部分群の系列に対し,それらの上の任意のカスプの列に付随するアイゼンシュタイン級数列の値分布が一様(等分布的)になることを証明した.この結果は,平成24年3月29日に開催された日本数学会年会・代数学分科会一般講演にて,中島さち子氏(掲載許可済み)との共同研究として発表した. 次に,研究実績の第二は,正標数の場合(有限体上の一変数関数体の場合)のアイゼンシュタイン級数のレベル・アスペクトに関する進展である.研究計画書に記載した方針に則り,アイゼンシュタイン級数のフーリエ展開や関数等式の明示的な形を,レベルとなる既約多項式の寄与が現れる形に求め,特性関数を離散・連続のスペクトルに分解し,各々の寄与を求めた.その結果,この場合の量子エルゴード性のレベル・アスペクトの証明は,波動形式に関する保型L関数の凸評価の改善に帰着することが証明できた.これは,研究計画書において私が予想していた通りの結果である.ここまで計算を進めたことにより,あとは,保型L関数の評価を行えば証明ができることが分かった.そして,これに関し,上智大学の都築正男准教授(掲載許可済み)と研究打ち合わせの結果,近年のヴェンカテッシュらによって得られている結果の類似を構成することにより,我々が必要としている保型L関数の評価が得られるであろうとの知見を得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請書に記載した計画では,正標数の場合(有限体上の一変数関数体の場合)のアイゼンシュタイン級数のレベル・アスペクトに関する量子エルゴード性を23年度中に証明するとしていた.これについては完全な証明に至らなかったものの,必要な計算の大半を終えることができ,波動形式の保型L関数の評価に帰着するという,申請書で想定していた証明法が正しいことを立証できた. さらに,研究実績の項目でも述べたように,上智大学の都築正男准教授との討論により,保型L関数の評価という残された問題についても,解決の方針を立てることができた.さらに,本研究課題の量子エルゴード性の拡張について,申請書に記載していなかった新たなる問題に対して結果を得た.それは,レベル・アスペクトのレベルを,これまで考えられていた素数から一般の整数への拡張に成功したことである. 以上をまとめると,申請書に記載した計画の達成が不完全であったが解決の見込みが得られた点,その一方で,申請書の時点では想定していなかった新たな研究成果が上がった点の二点を鑑み,研究全体としての達成度はおおむね順調であると言ってよい.
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題は整数論・幾何学・解析学・量子力学など多くの分野が交錯する分野であり,多方面の研究者との連携や研究打ち合わせが有効である.そのため,今後の研究の方策として,研究者同士の連携・打ち合わせを密にし,積極的に研究会や学会への参加をし,さらに個人的な打ち合わせもできる限り行っていきたい. 具体的な研究計画の内容については,申請書に記載したものとほぼ変わらない.23年度に未完成となった有限体上の一変数関数体の場合(正標数類似)を,上智大学の都築正男准教授との共同研究により完成させる.これ以外に,申請書に記載していない新たな展開として,九州大学の権准教授によって最近発見されたヒルベルト・モジュラー多様体のセルバーグ・ゼータ関数に関する研究が挙げられる.この研究の過程では,ヒルベルト・モジュラー多様体に対してスペクトル分解を解明し,特に,連続スペクトルを明示的に記述するアイゼンシュタイン級数の定義に成功している.本研究では量子エルゴード性をできるだけ多くの場合に一般化することを目標としているが,これまでヒルベルト・モジュラー多様体に関してはどのようなアイゼンシュタイン級数を考えるべきか,その具体的な形を特定できなかったため,研究課題として挙げていなかった.権准教授の研究により,それが解決された今,そこで得られたアイゼンシュタイン級数について量子エルゴード性を証明することは非常に興味深い問題である.今後は,この問題を研究計画に加え,研究を遂行していきたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度使用額が生じた理由:収支状況報告書の次年度使用額が8万円ほどある.この研究費が生じた理由は,旅費の使用が想定よりも少なかったことである.当初の計画では,旅費として20万円を計上していたが,実際には9万円程度しか使用せず,およそ11万円近い残額が生じた.この差異が生じた理由は,当初に想定していた研究集会や研究打ち合わせに関する旅費を,他の研究費から拠出できたからである.私は,当科研費の他に,東洋大学一般研究費,東洋大学特別研究という2つの研究費を持ち,いずれも数学の隣接分野に関する研究であった.異なる研究課題であっても,研究打ち合わせの相手や研究集会の分野は同一であったため,他の研究費を充当することにより,当科研費の拠出を抑えることができた.したがって,当初の研究計画で想定していた学会・研究集会・研究打ち合わせは計画通りに実行し,成果を上げた.研究計画自体には変更はない. 次年度の使用計画について:これまでに得た研究成果のうち,レベル・アスペクトの素数から一般の整数への拡張については,中島さち子氏との共同研究によるものであった.次年度にはヒルベルト・モジュラー多様体という新たな対象に関してアイゼンシュタイン級数の量子エルゴード性を証明したいと考えているが,これについて引き続き,中島氏との共同研究の形で推進する.特に,11月23日から26日まで,沖縄コンベンションセンターにて開催予定の研究集会「ゼータ関数と極限法則2012」に参加し,共同研究の成果を公表するとともに,当該分野の研究者たちとの討論を重ねる.次年度の研究費は,繰り越し分と合わせて29万円ほどであるが,私と中島氏の2名分の旅費をこの研究集会のために拠出することにより,20万円程度は使用される見込みである.残額の9万円は,他の小口の国内旅費や少額の消耗品に充当する.
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Research Products
(5 results)