2011 Fiscal Year Research-status Report
概均質ベクトル空間のゼータ関数と多重ゼータ値の研究
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23540036
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
大野 泰生 近畿大学, 理工学部, 教授 (70330230)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 2元3次形式 / 多重ゼータ値 / 概均質ベクトル空間 / 多重ゼータ関数 / 多重ベルヌーイ数 / 多重オイラー数 / ロンサム行列 / 簡約理論 |
Research Abstract |
2元3次形式の空間については、作用する群を合同部分群にする場合などいくつかの条件下での類数の計算や類対応の推察を行い、数値データを多数蓄えた。また秋の日本数学会や北陸数論研究集会において、2元3次形式の代数的関数等式の理論や簡約理論との関わりについて講演を行った。一方、多重ゼータ値の生成するベクトル空間の構造解明に向けて、ZagierとBrownの成果によりHoffman予想基底の十分性が判明している。また、Ihara-Kajikawa-Ohno-Okudaにより提案された、Hoffman基底のzeta-star版と言える{2,3}予想基底と従来のHoffman基底との関係についてのZagierによる著しい結果により、{2,3}予想基底についても同様のことが期待されている。この状況下で具体的に複数の多重ゼータ値およびそれらの和の族に対して、{2,3}予想基底による記述が可能であることを新たに示した。また等号付き多重ゼータ値のある種の和に対して,Ohno-Zudilinの証明した2-1公式を援用することで、リーマンゼータ値の多項式として記述することが可能であることを導いた。このほか、多重ゼータ値を正整数点での特殊値にもつArakawa-Kanekoのゼータ関数の、負整数点での特殊値は多重ベルヌーイ数で記述されるが、ロンサム行列の個数に関する母関数と多重ベルヌーイ数の母関数は一致する。この母関数のより精密な性質を解明するために、ロンサム行列を重さインデックスにより細分化した場合の母関数の記述を、鎌野健氏・山本修司氏とともに研究し、非可換変数を導入することにより十分満足できる形で新たな母関数の表記を得ることに成功した。また、多重L関数に付随する多重オイラー数の数論的また組合せ論的性質を佐々木義卓氏と究明し多数の公式を得た。これらの成果を秋の学会と解析数論シンポジウムで講演した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概均質ベクトル空間とりわけ2元3次形式の空間における同値類の対応関係をより詳細に調べる目的での、群や係数の枠組みを変化させての数値実験は幾ばくかの困難はあるものの進展しており情報は着実に増え蓄積されている。特殊線形群の作用における同値類の具体的対応を記述する上で、すでに見えているらせん構造の細部の解明と発生の解明が欠かせず、そのための情報として合同部分群作用下での同値類の情報など複数の状況下での情報を要する。これに向けた各種の数値実験は順調に進行していると言える。また多重ゼータ値とそれに付随する多重ベルヌーイ数・重み付きロンサム行列・多重オイラー数などの諸性質の解明においても、発展的あるいは萌芽的な成果を多数得ている。とりわけ、多重オイラー数に関する数論的考察では、研究進展に伴って露わになる様々な現象が大変興味深いものであり、さらに研究を深める必要性を一段と強く感じている。多重オイラー数に関しては組合せ論的性質も豊富に得られており、これはこの数列の存在意義の傍証のひとつであるとも言える。ベルヌーイ数の一般化として様々な良い性質が期待される中、これまでに収集できた諸性質の情報は十分に豊かであり満足のいく魅力的なものである。重み付きロンサム行列の数え上げにおいて、母関数の記述に非可換変数を用いたことは大変画期的であると考えている。非可換変数の導入により極めて満足のいく形で母関数は記述され、Brewbakerの結果を自然に拡張できたと言える。また、2-1予想公式や{2,3}予想基底についても、着実に証明された事柄は増えており、核心に迫るための情報が蓄えられてきている。これらの情報から現在、一般超幾何関数とその接続公式を用いて予想関係式を解釈する方法を追求し始めている。以上のように課題として掲げた対象において着実な研究進展を得ているだけでなく、今後の発展が期待できる成果も得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
2元3次形式の空間における同値類の対応関係をより詳細に調べるための、群や係数の範囲を変化させて行っている数値実験をしばらく継続し、今後の考察に必要となる情報蓄積を進める。Nakagawaにより証明された、判別式が正と負の2元3次形式の間の類数の一致について、具体的な類同士の対応関係を詳らかにすることを最終目標として研究を進める。判別式の異なる類の間のらせん構造のような類の対応関係を既に把握しているが、これらの絡まりと発生にはいくつかの解明すべき課題が残っている。これの解明のため合同部分群の作用下での同値類の情報を十分に蓄積する必要がある。多重ゼータ値および多重ベルヌーイ数・多重オイラー数については、従来の研究を継続して行い、とりわけ多重オイラー数について数論的性質と組合せ論的性質の双方をできるだけ詳細に解明して今後の多重L関数の研究に生かせるようにする。また、重み付きロンサム行列に対応する多重ベルヌーイ数の母関数の解釈については未だに把握できていることは少なく、今後何らかの意味づけを与えたいと考えている。等号付き多重ゼータ値の和に関する、2-1予想公式をはじめとするいくつかの予想関係式については、最近になって発展してきている一般超幾何関数とりわけ3F2との関係づけを用いて新たな情報を引き出すことを試みる。等号付き多重ゼータ値の双対的関係式の証明においても一般超幾何関数による表示と超幾何関数の接続公式の有効性が証明された。2-1公式をはじめとするある種の対称性を持つ予想関係式においては特に、接続公式の存在が背後にあると想像する研究者は多い。この多重ゼータと超幾何の関わりをなるべく系統的に解明して、接続公式の寄与を構造的に解明したいと考えている。これらの研究推進にあたっては従前からの共同研究者らと密に研究連絡を行い、成果の発表も積極的に行っていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
東日本大震災の影響で今回の科研費は2回に分割されて振込まれたが、報告者自身のドイツ出張の後の1回目の振込額の残額では、科研費による招へいを予定していたオーストラリア・ニューカッスル大学の共同研究者Zudilin氏の旅費を賄い切れず、これを断念せざるを得なかった。このため2回目の振込みの後に、北陸など数か所への研究成果発表を目的とする出張を行ったが結果として年度末に約5万円の次年度使用額を生じることとなった。これは、次年度の研究費と併せて、国内外出張の旅費交通費として使用する計画である。2元3次形式の係数と類数の算出、および多重ゼータ値や多重ベルヌーイ数・多重オイラー数に関する数値実験のために使用する、最新の数式処理ソフトを購入する予定である。このため次年度研究費の一部をソフトウェア購入に用いる予定である。上述の研究を推進するための研究連絡や研究成果発表のために、ドイツ・マックスプランク研究所Zagier氏やオーストラリア・ニューカッスル大学のZudilin氏Borwein氏などを訪問する予定である。このため海外出張用旅費が必要である。また国内でも九州大学の金子氏や首都大学東京の津村氏を訪問する予定であるほか、昨年度より継続している関西多重ゼータ研究会の開催に際して講演者等の旅費をサポートすることで最新の研究成果等の情報を得る予定である。このため応分の旅費交通費を要する予定である。またデータ打ちこみを含む研究資料収集および研究資料整理を手伝う学生への報酬謝礼金として研究費の一部を使用する。
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Research Products
(9 results)