2012 Fiscal Year Research-status Report
概均質ベクトル空間のゼータ関数と多重ゼータ値の研究
Project/Area Number |
23540036
|
Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
大野 泰生 近畿大学, 理工学部, 教授 (70330230)
|
Keywords | 2元3次形式 / 多重ゼータ値 / 概均質ベクトル空間 / 多重ゼータ関数 / 多重ベルヌーイ数 / 多重オイラー数 / ロンサム行列 / 簡約理論 |
Research Abstract |
多重ゼータ値の和を正整数点での値にもつ1変数ゼータ関数として、Arakawa-Kanekoのゼータ関数が知られているが、このゼータ関数はリーマンゼータ関数のポリログよる一般化と見做すことができ、負整数点での値は、多重ベルヌーイ数を用いて記述される。多重ベルヌーイ数は負インデックスの場合にはロンサム行列の個数やある種の置換の数え上げと完全に一致するなど、物理的数値や組合せ論的数量と深く関係している。正インデックスの場合にもクラウゼン・フォンシュタウト型の定理がKanekoによって導かれ、より具体的なp進的解釈が待望されている対象である。今回の研究では、Kanekoによるクラウゼン・フォンシュタウト型定理の2重ベルヌーイ数に関する精密な分母評価を踏まえ、2重ベルヌーイ数そのものの2-orderと3-orderの評価の精密化を行った。とりわけ2-orderについては、簡素な明示公式の証明に成功した。3-orderについては今後解決すべき一般的予想式も特定できており今後の発展が期待できる状況にある。これらは、待望されるp進的解釈の解明に向け極めて前向きな情報となっている。この成果は、日本数学会年会代数学分科会および早稲田大学整数論研究集会において口頭発表した。このほか、多重ゼータ値のある種の和を係数とする母関数は、ガウスの超幾何関数と非常に深く関係しており、これに関する斬新な研究手法と今後解明されるべき課題について、東北大学代数セミナーおよびNCTS台湾国家理論科学センターにおける日台数論研究集会において講演を行った。また、双対関係にある空間の類数の対応を解明する上で有効となる可能性のある簡約2元3次形式の取る内積の値の範囲について、判別式を規準として考察を行い、対応する2元2次形式の型による類別について研究を行った。類対応の具体的記述に向け理論と数値双方の情報を多数入手できた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概均質ベクトル空間とりわけ2元3次形式の空間における類対応の構造的解釈に向けての、簡約理論の精密化および数値データの集積は着実に進行している。各素数を法として群作用をモデル化し考察する手法も一定の成果をあげている。また、判別式に関して類の発生系列を調べることにより、ある種のらせん構造が解明されつつあるものの、まだ細部の解明には難問がいくつか立ちはだかっている。素数を法とする分解によりこれらの仕組みの詳細な解明を目指しているところである。 また、多重ゼータ値とぞれに付随する多重ベルヌーイ数、および多重オイラー数に関しては、母関数を用いた組合せ論的手法と微分方程式を構成する手法とによって、いくつもの興味深い事実が証明された。多重ゼータ値のなす有理数体上の環の構造解明について、それらの生成系を特定する研究がHoffman, Brown, Zagierによって大きな進展を得たが、そこで示されたHoffman予想基底の等号つき多重ゼータ値版については、Ihara-Kajikawa-Ohno-Okudaの論文での提出以来、大きな進展はほとんどない。これに関連して、Ohno-Zudilinによるtwo-one formulaが、YamamotoとZhaoによって独立に深く研究され、等号付き多重ゼータ値と通常型多重ゼータ値を統一的に扱う手法が模索され、two-one formulaの証明も得られた。このことを用いて、一般化されたArakawa-Kanekoのゼータ関数の特殊値の双対関係の研究を進展させている。重みつきロンサム行列の個数と多重ベルヌーイ数の母関数の関係解明の論文も論文誌掲載が決定し、多重オイラー数のparityに関する論文も論文誌に掲載された。
|
Strategy for Future Research Activity |
達成度においても述べたように、2元3次形式の空間においては、判別式を規準として存在が確認できている、類の生成パターンをなすらせん構造をモデル化し、素数を法とする群作用の分解も駆使して、類の系列化と新形式の特定を行うことを目指し、最終的には整数環上の特殊線形群作用下での、整数係数2元3次形式の類対応を解明したいと考えている。このために昨年からの継続である合同部分群作用下での類数の解明、簡約理論の整備、らせん構造の特定などを順次行う予定である。 多重ゼータ値・多重ベルヌーイ数・多重オイラー数に関しては、それぞれに関する従前の研究を継続的に推進する計画である。多重ゼータ値のある種の和の母関数の満たす超幾何微分方程式の細分化と一般化についての考察を進め、また等号付き多重ゼータ値に関するHoffman予想基底の生成系としての正当性の証明に迫りたい。また、正インデックスの多重ベルヌーイ数の素数-orderについての、一般的な明示公式を目標とし、その帰結として多重ベルヌーイ数のクンマー型合同式の解明・p進L関数との関係解明に研究進展させたいと考えている。他方、負インデックスの多重ベルヌーイ数については、ある種の置換のなす群の個数との一致がLaunoisなどの研究により知られているが、この精密化あるいは重みつきロンサム行列の個数との対応づけの究明を目指す。また多重オイラー数については、逆関数の投入による多重化の一般論の構成を目指すとともに、具体的なインデックス例えば2重オイラー数などの分母の評価や合同関係式の解明を、母関数の議論を用いて継続的に行う予定である。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2012年8~9月の台湾NCTS研究所、2013年4月のイギリスNewton研究所への海外渡航が相次いで入り、2012年度に予定していたドイツ渡航を2013年度中下旬に延期せざるをえなかった。2013年度は、ドイツ・マックスプランク研究所への渡航を実現し、Zagier氏との2元3次形式のゼータ関数に関する研究プロジェクトと、多重ゼータ値環の構造解明に向けた研究を遂行する予定である。また、オーストラリア・ニューカッスル大学・CARMA研究所のBorwein氏とZudilin氏も訪問して、多重ベルヌーイ数および多重ゼータ値に関する研究を前進させたいと考えている。具体的な数列あるいはディリクレ係数を用いた数値実験の場面では、MathematicaやPARI/GP等へのデータ打ち込みの作業を要する可能性が高く、この場面や研究資料整理・収集に関して作業する学生等への報酬謝礼金として一部を使用する予定である。
|
Research Products
(6 results)