2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540057
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Research Institution | Tokyo Denki University |
Principal Investigator |
中野 哲夫 東京電機大学, 理工学部, 教授 (00217796)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 代数的組合せ論 / グレブナ基底 / Bool 環 / toric 多様体 |
Research Abstract |
平成23年度は,代数的組合せ論,特に数独の研究を行った.数独は,日本で考案され世界的に人気のあるパズルであって,その数学的構造も最近活発に研究がされている. まず最初に,数独の4×4版である四独の数学的構造を研究した.四独のルールを多項式の連立方程式を用いて表し,そのイデアルのグレブナ基底を求めることで,次の3つの結果を得た:(i) 四独の本質的に異なる解配置は2個しかない. (ii) 唯一の解をもつ四独の初期配置の最小個数は4で,無駄のない初期配置の最大個数は6である.(iii) 唯一の解をもつ四独パズルの個数は13579680 個で,無駄のないパズルの個数は 85632 個である. この結果は,平成23年9月に日本数式処理学会で発表しており,現在,論文にまとめて投稿準備中である. 次に,9×9 の数独および 16×16 の16独の研究を,Boolean グレブナ基底を用いて行った.Bool 方程式を用いた数独の研究は,東京理科大・神戸大のグループによって,最近盛んに研究されている.Bool 多項式環のイデアルは唯一の Stratified グレブナ基底(SBG基底)をもつ.そこで,与えられた数独パズルを Bool 方程式を用いて定式化し,そのイデアルの SBG基底を求め,SBG 基底の方程式を後退代入を用いて解く,というアルゴリズムで数独の解を求めることができる.このアルゴリズムを用いて,2種類の数独solver を,数式処理システム magma 上で開発した.これらは,数独の問題をおおむね数十秒程度で解くことができ,数独solver としては十分な性能をもっている.同様のアルゴリズムで16独のsolver も作成したが,こちらは解を求めるのに時間がかかりすぎ,更なるアルゴリズムの改良が必要のように思われる.以上の内容も,現在,論文準備中である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
代数的組合せ論の研究では,現在は,グレブナ基底を用いた数独および類似のパズルの数学的構造の研究を行っている.四独の場合は,唯一の解をもつパズルの最少個数および,無駄のないパズルの最大個数を決定し,また,唯一の解をもつパズルと無駄のないパズルをすべて数え上げることができた.また,数独や16独の場合は,Bool 環のstratified グレブナ基底を用いて,Bool 方程式を用いて解を求めるプログラムを作成することができた.この解法プログラムを実行することにより,数独パズルの Bool方程式としての解の個数の概数が判明し, また,人間が数独を解く場合の難易度と解法アルゴリズムの関係もわかってきた.今後は,数独を人間が解く場合の難易度判定や更なる解法アルゴリズムの探求を進めるとともに,Bool 方程式で定式化することのできる他の組合せ問題を探し,更にBool 環自身の研究も深めていきたい. また,元々の研究方向である,代数的組合せ論と toric 多様体の研究,特に反射的整凸多面体と完備 Gorenstein toric Fano 多様体の1対1対応を用いて Gorenstein toric Fano 多様体の幾何的性質を探求する必要がある.2次元の場合は,すでに研究は終わり発表済みである.反射的整凸多面体は4次元までは完全に分類されており,これらの数は膨大であるが,この分類を用いて toric 多様体の幾何学を理解することを試みている. グレブナ基底は,代数解析学における多項式係数の偏微分作用素環 D_n のイデアルの計算にも使うことができる.今年度は,アフィン空間内の超曲面の特異点のミルナー束のモノドロミーをD加群の方法で計算するアルゴリズムを研究し,いくつかの興味深い特異点の場合に,この方法でモノドロミー行列を計算することができた.
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Strategy for Future Research Activity |
今後は,Bool方程式を用いた代数的組合せ論に引き続き取り組むとともに,凸多面体の組合せ論を,対応するtoric 多様体の幾何学を用いて研究する予定である.また,toric 多様体の極小モデル理論(MMP)は,M. Reid によって成立することが証明されているが,最近,toric 多様体の極小モデルをコンピュータで計算することができるようになってきたので,コンピュータ実験によるtoric 多様体の極小モデルの研究にも取り組む予定である. グレブナ基底は,代数解析学における線形偏微分作用素環 D_n のイデアルの計算にも使用できる.D加群の応用として,Malgrange の定理を用いてアフィン空間内の超曲面の孤立特異点のミルナー束のモノドロミーを計算できるので,この方法で興味深い高次元の特異点(例えば3次元商Gorenstein 特異点など)の場合に,そのモノドロミー行列を計算してみる予定である.孤立していない特異点の場合にも,このアルゴリズムを研究してコンピュータへのプログラム実装を試みたい. また,点付き代数曲線のモジュライ空間については,正標数の場合に (標数 0 の場合にのみ証明されている)Pinkham の理論を拡張することを第1の目標としている.これは正標数の1次元トーラス作用をもつ代数曲面の理論を用いればできることがわかっているので,証明を完成させて発表する予定である.さらに,正標数の場合の証明ができたら,懸案のWierstrass 半群 N の生成元の個数が5個以上の場合に,N を指定した点付き代数曲線のモジュライ空間 M_{g,1,N} の計算を行ってみる予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究には,Bool環,代数解析学,代数幾何学,特異点論,計算代数など多くの分野の知識が必要なので,経費は主として,これらの最新の文献を揃えるために使用する計画である. また,グレブナ基底や Bool 方程式を用いた代数的組合せ論の研究は,主として国内で盛んに行われているので,この分野の研究者との交流を深め研究を進展させるために,出張旅費としても使うことを予定している.
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Research Products
(2 results)