2015 Fiscal Year Research-status Report
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23540072
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
今野 宏 明治大学, 理工学部, 教授 (20254138)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2017-03-31
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Keywords | リッチ平坦多様体 / 平均曲率流 / ラグランジュ部分多様体 |
Outline of Annual Research Achievements |
Anciaux, Lee-Wang,Joyce-Lee-Tsui, Castro-Lerma 等によりユークリッド空間内におけるラグランジュ平均曲率流の解の具体例は構成されていた.一昨年,Yamamoto は,これらの構成方法をトーリック幾何の視点から整理して,この構成法をトーリック カラビ-ヤウ多様体における「一般化された」ラグランジュ平均曲率流を構成する方法に拡張した.ここでは,トーリック カラビ-ヤウ多様体の計量はリッチ平坦と限らず,「一般化された」ラグランジュ平均曲率流は平均曲率流と似た性質をもつと期待されるが,平均曲率流ではなく,どの程度似ているかも十分に調べられていない.我々は,Yamamoto の構成法をトーリック幾何から切り離して,以下の結果を得た.すなわち,トーラスがハミルトン的にカラビ-ヤウ多様体に作用しているとき,各点でトーラス軌道に直交する特殊ラグランジュ多様体を基にして,ラグランジュ平均曲率流の特異点を許す時間大域解を具体的に構成した.その応用として,ある4次元ハイパーケーラー多様体におけるラグランジュ平均曲率流の具体例を詳細に記述した.これは,研究代表者の知る限り,非平坦なリッチ平坦多様体におけるラグランジュ平均曲率流の具体的に記述することのできる初めての例である.現在,その解をマクロ的視点から見たときの挙動を調べることと,解の特異点をミクロ的視点から調べることの最終的な詰めの段階に到達している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の研究計画は2つのテーマからなり,一つは量子化に関する研究であり,これについては昨年論文が出版され,無事終了した.もうひとつのテーマは,ハイパーケーラー商に対する Kirwan 写像が全射である,というハイパーケーラー商のトポロジーに関する基本原理をモース理論を用いて証明しようというもののであった.ところが,我々の計画とは全く異なる方法でこの基本原理が証明されてしまった.そのため,研究計画をハイパーケーラー商の微分幾何的性質の応用へと変更した.この変更した計画の成果として得られたのが,「研究実績の概要」に書いた,ある非平坦なリッチ平坦多様体におけるラグランジュ平均曲率流の具体的に記述することのできる例の構成である.計画を変更して具体的目標を絞り込むために多くの時間を費したため,「やや遅れ」の自己評価とした.けれども,具体的目標を絞り込んでからは,ほぼ計画通りに研究がすすみ,ようやく成果にたどりついた.現在は,その応用として,解の具体的な記述を用いることにより,解をマクロ的視点から見たときの挙動を記述することと,解の特異点の様子をミクロ的視点から調べることの,最終的な詰めの段階に到達している.また,この副産物として,ユークリッド空間における平均曲率流の特異点の様子,とくに以前にはあまり知られていなかった特異点を生じる前と後の関係について新しい知見を与えることができそうである.これらを含めて,間もなく論文として完成させる予定である.また,夏以降,積極的に研究発表をしたいと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,短期的(1,2か月)な目標は,現在調べている4次元ハイパーケーラー多様体におけるラグランジュ平均曲率流の研究を完成させることである. 次に,我々が提示した一般原理に基づいて,トーラス作用のあるカラビ-ヤウ多様体におけるラグランジュ平均曲率流の具体例を数多く構成できるが,我々はその特異点を群作用を用いて解析することができると期待している.現時点では,特異点の解析をもっとも単純な場合に行っただけなので,より一般の特異点の解析を行ってゆくことが中期的(1年)な目標となる. さらに,非平坦なリッチ平坦多様体においては,「自己相似解」という概念は存在しないが,我々の構成した例の中には,ある意味で「自己相似解に大変近い」ものが含まれている.この「自己相似解に近い」という概念を定式化して,その安定性を調べる.すなわち,我々の構成した解は,時間の経過とともに大変複雑な挙動をとるが,この複雑な挙動が,初期条件を少しかえたときにどの程度安定なものであるかを調べる.このような視点から,一般のラグランジュ平均曲率流の特異点の研究に寄与することが長期的な目標である. 最後に,我々の構成した例では,ラグランジュ部分多様体のマスロフ類は零ではない.マスロフ類が零のラグランジュ部分多様体の平均曲率流の具体例を数多く構成することが強く望まれる.我々の構成法を改良して,マスロフ類が零の場合にできる可能性があるので,それを試みてみたい.これは,all or nothing という結果に終わる計画なので,主たる推進方策として位置付けることはできないが,興味深い課題である.
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Causes of Carryover |
2013年に研究代表者の所属研究機関が変更されて業務の内容が変わり,その対応に多くの時間を費やした.過去の研究を通して得られた知見を含めた内容の書籍を2013年秋に出版したが,その執筆に予想以上の時間を費やした.ハイパーケーラー商の位相のある重要な性質が研究計画とは全く異なる手法で検証されたため,ハイパーケーラー商の微分幾何的性質の応用へと研究計画を見直した.そのため,2013年度までに研究計画を予定通りに行うことができず,翌年度に持ち越された.けれども,2014年以降はおおむね計画通りに進んでいる.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
残金の8割は旅費として使用させていただく.8月末の幾何学シンポジウム(岡山大学)9月の日本数学会(関西大学)には参加する予定である.また,上で報告したように,ラグランジュ平均曲率流の例の構成という研究成果が得られたので,さまざまな大学のセミナーや研究会で研究発表を行うための旅費として使用させていただきたい.残りの2割であるが,主として,微分幾何やシンプレクティック幾何,あるいはこれらに関連する話題についての図書の購入に使用させていただきたい.
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Research Products
(2 results)