2011 Fiscal Year Research-status Report
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23540133
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
関根 順 大阪大学, 基礎工学研究科, 教授 (50314399)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 大偏差制御 / 長時間最適化 / リスク鋭感的ポートフォリオ最適化 / 低下制約 / Wishart型自己回帰過程 |
Research Abstract |
1.数理ファイナンスに現れる長時間大偏差制御問題に関する別解法を考案した。すなわち、有限期間の確率最大化・最小化問題を凸双対法を用いて解き、その長時間漸近挙動を直接調べることで大偏差制御の最適解を得る解法である。このアプローチは、市場に関する完備性は仮定するものの、マーケットモデルのマルコフ性は必要としないという一般性・利点を持つ。また、最適化された大偏差確率のレート関数の表現は、漸近裁定などファイナンス理論的にも示唆に富んだ解釈を持つ。2.長時間リスク鋭感的ポートフォリオ最適化問題を一般化した低下(ドローダウン)制約)下で考察して最適解を求めた。この制約は富過程の最大値過程を用いて記述され、富過程に経路依存した形の制約である。ドローダウン、すなわち富過程とその最大値過程の差、自体は実務でも重要な指標と認識されており、既存の研究を拡張した形で一般的に扱うことで、より実際的な最適解を得ることができた。解析の中では、いわゆるAzema-Yor過程の性質を効果的に応用することで簡潔な証明を得ることに成功した。3.対称行列を値に持つWishart自己回帰的過程をマーケットファクターとして採用し、これを用いてリスク鋭感的ポートフォリオ最適化を考察した。対応するHJB方程式の解はRiccati行列方程式の実対称解と線型方程式の解を用いて明示的に表現される。明示的な最適解表現を持つ確率制御問題の具体例を新たに提示することができた。また、確率的な相関構造を陽に組み込んだモデルを用いた最適制御であり、応用上も重要である。4.資産価格のドリフトが直接観測できない隠れた変数として与えられるモデルを用い、冪効用最大化問題を考察した。特に期待最適効用の長時間成長率を計算し、これが隠れた変数を持たないモデルの場合と大きく異なり、ドリフトの分布に依らない双曲的な成長率を持つことを示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
大偏差制御に関する別解法を考察することで新たな観点・見地を得た。これにより、更なる精密化、発展に関する方向性・可能性を得ることができた。具体的には、指数項の前にかかる定数項の最適化やmoderate deviationに関する評価などである。また、低下制約の一般化を考察する中で、長時間リスク鋭感的ポートフォリオ最適化のメリット・デメリットがより明らかになった:成長率(のみ)に着目した最適化は単純で解析しやすい側面もあるが、より精密な漸近評価やそれに基づく最適化が重要となる側面もある。そして、資産価格のドリフトが直接観測できない隠れた確率変数として与えられるベイズ型モデルの考察を通じて、双曲的な成長率を持つ最適解を得るなどの副産物もあった。Wishart型行列値過程をファクターに持つモデルを用いたリスク鋭感的最適制御の考察を行い、明示的な解表現を持つ応用上も重要な具体例を提示できた。このように現在までに得られた結果をベースとして、より一般化・拡張を施した設定での考察を始めている。具体的には、一般的なLEQG(Linear Exponential Quadratic Gaussian)モデルに対応する大偏差制御の考察や、ジャンプ項を含んだWishart型モデルを用いた考察などである。
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Strategy for Future Research Activity |
一般的なエルゴード型長時間LQG(Linear Quadratic Gaussian)制御の一般化としての大偏差制御問題の考察を始めている。対応する双対問題:LEQG(Linear Exponential Quadratic Gaussian)制御に、ロバスト化されたLQG制御としての直接的な意味・解釈を与えることができると期待している。また、ターゲットとなる成長率を任意に設定する"完全な"大偏差原理の結果を得るためには、対応するLEQG制御のぎりぎりの可解性やより詳しい漸近挙動を調べる必要があると考えている。この研究は、以前行った1次元被制御過程を用いた解析に基づく知見から、ガウス過程の2次汎関数に関する大偏差原理の解析と大きな類似性があると考えている。更に、大偏差制御に関する解析から、大数の法則レベルの問題:エルゴード型LQG制御へのフィードバックが行えないかとの期待もある。すなわち、経路毎にalmost sureな最適解を考察するエルゴード型LQG制御の可解性を整理できないか?より一般化できないか?との期待である。応用例として、数理ファイナンスでの資産長期間最大成長率のロバストな評価を考える予定である。また、Wishart型行列値拡散過程にジャンプ項を付加した過程を考えて、これをファクターに持つマーケットモデル上でリスク鋭感的ポートフォリオ最適化問題を考察する予定である。アファイン型過程の性質が大きく活かされ、依然として明示的な最適解表現が得られるとの予想を持っている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1. 9月にカリフォルニア大学・サンタバーバラ校の一場知之助教授を招聘し、研究交流を行う。また、集中講義も行ってもらう。2. 大偏差制御の数理ファイナンスへの応用として、資産長期間成長率最大化に関するシミュレーションを実金融データを用いて行う。そのために必要なハードウェア・ソフトウェアを購入する。3.大偏差やその応用に関する数学・数理科学・工学専門書を購入する。
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Research Products
(14 results)