2011 Fiscal Year Research-status Report
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23540142
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
川崎 英文 九州大学, 数理(科)学研究科(研究院), 教授 (90161306)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 最適化理論 / ゲーム理論 / 離散凸解析 / 劣モジュラ解析 / 離散不動点定理 / 純戦略ナッシュ均衡 |
Research Abstract |
ゲーム理論と最適化理論の分野で,不動点定理と双対定理を軸に連続構造と離散構造の研究をおこなっている. ゲーム理論では,研究代表者が与えた直積整数区間上の縮小写像の離散不動点定理を用いて,完全情報をもつ展開形ゲームが純戦略ナッシュ均衡をもつというキューンの定理を説明し,国際シンポジウムで発表した.これは「純戦略ナッシュ均衡をもつゲームの背後には,それに対応する離散不動点定理が存在するであろう.」という研究代表者の予想を実証する研究結果であり意義深い.さらに,その研究成果を国際誌に投稿し,査読報告に沿って現在論文を改訂中である.また,単調写像の離散不動点定理とそのゲーム理論への応用に関する竹下氏との共著論文が日本OR学会の欧文誌に掲載されることが決まった.最適化理論では,劣モジュラ解析と離散凸解析を検証し,組み合せ最適化における伝承の定理と呼ばれる,基多面体の整数性に関する定理について,基多面体が有界でない場合の証明に不備があることを明らかにした.この基本定理は離散凸解析の根幹にかかわるため,早急にその証明を完成させる必要がある.以上の研究成果を執筆中の専門書に加え,その原稿は170ページになった. その他,投稿中であった1次元折り紙の平坦折りたたみの基本定理に対する組み合せ的証明が国際シンポジウムの論文集に掲載された.1次元折り紙はタンパク質の折りたたみというホットな話題に関連する基本的な数学の道具であり重要である.従来の証明が図を描いて説明するという厳密性を欠くものであったのに対して,組合せ的手法によりあいまいさを排除することに成功したものであり,確固とした基盤を提供したという意味で重要である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ゲーム理論については,研究代表者が与えた縮小写像の離散不動点定理により,展開形ゲームに対するキューンの定理を証明できることを明らかにした.これは「純戦略ナッシュ均衡の存在定理の背景には何らかの離散不動点定理が存在する.」という研究代表者の予想を裏付ける事実であり,本研究の方向性の正当性を表す. 最適化理論については,組み合せ最適化の伝承の定理の証明に不備があることを明らかにし,次のステップに進む鍵を得た.この問題と凸多面体の整数性に関する基本命題との関連を見い出したことは予定外の嬉しい結果である.さらに,両定理ともに組合せ最適化において非常に重要な役割を担っているので,当該分野におけるその影響は大きい. また,研究成果の公開については,専門書の原稿をさらに70ページ執筆し,セミナー資料として利用するなどして内容の充実を図っており,順調に進んでいる.以上のことから,研究はおおむね順調に進展していると考える.
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Strategy for Future Research Activity |
ゲーム理論については,研究代表者の縮小写像の離散不動点定理の着想の元になったリチャードによる局所的な縮小写像の離散不動点定理がある.前者と同様に,後者を用いて純戦略ナッシュ均衡の存在を説明できる何らかのゲームのクラスがあるものと予想されるため,その解明に取り組む.また,近年,グラフ上での配置ゲームや情報拡散ゲームが純戦略均衡をもつことが報告されている.従来の研究では,代表的な個々のグラフに対して計算を実行し,ナッシュ均衡が存在するかどうかを確認しているが,離散不動点定理を用て統一的な手法を確立することができれば,当該分野のブレークスルーになるものと期待される. 最適化理論については,組合せ最適化における伝承の定理の証明を非有界集合の場合に完成させたい.その際,「有理凸多面体はそれに含まれる整数点の凸包に一致する.」という凸多面体の整数性に関する基本命題が深くかかわるものと考えている.また,ロヴァツの研究によりひろく知られている,劣モジュラ関数のもつ凸性と凹性という二面性の問題にも取り組みたい.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
数理科学の基礎研究という研究の性質上,他機関研究者の招聘と他研究機関に出向いての研究討論,成果発表のための国内外への出張旅費が研究費に占める割合が大きい. 研究打ち合わせは,7月に京都大学数理解析研究所で開催される組合せ最適化のセミナーに参加し,劣モジュラ解析と離散凸解析に関して議論したい.数理解析研究所ではこれ以外にも最適化,ゲーム理論,非線形解析の研究集会が開催されるため,それらすべてに参加する予定である.離散不動点定理については,海外の研究者とメイル等で議論を深めたい.9月に台湾の国立中山大学で国際シンポジウムが予定されている.そこで研究成果を発表するとともに,海外の研究者と直接討論をおこなう予定である. その他,最適化理論とゲーム理論,およびその関連分野の新刊書が不可欠である.また,資料整理,計算補助の学生アルバイトに対する謝金が必要である.現在使用中の計算機の1台が不調なため,修理もしくは買い替えを予定している.
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