2011 Fiscal Year Research-status Report
時間依存の摂動をもつマルコフ過程の大域的性質とその応用
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23540147
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
金 大弘 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (50336202)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
桑江 一洋 熊本大学, 自然科学研究科, 教授 (80243814)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | sub-diffusivity / diffusion process / large deviation priciple / gaugeability / conditional gaugeability |
Research Abstract |
自己相似性をもつランダム媒質中の1次元拡散過程における劣拡散性をめぐる問題は,多次元へのアプローチが容易ではないとされている.本年度では,摂動パラメータ付きの多次元拡散過程(焼きなまし過程)におけるスペクトルギャップの摂動を弱めたときの漸近挙動の評価がランダム環境を表すポテンシャルから定まるある幾何学的量に関連することを利用してランダム媒質中の多次元拡散過程における軌跡集合も劣拡散性をもつことを証明した.零エネルギーを含む飛躍型ファインマン-カッツ汎関数に対する Donsker-Varadhan 型大偏差原理を,その汎関数に対応するRevuz測度の最も弱い条件で成立させた.その結果を用いてることで,零エネルギーを含む飛躍型ファインマン-カッツ半群のスペクトル半径のLp独立性を示すことができた.研究成果は現在投稿中である.一方で,ファインマン-カッツ半群のスペクトル半径のLp独立性は,可積分性 (gaugeability) の問題と深いかかわりがあり,シュレディンガー作用素に対する劣臨界性,すなわち,正値グリーン関数の存在や正値解の存在と関連する問題で,ポテンシャルが無い場合にはマルコフ過程の再帰・非再帰性の判定と同値な問題となる.本年度の研究の後半は,グリーン緊密な加藤クラスの測度をポテンシャルとしてもつ零エネルギーを含む飛躍型ファインマン-カッツ汎関数が可積分であるための必要十分条件を得るところまで及んだ. それは,時間変更過程の第一固有値が測度や対応する加法的汎関数の大きさを測る基準としての役割を果たすことを示している. 更に,対称安定過程の下では,上述したファインマン-カッツ半群が超縮小性を持つための必要十分条件が,時間変更過程の第一固有値が1より大きいことで与えられるところまで検証した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
23年度の研究では,摂動パラメータをもつ古典的力学系のゼロ極限問題に関連する周辺問題として,ディリクレ空間論に基づく解析学的アプローチの一般的な拡張とその応用の場を広げる新しい形の問題提起を一つの目標として掲げていた. このことに対しては自己相似性をもつランダム媒質中の多次元拡散過程における軌跡集合の劣拡散性についての一連の結果を得たことで概ね目標達成ができた. 零エネルギーを含む飛躍型ファインマン-カッツ汎関数に纏わる研究では,大偏差原理を成立させるための一般的な条件とは何かを調べるのが目標であったが,今まで知られている既存の結果などをはるかに含む期待以上に一般的な条件を求めることができた.これにより,研究は当初の目標より更に進んだところまで及び,ファインマン-カッツ半群のLp独立性やそれを応用した問題として,ファインマン-カッツ汎関数の可積分性の問題やその解析学的な特徴付けまで検討できた.
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Strategy for Future Research Activity |
零エネルギーを含む飛躍型ファインマン-カッツ汎関数に関する研究において,前年度は大偏差原理を成立させるための一般的な条件を求めることができた.今後の研究推進方向は,前年度で得た結果を踏まえて, 零エネルギーを含む飛躍型ファインマン-カッツ半群のLp独立性とそれを応用した問題として,ファインマン-カッツ汎関数の可積分性 (gaugeability) の問題およびそのファインマン-カッツ汎関数の可積分性における解析学的な特徴付けを行なうことを念頭におく.このことは,また,零エネルギーを含むファインマン-カッツ汎関数における処罰問題を考える際に重要な道具としても考えられる.更に,今後の研究は韓国の科学技術院(KAIST)との共同研究に基づく逐次モンテカルロ法での新たな取り組みとして,通常の systematic resampling 法に代わる restrained resampling法における理論的検証やシミュレーションでの結果の検討まで及ぶ.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究費使用計画として,6月に韓国の数理科学研究所で行なわれる確率微分方程式サマースクールと9月にポーランドで行なわれる第6回国際会議 Stochastic Analysis and Applicationsで参加して研究発表を行なうため,計2回の海外出張を予定している.その他,国内研究集会や日本数学会での研究発表のためにも研究費のうち旅費の比率が大きくなると予想される.また,応用の範囲が広いいくつかの問題に対しては大学院生らの研究テーマとして教育研究の基盤とし、優れた成果をあげた学生には成果発表のための予算も支援する.その他,前年度に予算の関係で購入できなかった専門図書と情報環境を改善するためのノートパソコンを一台購入する予定である.また,予算に余裕があれば海外の著名な関連研究者を招聘して研究打ち合わせも考えている.また,前年度に引き続き,韓国科学技術院(KAIST)との共同研究に基づく逐次モンテカルロ法での新たな取り組みに対しても研究打ち合わせ旅費を別途に設ける.
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