2011 Fiscal Year Research-status Report
エンタングルメントを含むチャネルの特徴付けと量子チャネル符号化の定理の基礎付け
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23540162
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
渡邉 昇 東京理科大学, 理工学部, 教授 (70191781)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 量子情報理論 / 量子通信理論 / 量子エントロピー / 量子チャネル / 量子符号化定理 / 量子エンタングルメント / 量子通信路容量 / 力学的エントロピー |
Research Abstract |
本年度の研究成果は,研究代表者等のグループが行ってきた量子情報通信理論の研究をベースとして,実函数論,函数解析学などの解析的手法や更に情報理論や物理学における諸概念を取り入れて,本研究課題に関連する問題の中で,(1) 量子系の力学的平均相互エントロピーの数理的研究を行う。量子系の力学的エントロピーの研究は,様々な研究者によってなされている.特に,コサコウスキー-大矢-渡邉は,AOWとAFを含むより一般的な系に対して完全正値写像に関するKOW力学的エントロピーを定式化した。本研究では、大矢によって導入された,力学的エントロピーに基づく平均相互エントロピーについて,いつくかの光変調モデルに対して力学的平均相互エントロピーを定式化し,光雑音チャネルに対して光変調方式の効率を厳密に調べる研究を行った。さらに,(2)量子系のエントロピーを用いたGauss通信過程の定式化に関する研究を行う。古典連続系の通信過程を取り扱う場合,コルモゴロフ-ゲルファンド-ヤグロムの相互エントロピーが用いられることが一般的である。この際,入力の情報量をシャノンエントロピーの自然な拡張として,有限分割のエントロピーを採用すると,入力情報量が常に無限大になり,物理的な解釈が困難になる。これに対して,入力の情報量を,工学的によく適用される微分エントロピーを用いて計算すると,入力情報量が相互エントロピーより小さくなり,情報理論的解釈が困難になる。以前の我々の研究では,Gauss通信過程において,この困難さを解決するために,量子系のエントロピー,相互エントロピーを用いて,チャネルの(1)線形性,(2)トレース保存性,(3)正規性を仮定して,情報伝送尺度の定式化を行った。本研究では,チャネルの(1)線形性,(2)トレース保存性のみを仮定した,弱い条件のもとでGauss通信過程における情報伝送尺度の定式化を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子通信路符号化に関する基礎付けとして,KOW力学的エントロピーを用いた平均相互エントロピーの定式化について研究を行っており,これと,Ohya 平均相互エントロピーとの関連性について議論を行っている。本年度は,本課題を研究するために,以下の2つの研究を行った。(1) 量子系の力学的エントロピーの研究:古典系の力学的エントロピーの量子系への拡張の試みが,Connes , Stormer,Emch, Narnhofer, Thirring, Alicki, Fannes, Ohya, Accardi, Kossakowski, Watanabe,等々によってなされている.本研究では、大矢によって導入された,力学的エントロピーに基づく平均相互エントロピーについて,いつくかの光変調モデルに対して力学的平均相互エントロピーを定式化し,光雑音チャネルに対して光変調方式の効率を厳密に調べる研究を行った。この研究は,量子平均相互エントロピーの数理的定式化の研究と密接に関連しており,この研究を展開することによって量子通信路符号化定理の基礎付けに向けた研究が可能となるものと期待している。さらに,(2) 量子チャネルの研究は,非可換系が可換系を含むという観点から,半古典的なチャネルや古典的なチャネルの議論までをも含んだより一般的なチャネルの表現を取り扱う研究と言うことができる。本年度は,古典ガウス通信過程に関するの我々の以前の研究を発展させ,線形性とトレース保存性のみを仮定した弱い条件のもとで,エントロピー汎関数と相互エントロピー汎関数という情報量の尺度を導入した。本研究は,これらの汎関数が情報伝送の効率を議論ために利用可能であることを示した。本研究は,古典系の符号化の定理を量子系へ拡張する上できわめて重要な結果であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は,前年度の研究計画の結果を基にし,特に, (1) 量子系の力学的エントロピー理論の展開,および,(2) 量子エンタングルメンドを含む量子チャネル理論の定式化について研究を行う。量子系におけるチャネルの研究では,ホレボーによって,半古典的 (一方が古典系の) チャネルが導入され,さらに,大矢によって,量子力学的 (完全な量子系における) チャネルが定式化されている。 特に,光通信過程との関連では,大矢による減衰過程を表すチャネルの数理モデルの定式化の研究をあげることができる。この量子チャネルの研究は,一般的には非可換な系から非可換な系への変換を取り扱うものであるが,非可換系が可換系を含むという数学構造を考えると量子チャネルは半古典的なチャネルや古典的なチャネルの議論までをも含んだより一般的な表現と言うことができる。 このような観点から,古典系から量子系への古典-量子チャネルや,量子系から古典系への量子-古典チャネルなども量子チャネルのある特別な場合として取り扱うことができ,古典-量子チャネル,量子チャネル,量子-古典チャネルという一連の伝送過程が一貫した数理構造を用いて統一的に議論することができるのである。本研究では,量子密度符号化や量子テレポーテーションなどの量子エンタングルメントを含む量子チャネルの特徴付けを行い,以下の研究を行う予定である。(a) 量子エンタングルメントを含む量子チャネルに対する量子相互エントロピーの性質を調べる。(b) 量子平均相互エントロピーの定式化を基に,量子系のチャネル符号化の定理の証明に必要な数理的基礎を構築する研究を行う予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
今日の情報化社会を支える基礎理論の一つに情報理論がある。この情報理論は,通常の確率論をベースに定式化され,一連の情報量(エントロピー)を用いて,可換な信号空間上で情報伝送の効率の議論を可能としている。特に,チャネル符号化の定理は,誤りの少ないチャネルを設計する上で重要な基準を与えるものであり,その一般化の研究が,力学的エントロピーおよび平均相互エントロピーを用いて行われている。この符号化の定理は量子情報理論の重要課題としてその解決が待望されている。本研究では,量子系特有の性質である量子エンタングルメントを含む量子チャネルを特徴付ける研究を行い,さらに,量子系における力学的エントロピーと平均相互エントロピーの定式化をもとに量子チャネル符号化の定理の基礎付けを与える研究を行うことを主な目的とする。 次年度は,本研究の推進のため本研究課題の関連するテーマの国内外のシンポジウムに参加し,国内外の研究者とも意見交換を行うための旅費として支出する予定です。出張計画としては,(1)6月の上旬に,スウェーデンのVaxjoで開催予定の国際シンポジウムにおいて招待講演を予定しています。さらに,(2) 6月の下旬に,ポーランドのTorunで開催予定の国際シンポジウムにおいて招待講演を予定しています。また,(3)9月の下旬に会議に参加するために九州大学への出張も予定しています。上記の出張計画以外に,(4) 外国の研究者の招へいも検討しています。さらに,本研究の遂行のため,数理モデルの構築とその情報伝送の効率などの数値計算を実施する予定ですが,計算機とその周辺機器なども必要に応じて購入する予定です。
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