2012 Fiscal Year Research-status Report
エンタングルメントを含むチャネルの特徴付けと量子チャネル符号化の定理の基礎付け
Project/Area Number |
23540162
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
渡邉 昇 東京理科大学, 理工学部, 教授 (70191781)
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Keywords | 量子情報理論 / 量子エントロピー / 量子チャネル / エンタングルメント / 量子チャネル符号化 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き(1)の課題に取り組んだ。(c) 古典通信理論では,コロモゴロフ-シナイエントロピーを用いて平均相互エントロピー(情報量)が定められ,チャネル符号化の定理が証明されている。量子系のチャネル符号化の定理を議論する上で,上記の量子系の力学的エントロピーが本質的な役割を果たすものと考えられる。本研究では,量子チャネル符号化の定理の証明の基礎付けを与えるために,KOWエントロピーをベースに定められる一般化AOWエントロピーを基に,量子エンタングルメントの状態変化を取り込んだ平均量子相互エントロピーの定式化を行い,その加法性等の性質について調べていく予定である。 さらに,上記 (2)の課題に取り組む。量子系におけるチャネルの研究では,ホレボーによって,半古典的チャネルが導入され,さらに,大矢によって,量子力学的 チャネルが定式化されている。本研究では,量子密度符号化や量子テレポーテーションなどの量子エンタングルメントを含む量子チャネルの特徴付けを行い,(a) 量子エンタングルメントを含む量子チャネルに対する量子相互エントロピーの性質を調べた。 (1) 以前の我々の研究では,Gauss通信過程において,量子系のエントロピー,相互エントロピーを用いて,チャネルの(1)線形性,(2)トレース保存性,(3)正規性を仮定して,情報伝送尺度の定式化を行った。本研究では,前年度までの研究を元に,(1)線形性,(2)弱いトレース保存性,という条件のもとでGauss通信過程における情報伝送尺度をエントロピー汎関数と相互エントロピー汎関数を用いて定式化した。(2) 大矢によって導入された,力学的エントロピーに基づく平均相互エントロピーについて,いつくかの光変調モデルOOK,PSK,FSK等に対して力学的平均相互エントロピーを計算し,情報伝送の効率を厳密に調べる研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,量子系のエントロピー理論と量子チャネル理論の研究を基に,量子チャネル符号化の定理の完全な証明を与えることを最終目標とし,その定式化に必要となる数理的基礎をひとつひとつ積み上げていくことを目的とする。 量子通信過程の情報伝送の効率を調べるために量子チャネルや様々な量子相互エントロピー型尺度が導入され研究が行われている。古典連続系の通信過程を取り扱う場合,コルモゴロフ-ゲルファンド-ヤグロムの相互エントロピーが用いられる。この際,入力の情報量に,有限分割のエントロピーを採用すると,入力情報量が常に無限大になり,微分エントロピーを用いて計算すると,入力情報量が相互エントロピーより小さくなる。本研究では,前年度までのGaussチャネルの研究を元に,(1)線形性,(2)弱いトレース保存性,という条件のもとでGauss通信過程における情報伝送尺度をエントロピー汎関数と相互エントロピー汎関数を用いて定式化した。さらに,量子系の力学的エントロピーの研究は,Connes - Stormer,Emch, Connes - Narnhofer -Thirring (CNT), Alicki- Fannes (AF), Ohya, Accardi–Ohya -Watanabe (AOW),Kossakowski –Ohya -Watanabe(KOW)等によってなされている.特に,コサコフスキー,大矢,渡邉は,AOWとAFを含むより一般的な系に対して完全正値写像に関するKOW力学的エントロピーを定式化した。本研究では、大矢によって導入された,力学的エントロピーに基づく平均相互エントロピーについて,いつくかの光変調モデルOOK,PSK,FSK等に対して力学的平均相互エントロピーを計算し,情報伝送の効率を厳密に調べる研究を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き上記(1) および (2)の課題に取り組む。本研究では,量子密度符号化や量子テレポーテーションなどの量子エンタングルメントを含む量子チャネルの特徴付けを行い,(a) 量子エンタングルメントを含む量子チャネルに対する量子相互エントロピーの性質を調べる。(b) 量子平均相互エントロピーの定式化を基に,量子系のチャネル符号化の定理の証明に必要な数理的基礎を構築する研究を行う予定である。さらに,上記 (3)の課題に取り組む。古典系のマクミランの定理は,エルゴード情報源から送信するメッセージの長さを十分大きくすればメッセージ1語当たりの情報量が,情報源の情報量に等しくできることを示している。この定理の一般論は,平均エルゴード定理と見なすことができる。大矢-塚田-梅垣は,富田-竹崎定理と量子確率論における十分性の概念を用いて,古典系のエントロピーの積分表現に関するマクミラン型定理をフォンノイマン代数によって記述される非可換系に拡張できることを示した。この結果は,量子系のマクミランの定理を定式化するための基礎付けを与える研究に関連している。さらに,大矢-塚田-梅垣は,フォンノイマン代数のセンターの概念を用いて,一般的な形で量子系のマクミランの定理の証明を与えている。また,この研究は,状態の分離可能性とも密接に関連し,幾つかの状態が相関した量子エンタングルメントの研究とそのチャネルによる定式化の重要な鍵となると考えられる。さらに,量子平均相互エントロピーの定式化のためには,前年度までに行った量子系の力学的エントロピーの研究の発展が不可欠である。本研究では,上記の研究を基に,(a) 大矢-塚田-梅垣の定理を遷移期待値や条件付期待値を用いて,より一般的な量子系に拡張し,それを用いて量子符号化の定理の証明を試みる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当なし
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