2013 Fiscal Year Research-status Report
エンタングルメントを含むチャネルの特徴付けと量子チャネル符号化の定理の基礎付け
Project/Area Number |
23540162
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
渡邉 昇 東京理科大学, 理工学部, 教授 (70191781)
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Keywords | 量子情報理論 / 量子エントロピー / 量子チャネル / エンタングルメント / 量子チャネル符号化 |
Research Abstract |
昨年度に引き続き上記 (2)の課題に取り組んだ。(b) 量子平均相互エントロピーの定式化を基に,量子系のチャネル符号化の定理の証明に必要な数理的基礎を構築する研究を行った。連続確率分布で記述される通信過程の情報伝送の効率を調べるには,一般的に古典系の相互エントロピー(Kolmogorov-Gelfand-Yaglom)が使用される。ところで,入力状態の情報量は,有限分割のエントロピーでは常に無限大となり,微分エントロピーでは,入力情報量が相互エントロピー以下となり,物理的及び情報理論的解釈が困難になる。この困難さを解決するために,前研究の条件,すなわち,Gauss通信過程のチャネルの(1)線形性,(2)トレース保存性,(3)正規性から,(3)の条件を外した場合に,情報伝送を調べる尺度を量子系のエントロピーと相互エントロピーを用いて定式化した。さらに,力学系の複雑性の尺度にKSエントロピーがあり,その量子系への拡張は,Connes-Stormer,Emch, Connes-Narnhofer-Thirring, Alicki- Fannes (AF), Ohya, Accardi-Ohya-Watanabe(AOW),Kossakowski-Ohya-Watanabe(kOW)等によってなされている。我々は,AOWとAFを含むより一般的な系に対して定められたKOW力学的エントロピーを定式化した。本研究では、(1) 大矢の力学的エントロピーによって導入された平均エントロピーと平均相互エントロピーを用いて量子通信過程を通した力学系に関する複雑性を調べる研究を行った。さらに,(2) AOWとAFを含むより一般的な系に対して定められたKOW力学的エントロピーを用いて,完全正値写像の共役として与えられる量子通信過程を通した力学系に関する複雑性を調べる研究を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,量子系のエントロピー理論と量子チャネル理論の研究を基に,量子チャネル符号化の定理の完全な証明を与えることを最終目標とし,その定式化に必要となる数理的基礎をひとつひとつ積み上げていくことを目的とする。量子通信過程の情報伝送の効率を調べるために量子チャネルや様々な量子相互エントロピー型尺度が導入され研究が行われている。古典連続系の通信過程を取り扱う場合,Kolmogorov-Gelfand-Yaglomの相互エントロピーが用いられる。このとき,入力の情報量は,有限分割のエントロピーでは,常に無限大になり,微分エントロピーでは,入力情報量が相互エントロピーより小さくなる。本研究では,Gauss通信過程に関する前年度までの研究を元に,チャネルの(1)線形性,(2)トレース保存性のもとでエントロピー型汎関数と相互エントロピー汎関数の尺度によって情報伝送を調べる研究を行った。さらに,量子系の力学的エントロピーの研究は,Connes -Stormer,Emch, Connes-Narnhofer -Thirring, Alicki- Fannes (AF), Ohya, Accardi-Ohya-Watanabe(AOW),Kossakowski-Ohya-Watanabe(KOW)等によってなされている.我々は,AOWとAFを含むより一般的な系に対して完全正値写像に関するKOW力学的エントロピーを定式化した。本研究では、(1) Ohyaの力学的エントロピーで定められた平均エントロピーと平均相互エントロピーを用いて量子通信過程を通した力学系に関する複雑性を調べる研究を行った。さらに,(2) AOWとAFを含むより一般的な系に対して定められたKOW力学的エントロピーを用いて,完全正値写像の共役として与えられる量子通信過程を通した力学系に関する複雑性を調べる研究を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度に引き続き上記(1) および (2)の課題に取り組む。さらに,上記 (3)の課題に取り組む。古典系のマクミランの定理は,エルゴード情報源から送信するメッセージの長さを十分大きくすればメッセージ1語当たりの情報量が,情報源の情報量に等しくできることを示している。この定理の一般論は,平均エルゴード定理と見なすことができる。大矢-塚田-梅垣は,富田-竹崎定理と量子確率論における十分性の概念を用いて,古典系のエントロピーの積分表現に関するマクミラン型定理をフォンノイマン代数によって記述される非可換系に拡張できることを示した。この結果は,量子系のマクミランの定理を定式化するための基礎付けを与える研究に関連している。さらに,大矢-塚田-梅垣は,フォンノイマン代数のセンターの概念を用いて,一般的な形で量子系のマクミランの定理の証明を与えている。また,この研究は,状態の分離可能性とも密接に関連し,幾つかの状態が相関した量子エンタングルメントの研究とそのチャネルによる定式化の重要な鍵となると考えられる。さらに,量子平均相互エントロピーの定式化のためには,前年度までに行った量子系の力学的エントロピーの研究の発展が不可欠である。この研究は,状態の分離可能性とも密接に関連し,幾つかの状態が相関した量子エンタングルメントの研究とそのチャネルによる定式化の重要な鍵となると考えられる。さらに,量子平均相互エントロピーの定式化のためには,前年度までに行った量子系の力学的エントロピーの研究の発展が不可欠である。本研究では,上記の研究を基に,(a) 大矢-塚田-梅垣の定理を遷移期待値や条件付期待値を用いて,より一般的な量子系に拡張し,それを用いて量子符号化の定理の証明を試みる予定である。
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