2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540221
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
小森 洋平 大阪市立大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (70264794)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 国際研究者交流 |
Research Abstract |
タイヒミュラー空間のサーストン・コンパクト化は、その位相的単純さに加え、写像類群が境界まで作用することや、境界の局所線形構造や、境界が射影的測度付測地線層と解釈できることなど、とても興味深い対象である。しかしタイヒミュラー空間のサーストン・コンパクト化は無限次元実射影空間内に埋め込まれているため、その解析が容易ではない。そこでタイヒミュラー空間の次元プラス1個の単純閉測地線の自由ホモトピー類をうまく選んで、サーストン・コンパクト化を有限次元実射影空間内の閉領域、具体的には境界の局所線形構造から定まる多面体として実現できるかという問題を考えたい。これが実現できれば、多面体への写像類群 の作用が具体的に書ける可能性があり、写像類群の力学系の観点からも重要な問題と思われる。申請者と Gendulphe(フリブール大学)は上記のようなサーストン・コンパクト化の多面体としての実現について、2次元と3次元の場合に解決した。よって高次元の場合が課題であったが、今年度の研究により、穴あきトーラスと3つのカスプ付きの穴あき円板のタイヒミュラー空間の間に自然な同型対応があることをみつけた。その応用として種数が1以上、または3点以上のカスプを持つような穴あきリーマン面のタイヒミュラー空間については、タイヒミュラー空間の次元プラス1個の単純閉測地線の自由ホモトピー類をうまく選んで、タイヒミュラー空間自身を有限次元実射影空間内の多面体の内部領域として実現できた。しかしこの構成では境界のどの部分で退化が起こっているか不明であるし、上記のトポロジーの制限を除けるかどうかは未解決のまま残った。よって次年度以降この問題について考察を続けて行きたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時の研究目標の3本柱として、「サーストン・コンパクト化の多面体としての実現問題」、「タイヒミュラー空間内の測地線の、境界への漸近挙動」、「実スペクトラム・コンパクト化とサーストンコンパクト化の比較」の3つを掲げていた。先に挙げたサーストン・コンパクト化の多面体として実現問題に関しては、これまでの低次元の場合の結果に加え、今年度の研究により円板から有限個のカスプや穴を除いたリーマン面のタイヒミュラー空間以外の場合についても、タイヒミュラー空間の次元プラス1個の単純閉測地線の自由ホモトピー類をうまく選んで、タイヒミュラー空間自身を有限次元実射影空間内の多面体の内部領域として実現できた。よって次年度以降この残された場合について考察を続けて行きたい。しかしもう1つの研究課題である「タイヒミュラー空間内の測地線の、境界への漸近挙動」については研究が進まなかった。次年度以降では、極値的長さから定まるガーディナー・メイザー 境界の研究を活発に行っている宮地秀樹准教授(阪大)と議論を重ねることで、タイミュラー測地線やヴェイユ・ピーターソン測地線や lines of minima, grafting rays のガーディナー・メイザー境界への漸近挙動を調べたい。このことはガーディナー・メイザー境界とサーストン境界の比較という観点からも興味 深く、リーマン面の退化を研究する上からも重要な問題であると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究で進展のあった「サーストン・コンパクト化の多面体としての実現問題」については、次年度に学会等において結果の公表および専門分野の研究者との意見交換を行いたい。また円板から有限個のカスプや穴を除いたリーマン面のタイヒミュラー空間の場合について、タイヒミュラー空間の次元プラス1個の単純閉測地線の自由ホモトピー類をうまく選んで、タイヒミュラー空間自身を有限次元実射影空間内の多面体の内部領域として実現する問題が未だ残されているので、次年度中にこの問題の解決を図りたい。具体的にはデンマーク Aarhus 大学およびフランス Marseille で開催される国際研究集会への参加および講演を通じて、専門分野の研究者との意見交換を積極的に行い、解決の糸口をみつけたい。また同時期に共同研究者の Papadopoulos 教授(Strasbourg 大学)とKellerhals 教授(Fribourg 大学)を訪問して共同研究を行う。もう1つの研究目標である「タイヒミュラー空間内の測地線の、境界への漸近挙動」については、今年度は個人での研究では進展しなかったので、次年度からは宮地秀樹准教授(阪大)との共同研究に形体を変える予定である。具体的には次年度前半は宮地氏との研究連絡を通して、極値的長さから定まるガーディナー・メイザー 境界に関する宮地氏の研究を理解することに努める。そして後半ではタイミュラー測地線やヴェイユ・ピーターソン測地線や lines of minima, grafting rays のガーディナー・メイザー境界への漸近挙動について宮地氏との共同研究を行う。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請時の研究目標の1つである「サーストン・コンパクト化の多面体としての実現問題」については、今年度の研究成果を以下の2カ所での国際研究集会で発表し、専門分野の研究者との意見交換を行うために科学研究費を使用する。8月にデンマーク Aarhus 大学で開催される国際研究集会 PROGRESS IN LOW-DIMENSIONAL TOPOLOGY: TEICHMULLER THEORY AND 3-MANIFOLD GROUPSで講演を行う。11月にフランス Marseille で開催される日仏共同セミナー「表現の理論に関連した側面からみた低次元トポロジーと3次元位相不変量」で講演を行う。また上記の海外出張の機会を利用して、共同研究者の Papadopoulos 教授(Strasbourg 大学)と Kellerhals 教授(Fribourg 大学)を訪問して、タイヒミュラー空間のサーストン・コンパクト化および、多面体の実現問題についての共同研究を行う。もう1つの研究目標である「タイヒミュラー空間内の測地線の、境界への漸近挙動」については、今年度研究が進まなかった主な原因として研究交流の少なかった点を反省し、宮地秀樹准教授(阪大)を頻繁に訪問し、極値的長さから定まるガーディナー・メイザー 境界の宮地氏の研究を理解し、タイミュラー測地線やヴェイユ・ピーターソン測地線や lines of minima, grafting rays のガーディナー・メイザー境界への漸近挙動を調べたい。このように次年度は科学研究費の主な使用目的が研究発表および研究連絡のための旅費になる予定である。また今年度購入したパソコンで使用するソフト(主にタイヒミュラー空間や極限集合などのフラクタル図形を描くためのグラフィック用ソフト)やマニュアルにも科学研究費を用いる。
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Research Products
(7 results)