2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540221
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
小森 洋平 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 教授 (70264794)
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Keywords | 複素解析幾何 / 幾何学的群論 |
Research Abstract |
タイヒミュラー空間のサーストン・コンパクト化は、その境界点が射影的測度付測地線層として幾何的に理解できることから、境界の局所線形構造や位相的構造についての深い研究が行われてきた。また写像類群が境界まで作用することから、写像類群を調べるための土壌の役割も果たしている。しかしタイヒミュラー空間のサーストン・ コンパクト化の構成には無限次元実射影空間への埋め込みを経由する必要があり、そのために解析が容易ではなかった。本研究の目標は、タイヒミュラー空間の次元プラス1 個の単純閉測地線の自由ホモトピー類をうまく選ぶことで、サーストン・コンパクト化を有限次元実射影空間内の多面体として実現し、多面体への写像類群の作用を局所線形写像として具体的に記述することである。初年度において申請者とGendulphe(ローマ大学)はサーストン・コンパクト化の多面体としての実現について、2次元と3次元の場合に解決した。より一般の場合については今年度の研究により、球面から2点以下の点と1つ以上の円板を除いた双曲型リーマン面以外の有限型リーマン面のタイヒミュラー空間について、 タイヒミュラー空間自身を有限次元実射影空間内の多面体の内部領域として実現できることを構成的に示した。しかしこの構成においてサーストン境界が忠実に表現されているかや、退化の様子についての双曲幾何による研究は進まなかった。そこでタイヒミュラー空間の境界の研究については複素解析幾何の手法を用いて、トーラスの2重分岐被覆で得られる種数2のリーマン面の退化族を具体的に構成してその正則切断をすべて決定した。またタイヒミュラー空間と同一視できる、1点穴あきトーラスの擬フックス群の変形空間の新しい線形スライスの境界を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請時の研究目標の3本柱として、「サーストン・コンパクト化の多面体としての実現問題」、「タイヒミュラー空間内の測地線の、 境界への漸近挙動」、「実スペクトラム・コンパクト化とサーストンコンパクト化の比較」の3つを掲げていた。そのうちの「サーストン・コンパクト化の多面体としての実現問題」に関しては、球面から2点以下の点と1つ以上の円板を除いた双曲型リーマン面以外の有限型リーマン面のタイヒミュラー空間について、 タイヒミュラー空間の次元プラス1個の単純閉測地線の自由ホモトピー類をうまく選んで、タイヒミュラー空間自身を有限次元実射影 空間内の多面体の内部領域として実現できることを構成的に示した。しかしサーストン境界がどのくらい忠実に実現されているか、退化している部分の特徴付けが出来るかについての進展がなかった。その理由として境界点である射影的測度付測地線層に関する理解が不足していた点が挙げられる。よって共同研究者である宮地秀樹准教授(阪大)と議論を重ねることで、次年度以降この除外されたリーマン面の場合についてのタイヒミュラー空間の実現問題と平行して、サーストン境界の退化の様子の双曲幾何による考察を続けて行きたい。その一方複素解析幾何の手法を用いて、トーラスの2重分岐被覆で得られる種数2のリーマン面の退化族を具体的に構成してその正則切断をすべて決定した。また1点穴あきトーラスの擬フックス群の変形空間の部分多様体として、以前に山下靖教授(奈良女子大)と共同研究を行った線形スライスとは別の新しい線形スライスを考察し、それがタイヒミュラー空間と同一視できることを示した。このようにタイヒミュラー空間の境界の研究の手法が変わったことが、当初の研究目標の達成の速度が遅くなっている理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究で進展のあった「サーストン・コンパクト化の多面体としての実現問題」については、次年度に学会や研究集会等において結果の公表および専門分野の研究者との意見交換を行いたい。またタイヒミュラー空間が多面体として実現できた場合についても、サーストン境界の退化の様子がまだよく分かっていないので、共同研究者である宮地秀樹准教授(阪大)と研究連絡を頻繁に行い、射影的測度付測地線層に関する議論を重ねることでサーストン境界の退化の様子についての理解を深めたい。球面から2点以下の点と1つ以上の円板を除いた双曲型リーマン面のタイヒミュラー空間の場合について、タイヒミュラー空間の次元プラス1個の単純閉測地線の自由ホモトピー類をうまく選んで、タイヒミュラー空間自身を有限次元実射影空間内の多面体の内部領域として実現する問題が未だ残されているので、次年度中にこの問題の解決を図りたい。具体的には7月にミッタク・レフラー研究所で開催される国際研究集会への参加および講演を通じて、専門分野の研究者との意見交換を積極的に行い、新たなアイデアについて考察したい。また新たに派生した研究テーマである種数3以上のリーマン面の退化族の構成およびその正則切断の決定については、9月に河澄響矢准教授(東大)が主催するリーマン面の研究集会への参加および講演を行う機会に、専門分野の研究者との意見交換を積極的に行うことで解決の糸口をみつけたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
申請時の研究目標の1つである「サーストン・コンパクト化の多面体としての実現問題」については、今年度の研究成果を7月にミッタク・レフラー研究所で開催される国際研究集会で発表し、専門分野の研究者との意見交換を行うために科学研究費を使用する。秋以降に共同研究者のGendulphe講師(Roma 大学)およびKellerhals 教授(Fribourg 大学)を招聘して、タイヒミュラー空間のサーストン・コンパクト化の双曲幾何からの研究および多面体としての実現問題についての共同研究を行う。両氏の招聘費用に科学研究費を使用する。特にサーストン境界の退化の様子については、宮地秀樹准教授(阪大)と直接会って頻繁に研究連絡を行い、射影的測度付測地線層に関する議論を重ねることでサーストン境界についての理解を深めたい。また新たに派生した研究テーマである種数3以上のリーマン面の退化族の構成およびその正則切断の決定については、9月に河澄響矢准教授(東大)が主催するリーマン面の研究集会への参加および講演を行う機会に、専門分野の研究者 との意見交換を積極的に行うことで解決の糸口をみつけたい。これらの国内旅費にも科学研究費を使用する。 このように次年度は科学研究費の主な使用目的が研究発表および研究連絡のための旅費になる予定である。また研究発表や議論を円滑に行うために必要なプロジェクタおよびパソコンの周辺機器の購入にも科学研究費を用いる。
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Research Products
(7 results)