2011 Fiscal Year Research-status Report
高時間分解高分散分光観測に基づく星震学の新しい展開
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23540260
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柴橋 博資 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (30126081)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | 恒星物理学 / 恒星脈動 / 恒星スペクトル / 恒星大気 / 国際情報交流(英国) |
Research Abstract |
A 型特異星は、希土類等の元素が異常に多く見られる特異な星であり、また、主系列星として数キロガウスもの強い磁場を有する唯一の星のクラスであるため、天体の化学進化と磁場を研究する上で重要な対象天体である。星の表面化学組成の水平分布が非一様であるためにスペクトルが変動し、また、磁場は自転軸に傾いているために磁場強度が変動するのだと考えられている。A 型特異星の研究の歴史は古いが、それが星震学という新しい学術研究手法により新たな局面を迎えている。星震学における振動の検出は、高精度測光観測によるものと高分散分光観測によるものとがある。後者は、スペクトル線のドップラー効果による波長のシフトを測定するのが普通だが、化学組成水平分布が非一様であったり、振動のパターンが球対称ではない場合には、単にシフトするのではなくスペクトル線のプロファイルが変化をする。A 型特異星の場合は振動周期が基本周期に比べて極めて短い高調波であるために、振動の動径方向の波長がスペクトル線形成層の薄さに匹敵する程短く、有限の厚さを考慮せねばならない状況となり、そうすることによって星震学によるこの手法でしか探れない研究が出来る。この様な背景の下、水平方向と深さ方向の振動速度場を考慮に入れたスペクトル線のプロファイルを使った星震学の新たな方法を確立するために、まず平行平面大気における振動速度場を仮定して、それぞれの吸収線スペクトルプロファイルがどのような変動を示すかを計算出来るようにし、順問題としての取り組み方を確立させた。次いで、A型星についての現実的モデル大気を構築し、バルマー系列とネオジムの吸収線プロファイルを計算できるようにした。磁場は無視したままで固有モードを計算して、そのドップラー効果によるスペクトル線プロファイルの変動を追えるようにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成23年度の計画はほぼ順調に進展した。研究成果は、日本天文学会欧文研究報告に掲載された。
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Strategy for Future Research Activity |
ここからの発展は2方向ある。一つは、A型特異星を扱うために磁場の影響を扱えるようにすることである。もう一つは、逆問題としての取り組みである。平成24年度は、このうちのA型特異星の磁場の脈動への効果の定式化を進め、非軸対称モードまで取り扱える様に拡張する。そして、磁場の影響を特異摂動論で記述し、星表面近傍を境界層問題として解析的・数値的に扱うことを試みる。また、質量や進化過程の異なる星を扱い、色々な元素のスペクトル線を扱える様に拡張する。更に、観測に見られる特徴的なスペクトル線の変動を説明することを目的として、A型星大気上層に伝わる衝撃波によるスペクトル線の変動を追える様にする。当初の研究計画にはないが、連星中の脈動星の振動数変調に着目して、そこからどんな情報が得られるかを研究することを新たに加える。また、スペクトル線変動の研究を応用して、B型星の活動機構についての理論的研究を新たに加える。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
海外研究協力者との研究の擦り合わせを行なうために、招聘旅費として一部を使用する。また、国内外での研究発表のために旅費を使用する。論文の投稿費にも使用する。また、計算機環境を整えるために備品を購入する。
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