2011 Fiscal Year Research-status Report
太陽大気での磁気リコネクション現象におけるエネルギー輸送の観測的研究
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23540278
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Research Institution | Japan Aerospace Exploration Agency |
Principal Investigator |
清水 敏文 独立行政法人宇宙航空研究開発機構, 宇宙科学研究所, 准教授 (60311180)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2015-03-31
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Keywords | 太陽 / 磁気リコネクション / 浮上磁場 / 太陽黒点 / 高解像度観測 / 紫外線 / 分光器 |
Research Abstract |
本研究課題は、「磁気リコネクション」「磁気的波動」などによる太陽大気でのエネルギー輸送を観測的に理解することを目的として、3つの小課題に取り組んでいる。以下に各小課題における研究実績をまとめる。小課題(1) 2009年12月30-31日に「ひので」可視光磁場望遠鏡が連続観測に成功した大規模な磁気浮上活動について解析研究を推進した。磁気浮上活動は、太陽表面に黒点群を形成する重要な物理プロセスである。半暗部の無い小黒点(ポア)から半暗部をもつ黒点に成長する過程は特によくわかっていなかったが、本解析の結果、小黒点の誕生直後に、小黒点をとりまく半暗部に相当する構造(前駆構造)が、小黒点のある光球ではなくその上空の彩層で既に形成されていることを発見した。半暗部を伴う黒点の磁場構造を造る仕組みの理解に向けて、上空の彩層における磁場構造や物理診断が重要であることを示した。黒点は太陽面にはり付いた構造であり、密度の高い光球でまず構造が作られ、その結果として上空の彩層構造がつくられる、というのが従来の自然な考え方であった。今回の発見は、これを覆し、黒点の形成過程は彩層も含む立体的な磁場構造の成長過程として捉えなければならないことを明らかにした。また半暗部の前駆構造の発見は、フレア爆発などを引き起こす活動領域の発達を予測するのに役立つかもしれない。課題(2) 5000フレーム/秒のコリレーショントラッカーの実現に向けて、CMOS素子の性能検討、さらに検討を要する技術的要素およびその検討方法について、メーカ技術者との議論をもとに机上検討を進めた。課題(3) 高スループットの紫外線分光装置の科学課題および要求する性能について、欧州の協力研究者との討議を行い深めていった。特に、遷移層とコロナの境界にあるNe VIIラインの観測可能性について技術的に可能であることを明確化させた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
課題(1)および課題(3)は当初の予定どおりに進捗しているが、課題(2)の実施はやや遅れが発生している。数1000フレーム/秒の高速読み出しが可能であるCMOS素子については、欧州のCMOSメーカで宇宙機搭載にも発展可能な民生品があることが調査で判明し、またその国内代理店との調整によって、デモ品を用いた性能評価を無償にて行った。デモ品の処理回路が低速読み出しの機能のみを有するため、低速読み出しの条件下で、CMOS素子自身の特性評価に特化させた評価を実施し、カタログに記載された以上の性能(ノイズレベルなど)があることを確認した。次に、要素技術として特定した高速読み出しで得られた画像のリアルタイム処理について、国内メーカの技術者と協議を行い、要素技術のための試作および評価方法について検討を進めた。ほぼ方針が固まり、具体的な試作に向けた検討の段階に入るところまで進捗した。しかし、その後2012年1月に、回路試作検討に入るための契約に関して進めることができない事情が発生したため、今後の試作検討について再検討が必要となった。
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Strategy for Future Research Activity |
課題(1) 2009年12月30-31日の磁気浮上活動の観測に関して、「ひので」可視光磁場望遠鏡からのデータに関する解析に加えて、「ひので」X線望遠鏡および極紫外線分光装置が取得した太陽コロナの同時データを解析する。磁気浮上活動に伴って、彩層の加熱やガス噴出が発生することが可視光磁場望遠鏡のデータから明らかとなっているが、X線および紫外線装置からのデータから、上空のコロナでもマイクロフレアが頻繁に発生していることが分かっている。マイクロフレアによって発生する高温プラズマとそのダイナミックスについて調べる予定である。これによって、「磁気リコネクション」現象としてのマイクロフレア発生において、エネルギー輸送が彩層~コロナでどのように行われているかが初めて観測的に分かってくるものと期待している。課題(2) 「コリレーショントラッカー」のCMOS素子から高速読み出しされる画像をリアルタイムに画像処理する高速処理回路の回路設計を、メーカ技術者の協力を得て実施する。昨年度協議を行った国内メーカに加え、別の国内メーカとも開発に向けた協議を進め、処理回路の回路設計に着手したい。また、処理回路の評価に向けた実験の準備も平行して進める。課題(3) 欧州および米国の協力研究者と議論を継続させ、日本が検討をしている次世代太陽観測衛星に搭載を目指して、紫外線分光装置の科学的および技術的な検討を進める。8月までに紫外線分光装置の基本的性能の骨子を固め、その提案文書ドラフトを準備する。その後、9月ころにドイツに渡航して、欧州の協力研究者とドラフト文書を用いた具体的な討議を行い、提案できるレベルの装置案に仕上げる予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「今後の研究の推進方策」に基づき、本年度において以下の予定で研究費を使用する。課題(1) 観測データの解析およびその解釈を進めるために必要となるノート型コンピュータ1台(~25万)を購入する。課題(2) 高速処理回路の回路設計を国内メーカの技術者と共同で行う。この共同設計のために、国内メーカ1社と設計開発に関して契約(~150万)を結び、検討を進める。順調に進めば、設計した回路を実装した基板の製作(製作メーカにて実装)に進む予定である。また、計測に必要なデータロガー1台(~20万)などを購入して、処理回路の評価に向けた準備を進める。課題(3) 9月に約1週間~10日間ドイツに渡航すること(~30万)を計画する。
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