2011 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
23540281
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
隅野 行成 東北大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (80260412)
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Project Period (FY) |
2011-04-28 – 2014-03-31
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Keywords | LHC実験 / ハドロンコライダー / 質量測定 / 高精度測定 / ヒッグス粒子 / 高次輻射補正 |
Research Abstract |
現在スイスのCERN研究所では高エネルギーフロンティアのLHC実験が行なわれており、まもなくヒッグス粒子の発見が期待されるなど、目覚ましい成果を上げつつある。今年度の私の研究では、LHC実験で粒子の諸性質を高精度で測定するための新しい観測量を考案し、提唱した。また、ヒッグス粒子の質量の測定にこの方法が応用できることを示した。LHC実験は陽子陽子衝突型実験であるために、粒子の諸性質を高精度で測定するには困難がある。主にその要因は(1)素粒子レベルでの始状態の衝突の重心系が分からない。またパートン分布関数の不定性が大きい。(2)終状態にジェットが含まれる場合、そのエネルギー運動量を精度良く測定することが難しい。(3)しばしば終状態には直接測定不能な運動量欠損が含まれ、それの間接的な再構成を精度良く行うことは難しい、などである。そこで本研究では、終状態に含まれるレプトンのエネルギー分布のみから、親粒子の速度に依らずに親粒子の性質を測定する新しい方法を開発した。そしてモンテカルロシミュレーション解析によって、ヒッグス粒子の質量測定にこの方法を応用でき、5~7%程度の測定誤差で質量を決定できると推定されることを示した。特に、系統誤差を小さく抑えることが可能であることを示した。また、LHCにおけるクォーコニウムの物理に必要な高次輻射補正の解析的計算法を開発した。微分方程式と積分の簡約化法との組み合わせにより、これまで評価が困難であった複雑なループ積分を、逐次的に評価していく方法を開発した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、親粒子(特にトップクォーク)の速度依存性を小さく抑えながら親粒子の質量を測定するための方法を考案する、ということであった。今年度の私の研究では、(原理的には)親粒子の速度に全く依存しないオブザーバブルを一般的に構成することに成功した。しかもそのようなオブザーバブルは無限個存在し、かつ具体的に構成できることを示した。このようなオブザーバブルの存在は以前は知られておらず、概念的に新しい。また、開発した測定方法は、トップクォークに限らず親粒子の偏極の効果が無視できる場合の一般の粒子に適用できる、或いは、質量以外の物理量の測定に適用できるなど、当初の研究計画を含みつつ、より広い範囲に適用可能である。そのため、現状ではLHC実験の最も重要なターゲットであるヒッグス粒子の性質の解明にも応用できる。これらの状況は、当初の計画の目標を有意に凌ぐと言える。また高次輻射補正計算の進捗状況については、概ね当初の計画通りと言える。Mellin-Barnes法が上手く行かなかったという状況が生じたが、代替手段として微分方程式と積分の簡約化法を組み合わせるという方法を開発し、これまで順調に計算が進んでいる。これまで多くのトップエキスパートの研究者が挑戦しながら達成できていない計算なので、元々多少の計算手法の修正や開発は想定内である。まだ未発表ではあるが、既に多くの技法を開発し、それを用いて計算を進めている。これらの新しい計算技法の開発の価値も高いと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に考案したオブザーバブルを用いて、LHC実験におけるヒッグス粒子・トップクォークなどの諸性質の高精度測定に応用する。モンテカルロシミュレーション解析により、定量的な解析を行なう。また実験家と共同でより現実的な応用法を探索する。具体的には、まずgluon-gluon fusionモードを用いたヒッグス粒子の質量再構成を解析する。今年度はよりクリーンだが低統計のvector-boson fusionモードの解析を行ったが、期待通り系統誤差が小さいことを示すことができたので、より複雑だが高統計のgluon-gluon fusionモードで解析することは重要である。またヒッグス粒子とτ粒子の湯川結合の測定への応用を調べる。次にトップクォークの質量再構成に応用する。既にトップの偏極による乱れの効果が小さいことを示した。望まれる百MeV程度以下の精度でトップクォークの質量を測定することが可能となるかどうかを精査する。第1に全てのトップクォークイベントを用いて高統計で調べる。第2にthreshold近傍のイベントを用いて、トップ1S共鳴状態のエネルギーレベルから、(低統計ではあるが)よりクリーンな方法で高精度の測定が可能かどうかを調べる。高次輻射補正計算の完成を目指して引き続き計算を進める。現在使っている微分方程式と積分の簡約化法を組み合わせた方法が上手く機能すれば、今年度中に計算が完成すると期待される。計算ミスを防ぐため、注意深く検算を行なう。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
トップクォーク、ヒッグス粒子などに関するLHC実験の最新データ及び最新の実験状況の情報を得るために、国内外の研究会に頻繁に出席することが重要である。また、CERN(スイス)及び国内(神戸、東京、つくばなど)のLHC実験家のもとを訪ねて情報交換を行ない、共同で議論を重ね、より実践的かつ効率的なオブザーバブルの応用法を開発する。特に現状では、ヒッグス粒子が今年度中に発見される可能性が高いため、現在ヒッグス粒子の解析の重要性が増している。海外共同研究者である台湾大学の横谷氏を訪問、或いは招聘して、オブザーバブルを用いた粒子の諸性質の解明法の開発・解析を行う。研究計画で予定している研究成果は、現在多くの研究者が注目するホットなテーマであり、国内外の研究会議で積極的に発表する予定である。これらの目的のための旅費として研究費を使う。研究成果のデータ整理及び発表用に、プレゼンテーション用ソフトウェア、及びタブレット型端末を購入する。上記の、粒子の諸性質の測定法開発用の(LHC実験環境を取り入れた)モンテカルロシミュレーション解析には、コンピューターを用いた大規模計算が不可欠である。一方、現在進行中のクォーコニウムの高次輻射補正計算では、別途高速計算機と巨大メモリ、及び高性能代数計算用ソフトウエアが必要である。最新の高性能コンピューター、大容量記憶装置などの周辺機器、及び計算ソフトウェアを研究費で購入する。
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