2012 Fiscal Year Research-status Report
超新星元素合成とニュートリノ観測から見る超新星ニュートリノ自己相互作用の効果
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23540287
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
吉田 敬 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任研究員 (80374891)
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Keywords | 超新星 / ニュートリノ / 元素合成 |
Research Abstract |
ニュートリノ自己相互作用の計算を行うコード開発については、ニュートリノ放出の角度依存性を考慮した計算方法(multiangle計算)を試みているがまだ開発途中の段階である。自己相互作用のより基礎的なところからの定式化と拡張については主に連携研究者の高村明氏、研究協力者の木村恵一氏が相対論的量子力学を用いて進めている。 10~12太陽質量という大質量星の中では比較的軽い超金属欠乏星が進化した超新星の輻射He層におけるニュートリノ元素合成を原因とするr-processについて調べたが、この環境ではr-processは十分に進まないことが得られた。理由としては恒星進化の違いが考えられる。我々のモデルではHe shell燃焼において対流He層が形成されたが、r-processが進むとされる恒星進化モデルでは対流He層があまり形成されず輻射He層の半径が小さくなる。そのため,これらの星でのr-processの進行は現実的ではないと考えられる. 非常に明るい超新星であるSN 2007biは3太陽質量以上の放射性核種56Niを生成したと考えられ、電子対生成型超新星の可能性が指摘されている。一方、この爆発は巨大質量星が進化した重力崩壊型超新星でも説明できる。そこで我々は巨大質量星が進化した重力崩壊型超新星における56Ni生成量をより詳細に調べた。我々は110、250太陽質量の星が進化した43、61太陽質量のウルフレイエ星について超新星爆発と爆発的元素合成の計算を行い、生成される56Niの量を調べた。その結果、球対称爆発では爆発エネルギーが2e+52 erg以上の爆発でSN 2007biで推定される56Niの量を説明できることが得られた。一方、非球対称爆発の場合には比較的球対称に近い爆発でないとSN 2007biで推定される56Niの量を説明できないことがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
ニュートリノ自己相互作用のコード開発については残念ながらあまり進んでいない。ニュートリノ自己相互作用によるニュートリノフレーバー変換のコードを開発中であるが、より詳細に計算するためニュートリノ放出方向の角度依存性を考慮する点で開発が難航している。コード開発に対する時間を十分にとれず試行錯誤が十分できなかったことが原因として挙げられる。豊田工業高専の高村明氏、名古屋大学の木村恵一氏、東京大学の川越至桜氏とはニュートリノ自己相互作用の定式化と新しい効果についての議論を定期的に行っている。これについてはまだ結果をまとめるには至っていないものの、着実に進んでいる。 昨年度、超金属欠乏星が進化した超新星でニュートリノ反応が起因するr-processが指摘された。そこで本年度は恒星進化計算、超新星爆発計算、r-processに対応した核反応ネットワークを用いた元素合成計算を行い、r-processがどの程度進行するかについて調べた。その結果、このニュートリノ過程ではr-processは十分に進行しないことが得られた。そのため、ある程度結果が得られたところでこの研究を終えることにした。恒星進化計算を詳細に調べたところ、この原因はr-processを十分に進行させるために必要なニュートリノfluxを出すにはr-processが進行する領域の半径が小さくなる必要があり、多くの星ではこの条件を満たすことができないためである。 ニュートリノ元素合成の元データとなる恒星進化コードの開発については、広い質量、重金属量範囲で重力崩壊直前まで計算できるところまでコード開発が進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、ニュートリノ自己相互作用によるニュートリノフレーバー変換を解くコードを完成させることを目指す。これまで考慮されていなかったニュートリノ放出方向の角度依存性を考慮したニュートリノ自己相互作用の効果を取り入れるようにコードを拡張する。それと並行して、引き続きニュートリノ自己相互作用の定式化を行い、ニュートリノ振動に対する自己相互作用の新しい効果がないかを調べる。最終的には定式化から求められた自己相互作用の効果を数値計算で確かめられるようにしたい。また、ニュートリノ自己相互作用の効果を考慮したνp-processにおける元素合成について調べる。これについてはneutrino driven-windsにおける温度、密度変化、原始中性子星から放出されるニュートリノのエネルギースペクトルについても考慮しながら調べる。そして、質量階層、ニュートリノの光度やエネルギースペクトル、wind物質の電子モル分率等に対するνp-processの進み方に対する依存性について調べる。 今後の計算のためνp-processとr-processの計算に必要な核反応ネットワークにおける断面積のデータを更新する。特に、r-process計算で重要となるfissionの効果をネットワークに取り入れたい。 超新星爆発の計算の初期条件として重要な進化した大質量星の構造を求めるため、引き続き大質量星進化コードの開発を行う。今年度はこれまで以上にさまざまな星の質量、金属量の星について安定して進化計算ができるようにコードを改良する。また、回転大質量星の進化コードについても安定して計算ができるようにコードを改良する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は元素合成に関する研究成果を国内および国際会議で発表し、議論する予定である。そのため、国内および海外旅費を申請する。6月に大質量星の進化に関する国際会議で超新星元素合成に関する成果を発表する予定である。 本年度も前年度に引き続き高村、木村、川越氏と継続的に議論を行う。私が京都に異動し、高村、木村氏は名古屋、川越氏は東京を研究拠点としているため、お互いに集合して議論する。また、恒星進化と超新星における元素合成については東京大学の梅田氏と議論する。これら議論のため移動するのに必要な国内旅費を使用する。 前年度はあまり性能が上がった計算機が出なかったため計算機の購入を見合わせた。そこで、今年度はニュートリノ振動、大質量星の進化および超新星爆発、元素合成等の計算をするために新しい計算機を購入する。また、これらの計算結果を解析するには大量のデータを保存する必要がある。データ解析を効率よく行うための計算データ保存用に数TBのRAIDシステムを購入する。 研究成果を論文として発表する時には論文投稿料を研究費から支出する。
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Research Products
(7 results)